第7話
翌日
私は寮の窓からずっと空を眺めていた。昨日は不思議な夢をみた。
自分が水底へ沈んでいき水面を見上げてる夢だ。
なのに息苦しさはなく水の対流を肌で感じ取ることができた。
何故か不思議な感覚で忘れることができなかった。
疑問は残るがこれ以上考えても仕方ない……考えを切り替えたところでふと父のことが頭を過る。
父とは一体どういう人なのだろう。名前と大貴族だとしか母からは知らされなかった。
それに魔法試験…魔法が殆ど使えないのに一体どうしたものか。
「なにか悩み事?試験なら付け焼き刃じゃ歯が立たないわよ」
眠気眼でベッドに座るコマチちゃんを横目にティーカップに紅茶を注ぎながらベルは問いかける。
「ううん、お父さんのこと考えてた」
「あぁあの大貴族の?早く会えるといいわね、その為にはまず試験をクリアしないとね」
「お父さんはプランタエール伯っていって王室のお抱え魔導士だからそう簡単にはあえないかも」
「それに貴族に謁見するには対等の立場の上級魔導士にならないといけないし…」
「ま、こういう時は外出でもして美味しいもの食べてパーッとやるのが一番よ」
ドンっと背中を叩かれる。
こういう時に背中を押してくる友人は今までいなかった。
ステラはどこか心の奥が暖まる気持ちになる。
この2人が友達で本当によかったと心から思うステラであった。
3人は外にでてカフェテラスの椅子に腰を掛け談笑しながらアイスを食べていた。
たまにはこういう気分転換もいい。
眼の前では人形劇が行われていた。
「さぁさよってらっしゃい見てらっしゃい、勇者一行の冒険譚だよ」
カフェテラスからも見れるその光景をステラは何気なく眺めていた。
あの劇は知ってる、子供の頃絵本で何度も読んだおとぎ話。
頬杖をつきぼーっと眺める。
上から吊るされた人形たちが舞台で踊る。
ここは商店に務める人たちの子供がいるからたまにくるんだろう。
そうしていると何だか眠気がきて波の合間を漂うような……この感覚は
「……ってば、ねぇステラってば聞いてる?」
「あ、ごめんなんだっけ?」
「もう、作戦会議なんだからちゃんと聞いてよね」
「えへへ…ごめんね」
私はさっきの感覚を忘れないようベルには悪いけど集中する。
するとどうだろう、周囲の人間がどこにいるのかまた魔力がどれほど強いのかをうっすらとだが感知できた。
「ほらステラもぼーっとしてないで集中集中」
「コマチは何時も通り素振り、私はマジックアイテムの調合とテスト」
私も今までと違い何かできることが増えて嬉しかった。
それから私達は修練に励んだ。
二人が修練に励んでる間私はスライムをできるだけ上手に扱えるよう伸ばしたり縮めたり変幻自在に操作できるように励む。
やることが少ないのでスライムを人型にして遊んでみた。
「うわぁ気持ち悪い」
眼の前にはドロドロのなんとか人型を保った何かが鎮座している。
うーんもっと繊細なイメージ……イメージ。
眼の前のドロドロはなんとか形を保っていく、がまだなんとか人型といったところだ。
結局完全な人型を保つのは3日ほどかかった。
なんとか人型を保てたので次はそこに擬態化魔法の魔法をかける。
するとおぼろげながら自分の分身ができた。
「やった!次は分身の数を増やそう」
そう思い立ち2体目の分身を作る。
すると1体目がドロっと形をくずした。
「やっぱりドロドロになっちゃうかぁ」
そんなことを繰り返しようやく2体の分身を作れるようになった。
場所を変えて再度挑む。
「よし!なんとか安定したかな」
次は分身をベルとコマチちゃんに変えてみる。
「うん、これも上手くいった、私上達してるかも」
ベチャッ……気を抜くとこれだ。
「もっと集中力を持続させないと……」
一旦この修練はここまでにして次はスライムの伸縮速度を上げる修練に入る。
石を複数空中に投げたあとカメレオンの舌のようにスライムを伸ばして全部キャッチする。
