第3話
乗り合い馬車の車輪がガタゴトと音たて森の中の一本道を進む
中には同じ様な年頃の少女たちが乗っている。
馬車の中はどよめきだっていた、なにせこれから辿り着く場所は彼女らの将来を左右する場所なのだ。
ざわざわと五月蝿い馬車の中、ひときわ小柄な少女が怯えたように顔を伏せている。
その中には、銀髪の肩まで伸びた髪を馬車の揺れに揺らせつつ一人寡黙に俯いく少女がいた…
ヒヒ~ンと馬車馬が鳴き声をあげて歩みを止める。
御者は客車に振り返り
「さぁ着いたよ~シャルム魔法女学院前~」
馬車のなかのざわめきが一層大きくなる。
皆我先にとドタドタと降りていく中少女は未だに馬車を降りずにいた…
御者が不審に思い声をかける。
「嬢ちゃん、降りないのかい?」
ビクッと跳ねたあと少女はどもり気味に返答する。
「ぁ……ぃぇ、お、降ります」
荷物を手に取り少し慌て気味に降りる少女……
御者が馬にムチ打つと馬車はガタゴトと音を立てて行ってしまった。
取り残された少女の前には堀と城壁で囲まれたまるで王城のような建物がそびえ立つ
魔導士といっても魔法に精通する者、薬学に精通する者、錬金に精通する者様々だ。
そして他の魔法学院を押しのけすべてのジャンルでトップの実績を誇るのがこのシャルム魔法女学院
卒業すれば貴族と同等の身分を与えられる魔導士各国から引く手数多、その養成校なのだ。
◇◇◇
私は今馬車を降りてシャルム魔法女学院の正門前にいる。
そして入学の最初の関門と言われる魔力測定の儀が始まろうとしていた。
魔力測定の儀は水晶をもって行われる。
水晶に手をかざしその光度で魔力を測るというものだ。
この試験は入学金さえ払えば平民でも受けられるようになっている。
もっとも平民の魔力はそう高くなくここの狭き門を潜り抜ける者は極少数なのだが
ここで魔力のないものは素質無しとされ入学金を持って帰郷することとなる。
細長いテーブルに水晶が5つほど置かれておりそれぞれに試験官がついている。
がっくり肩を落として踵を返す者、その場で浮かれる者など多種多様だが私は果たしてどちらだろうか…
前の組が終わりいよいよ私の番が回ってくる。
試験官は私の全身のくまなく見ると淡々とこう告げた。
「出身と名前は?」
「ア、アルジャンテ村のステラ・ソヴァールです…」
私はお父さんと袂を分かったので母方の姓を名乗る。
出身と名前を告げると試験官は水晶に手をかざすよう懇々と諭してきた。
私は息を整えるとそっと水晶に手をかざした。
すると水晶の中心がチカチカと光だし手に静電気のようなものが走った。
「痛っ……いたた……」
余りの突然の出来事に私は水晶から手を離してしまった。
試験官の方へそっと目をやると眉を顰めた顔で
「う~んギリギリ合格かな……」と呟き書類に書い通していく。
昔からこれといって取り柄のなかった私が入ることができたのは驚いた。
試験官が書類に判を押すと
「じゃあ向こうで制服と寮の鍵もらってきて、荷物を置いて着替えたら入学式なのでそちらへ」と事務的な対応であしらわれた。
煮え切らない気持ちをよそに制服と鍵を受け取って寮へと向かう。
◇◇◇
流石に広大な敷地だけあって歩くのも時間がかかる特に小柄な私にはとても長く感じる。
寮へと辿り着くとそこにはレンガ作りの立派な建物がそびえていた。
鍵の札には”210”と書かれているので私はゆっくりと二階の部屋へと向う。
階段を登り二階へ辿り着くとそこには分厚い木の扉がずらりと並んでおり
扉の番号を一つ一つ見回しながらようやく目的の場所へ辿り着く。
年季の入った扉には210の焼印が押されておりより重厚感が感じらる。
息を整え鍵を差し込むが手応えが軽い…どうやら鍵は開いているらしかった。
そっと開けると扉の軋む音とともに視界が開ける。
同時に建物独特の匂いと人影が目に入った。
えっ私部屋間違えちゃった?っと動揺するとともに鍵の札と扉の番号を見直す。
どうやら間違っていないようだった。
混乱している私に中の人影が声をかけてきた。
「あら?ルームメイトさん?」
ルームメイト!?寮暮らしは知っていたがまさか相部屋だとは思わなかった。
「ぁ……えっと……はい」
突然の質問にドギマギしてくぐもった声で答えてしまう。
「私ベルナデッタ、ベルナデッタ・クライメット。よろしくね!あなたは?」
私より身長が高く(元々私が低い部類なんだけど)綺麗な黒色の丁寧に編み込まれた三つ編みを右肩から垂らした女の子はハキハキと自己紹介してきた
「あ……あの、ステラ。ステラ・ソヴァールです……」
もじもじと俯きがちに答える。
「ステラ!いい名前ね、私はベルって呼んで。あとあなた歳はいくつ?私は16よ」
「わ、私も16です……」
つい声が上ずってしまう。
すると少女は目を見開いて答える。
「そっかぁ!同い年かぁ!ちっちゃくて可愛いから年下かと思っちゃった。」
やはり他人の目からみると私はそう見えるらしい、成長が遅いことを悔やむ
