第5話 本当の戦場

キラーが言う。

「目的地はそろそろか? まだレーダーに映らねー」

そんなに戦いが楽しみか、キラーよ。んっ、一機、二機、三機……。レーダーに反応している。アイカもがく然としている。千機ぐらいいそうだ。数えるのも止めだ。これが本当の戦場か。タクティクスの授業でやった集団戦か。クワン族は、Bクラスまで投入している。それだけヤツラは本気ということか。しかし、こちらにも百機以上はいる。

味方の兵士が口々に言う。

「あれがカメタとキラーか」

「ロランの再来と言われる二人か……」

「カメタの妹もいるぞ」

えっ。ロランさんの再来だって。ロランさんはローラ先輩の兄さんで、最強の冒険者と言われている。ロランさんの勇ましい伝説は、数多く残っているらしい。僕達は、そんなに噂になっていたのか……。

味方の兵士が言う。

「敵が来る。集中しろよ、みんな」

これが集団戦か。こちらが数で負けている。攻めこんでいるんだから、不利は当たり前かな。アイカが言う。

「私の扱い、凄く小さいですね。でも、まあ頑張ります」

アイカも結構活躍してきたはずなんだけど……。

僕は、変幻を巨大化させる。それを見た敵が言う。

「あれが変幻か。まぐれで出来た名刀と言われている。気をつけないといけないな」

義理の父さん、クワン族にメチャクチャ言われているよ。パーツショップも、もう少し頑張って貰いたいものだ。まあ、趣味でやっているようなものらしいけどね。もしかして、僕らは敵にマークされているのではないか?

キラーは急接近を使い、敵の一機を撃破する。そんなことをしていては、体力がもたないぞ、キラー。数を考えろ。キラーは叫んでいる。

「殺せ! 殺してやる!」

味方のささやきが聞こえる。

「キラーは、噂以上にいかれているな」

とにかく僕は、敵の密集しているところを狙おう。探すんだ。アイカが、歌で味方を援護している。縁の下の力持ち、といったところだな、アイカは。僕は密集しているところを見つけ、突撃を試みる。無数のビームが飛び交う。凄い戦闘だ。僕もすぐに、ガードモードに切り替える。しかし、ガードばかりでは敵の数は減らせない。アイカがバリアを張る。そして言う。

「兄さん、遅れてすみません」

僕は無言でうなずく。ここで反撃だ。僕はビームを乱射する。

バリアが遂に破壊された。んっ、なんか騒がしいぞ。何が起きたんだ? 味方が言う。

「あれはカメなのか?」

敵が言う。

「何をする気だ?」

カメだと? まだ、いたのか……。二十機くらいが投入されている。そのカメ達は、僕らの味方もクワン族も見さかいなく攻撃してくる。クワン族の敵でもあるのか……。もしかして、協力した方がいいんじゃないか。それが出来ていたら、戦争になどならないか。ここにいるおよそ全ての人間とクワン族が、この状況に戸惑っている。カメを攻撃すべきか戸惑っている。第三勢力が出てくる状況は、タクティクスの授業でも教わっていない。キラーは、そんなことは迷わずに、適当に攻撃している。間違っても、味方は攻撃するなよキラー。

どちらにせよ、ここはこの地を占領したいところだ。こうなればカメは無視だ。クワン族を潰すんだ。すると、カメ達はこちらにビームを集中してくる。うっとうしいな。これが集団戦、本当の戦場か。僕達は、まだそれに慣れていない。キラーは器用に戦っている。味方の兵士が言う。

「カメはガードが堅いぞ」

敵の兵士も叫んでいる。

「もう。どうにでもなれ!」

戦場はかなり混乱している。先にカメを見つけていなければ、僕もひどい状況だっただろう。

どれほどの時間が経っただろうか? みんな、疲労が貯まっているようだ。隊長が言う。

「撤退だ」

ここで撤退か。賢明な判断だろう。しかし、キラーが言う。

「オラオラ、俺はまだまだやれるぞ」

隊長は言う。

「命令だ、従え!」

「きさま、死にたいか」

「隊長命令だ!」

隊長は、言葉とは裏腹に青ざめている。僕は言う。

「行くぞ、キラー!」

アイカが言う。

「ああは、なりたくないですね」

そう簡単に占領なんて出来ないか。カメの軍団の参入で、面倒なことになってきた。

次の任務は何だろうな? とにかく、今は休みたい。僕はカメットの中で眠っていた。敵がいつ出没してもおかしくない状況だ。アイカがレーダーチェックを行っていた。アイカが言う。

「起きて、兄さん、疲労さんも!」

僕達はアイカに起こされる。キラーが言う。

「敵襲だな。相手は、青オニと赤オニらしいな。今度こそ仕留める!」

アイカが言う。

「ここは逃げましょう」

敵はまだ、我らに気づいていないのか。キラーが言う。

「ならば、こちらから奇襲がかけられるはずだ。このチャンス、逃がさん!」

キラーは、怒りで燃えている。適当な理由付けだ。しかし、何時か戦うことになるのなら、有利な状況の時がいいのは当然だ。僕達も、ヤツらに苦戦したあの頃とは違うんだ。いつの間にか殺すことに慣れてしまった僕がいる。でも、味わった一つ一つの悲しみは、忘れてはならない。やらなければやられるのも事実だ。僕が迷っている中、キラーはロングビームを準備している。