「ステラ!困ったことがあったら何でも言って……って私もまだわからないことだらけだけど」
テヘッと頭をかきながらはにかむ
「あ、そういえば入学式もうすぐだね。急いで着替えて行こう」
まだお互い名前と歳しかしらない。
私は彼女のペースに乗せられるまま入学式の行われる大聖堂へと向かった。
◇◇◇
大聖堂にはもう人が集まっておりガヤガヤと騒がしい。
「いっぱい人いるねぇ~」
黒髪の彼女、ベルは物珍しそうに辺りを見回す
私はどうもこの人混みの空気が苦手で一刻も早く終わってほしいと心の中で念じる。
しばらくすると壇上の教師と思われる魔導士が声を上げた。
「静かに!」
声が響き渡るとともに静寂が訪れる。
それと共に横の扉から古ぼけたつばの長い先の尖った帽子を被った老婦人が姿を現した。
「私が学院長のエリザベッタ・ゾーエ・ベレニエルです。」
どうやらあの人がここの最高責任者らしい。
「狭き門を潜り抜けた小さき卵達、あなた方が今日ここにいる意味、富を得ようとする者、名声を得ようとする者、様々でしょう。
ただし悪しき心でそれを振るうことは許されません。魔法とは常に正しき心に宿るものなのです、慢心してはいけません、常に己の中に正しき心を
、そして学友と共に切磋琢磨してください。」
学院長はすっと一息すうと
「ようこそシャルム魔法女学院へ」
その瞬間会場がわっと沸き立った。
学院長が一歩後ろへ下がると先ほどの教師が前へでた。
「これよりクラス分けを行う!名を呼ばれた者は前へ!」
◇◇◇
クラス分けが終わり早速教室へ移動が始まる
幸運にも私はベルと同じクラスに割り振られた。
「よかったね、同じクラスで」
彼女はそう言いながら微笑んだ。
「うん、私も」
笑顔で返事をする。
生徒が揃うと教室にこれまた大きなつばのとんがり帽子を被った女性が入ってくる。
「皆さんお静かに!」
「今日より皆さんの担任になるエルネットです、よろしくおねがいします」
「今日は顔合わせということでこれで解散にしますが皆さんくれぐれも謹んだ行動を、以上!」
あっという間にホームルームは終わってしまった、後は寮に帰るだけだ。
「ねぇステラ、これから商店街にマジックアイテム買いに行こうと思うんだけど一緒にいかない?」
ベルがにっこり笑みを浮かべながら語りかける。
「え、でも私お金そんな持ってないし……」
「いいからいいから、見るだけでも楽しいし、行こ?」
半ば強制的に腕を絡め取られ買い物に付き合うハメになる。
本当は寮に帰って読書でもしていたいのだけど陽気な彼女に乗せられて私もどこか浮かれていた。
◇◇◇
商店街といっても城内にありいわば学生向けの購買部のようなものだ。
といっても街の一角のように立派な作りをしており
たくさんの商店の建物が連なっている。
「うわぁ~マジックアイテムがいっぱいだぁ~」
あちこちの店に出入りして子供のようにはしゃぐベルがどこか愛おしく思える。
マジックアイテムか……戦争とかにも使ったりするのかな…。いやいやこんな平和なところでそんなはずないよね。
むしろ私なんかがそんなところにいくこともないだろうし…。でも今もどこかで戦争は起きてる。
「私の家は代々魔導士で私も魔導士に興味があってここに入学したの、ステラはどうしてこの学校に?」
「その、お父さんに会えるともって、お父さんが貴族なんだけど会うためにはAランク魔導士にならないとって」
私もつい先日知った事実なので上手く説明できない。
「私の家も貴族なんだけどお父さんが厳しくて私って一人っ子だから、私を当主にしようと勉強漬けにされてたわ」
「それが嫌になってここへ来たの」
「私はお父さんがいない生活が長かったから羨ましく思うよ」
「私の家はお硬い貴族だったからねぇ、息が詰まりそうだったわよ」
ウキウキで大荷物を抱えて帰路に着くベル。
私はその脇を少し早足で着いていく
寮に帰ってからはたくさんお互いの話をした。
「私の領地は流行り病で領民が次々と倒れてね、その時私も医療系魔法やポーションが作れるようになればいいなって」
「半ば強引に家出してきたようなもんだけどね」
「へぇ、そうなんだ」
村に同じ年頃の子が少なかったのとベルの陽気さも相まって話が弾む。
「ステラも早くお父さんに会えるといいわね」
「うん」
会話に没頭する中、緊張の糸が切れたのか唐突に眠気がやってくる。
ふいに欠伸をしてしまう。
「あら、もうこんな時間。そろそろ寝よっか」
「うん、ベルがルームメイトでよかった」
「こちらこそ、明日からが楽しみね」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ、ステラ」
そういって互いに布団に入った。
これが私の魔導士生活1日目だった。
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