僕は言う。

「キラー、僕達のことも考えてくれよ」

キラーは無言だ。かなり集中している。僕とアイカも覚悟を決めた。キラーのロングビームと同時に、奇襲をかけるぞ。ギアはもう三段目に入っている。ギリギリまでエネルギーを貯めろよ、キラー。僕は変幻を、二十五メートル程度まで巨大化させる。それは、相当の重さを感じさせる。しかし、これぐらいにはしないと、相手へのダメージは少ない。

恐らく赤オニは、接近戦に特化しているはずだ。赤オニを先に倒せば、ほとんど勝ったようなものだ。サツイのロングビームが、赤オニにクリーンヒットする。赤オニが言う。

「何だ? 隠れていやがったか。それぐらいで勝てると思うなよ」

青オニも言う。

「カメットは本物らしいな。カメロウの息子なのか?」

オニ二匹が何か言っているようだが、奇襲はこれで終わりではないぞ。突撃だ。赤オニは、まだ動けない。これもクリーンヒットだ。赤オニはが言う。

「やるな。しかし、本当はオレ達の方が強い。チームワークの差を見せてやる。青オニ、下がれ!」

キラーが、赤オニにショートビームを連射する。エネルギーの節約か。しかし、危険な戦法だぞ、それは。青オニは、やはりロングビームを放つ。だが、こちらのコンビネーションをなめるなよ。アイカは精霊の歌を歌う。アイカの歌のバリエーションも、増えてきたみたいだな。僕はガードしながらキラーを守る。カメットは防御に特化している。そう簡単にはやられないさ。歌で更にアップしている。赤オニの剣がカメットの装甲を削る。チャンスとみたのか、青オニが僕に追撃をかける。青オニが言う。

「こいつ、凄い成長力だ。あの時仕留められなかったのは痛い……」

と言われても、こちらの方が分が悪い。しかし、キラーががら空きだぜ。キラーは、距離を取りつつ、ミドルビームを赤オニにヒットさせる。

戦いは続いていく。徐々にこちらが不利な状況になってくる。青オニのロングビームは、貯めも必要ないうえに射程距離も長い。とても厄介だ。アイカが言う。

「兄さん、まさか……。それは。ダメです」

悪いな、アイカ。前にもお前に説教を受けたんだがな。

何っ、アイカが突撃していく。クマちゃんのクローが赤オニにヒットするが、手痛い反撃を受ける。ムチャクチャだぞ、アイカ! 青オニはクマちゃんに近づき、ビームを連射する。キラーが言う。

「ちい、バカなやつだ」

キラーは青オニに急接近し、クマちゃんを解放させる。しかし、クマちゃんのダメージは相当なものだろう。僕のギアチェンジをはばむつもりだったのかよ。

「兄さん、キラーさん、すみません!」

アイカは素直に謝る。キラーは、赤オニの剣をサツイの高い機動力を駆使してかわす。しかし、それは敵の誘導だ。青オニのロングビームが、サツイにヒットする。硬直状態の青オニに対し、僕はギア四にアップしてビームを連射する。ここで僕は気づく、しまったな、赤オニを先に潰さないといけないんだった……。赤オニは、サツイを剣で切り刻む。そこに、クマちゃんのクローが決まる。キラーは何とか解放される。アイカが精霊の歌を歌う。この歌は、癒しの効果もありそうだ。僕がムチャクチャするのを止めるのを、アイカはあきらめたようだ。どちらにせよ、それくらいの覚悟がないと、勝てる相手ではない。

ここで、僕は変幻を小型化する。そして、インパクトと同時に巨大化させる考えだ。青オニのビームを食らう。しかし、カメットのガードの堅さをなめるなよ。赤オニにクリーンヒットが成功する。

互角の戦いに持ち直すことが出来たか……。青オニのビームにも慣れてきた。勝てるんじゃないかな! その時、スキだらけの僕に、青オニのキャノン砲が向けられる。恐らくヤツの切り札だろう。やはり、カメットは大ダメージを受ける。赤オニの追撃は、キラーのビームが阻止した。青オニが言う。

「これで仕留められないとはな。カメット恐るべし、と言わざるを得ないだろう。こいつらは危険だ。ローズ様に近づける訳にはいかん。どうしても、ここで仕留める」

僕は仕方なく、ギアを二まで下げる。僕達は、もうバテバテのようだな。

更に激闘は続いた。均衡を保っている。そろそろ決着を着けたいところだな。僕は、一気にギア四のスイッチに手をかける。アイカは、スローテンポな歌を歌う。キラーが急接近を使う。そして、遂に赤オニのロボットは大破した。赤オニは脱出する。そして、青オニに向かって叫ぶ。

「逃げろ青オニ! オレにかまうな」

キラーは、脱出した赤オニに止めを刺そうとする。青オニは、それを許さない。しかし青オニは、僕達のビームの餌食と化している。キラーが叫ぶ。

「フフフフ、楽しすぎるぞ。あの青オニをいたぶれるとはな。オレが当然殺す! 止めを刺す!」

僕は、もうギアを戻していた。青オニが言う。

「オレのパートナーは赤オニだけだ。逃げられる訳がないだろう」

それを聞いた赤オニは、

「バカ野郎」

とだけ叫んで、それ以上は何も言わなかった。激闘は幕を閉じた。

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