伸縮スピードは充分、後はどれくらいの重さを持ち上げられるか、コレはスライムの体積によって変わってくる
分身2体を戻し、今度は手の形にして自分の背丈の倍はあろうかという岩を持ち上げる。
ゴゴゴっと音を立てて岩が持ち上げられる。
「う~……えい!」
祈る状態で手を眼の前で合わせると同時に岩が砕けた。
破壊力も充分……これは実戦で使える。
私は日がな一日スライムの操作の修練を続けた。
そんなある日コマチちゃんが修練の途中で話しかけてきた。
「ステラ……あの木を揺らして葉っぱ落として」
「いいけど、何するの?」
「見てればわかる……」
私は言われるがままにスライムを枝に伸ばして伸縮させてガサガサと枝を揺らす。
その落ちてきた葉っぱをコマチちゃんは目にも留まらぬ速さで真っ二つにしていく。
全部斬り終わったあとふーっと一息つくと刃を鞘に収める。
「すっごーいコマチちゃんこんなことできるんだ」
「……朝飯前」
「魔導士より剣士のほうが向いてるんじゃない?」
「前もいったけど、この学院に集まる情報が重要……」
「そっか何か集めてるんだよね」
「そう……とても大事」
そんな時ベルが遠くから声をかける。
「お~いそろそろ休憩にしましょ」
「聞いてベル、コマチちゃんってすごいんだよ、落ちてきた葉っぱ全部切り裂いて」
「へぇ~まさに魔法剣士って感じね」
「日頃の鍛錬の成果……」
「あ、それとね私も新しい魔法ができたの」
「へぇどんなの?」
「気になる……」
「みてて、えい!」
両手からでたスライムが人型にかわっていきステラになった。
「スライムの変形に擬態化魔法をかけたスライム分身の魔法だよ」
「すごいじゃない、こんなの魔導書には載ってなかったわよ独自魔法ね」
「これで少しは勝算が見えてきたわ」
ティーカップの中身を飲み干しニヤリとベルは笑う。
「明日からは今の魔法を使ってチームワーク重視の修練をやりましょう」
次の日からは今までの修練に加えチームワークを重視した修練も始まった。
各々自分の役割を把握できたことで修練はスムーズに進んでいく。
「よぉ~しこれで連携は完璧ね、後は試験当日まで各自で魔法の強化をするくらいね」
こうして私達は修練に励んだ。
魔法の授業の時も私はスライムを手の形にしてノートを取った、こうすることでより身体になじませる。
「ステラ大分上手くスライム扱えるようになってきたわね」
「うん、試験に向けて準備万端だよ!」
「私も基礎魔法は殆ど網羅したわ、もう初日みたいな失敗はないから安心して」
私も基礎魔法を覚えたかったがどうにもいくら練習しても上手くはならなかった。
それなら手持ちの駒でなんとかするしかない。
コマチちゃんもそうだけど落ちこぼれの烙印を押された私達ができることは、自分の持ち駒を使って相手に勝つこと。
ただそれだけだ。
それにBランクになれば任務を請け負うことができる、これは実績を積むには大きなアドバンテージだ。
試験の期日は迫りつつある。
私は自分に精一杯、やれるだけのことを……。
いよいよ試験当日となり、Bランクを夢みる生徒達が集まる。
3対3を5組、1クラスの各班ごとで戦う形式になる。
半数がここで振るいにかけられるわけだが逆に一回でも勝てさえすればBランクは約束される。
落ちた生徒は落ちた生徒同士で次の学期末にまた試合をすることとなる。
式典が始まり選手宣誓が行われる。
これから各班の昇格を賭けた戦いが始まるのだ。
「私達は第三試合ね」
「う、うん……」
控室にいる他の生徒たちも緊張のせいかザワザワしている。
「ステラ、震えてる……大丈夫?」
「うんありがとうコマチちゃん、なんだかこれからってなると緊張しちゃって」
「大丈夫よ二人共、ちゃんと作戦通りにやれば上手くいくって」
「そ、そうかなぁ」
「心配しても無駄……やることやるだけ」
そうこう言っているうちに私達の番が回ってきた。
会場は石段になっていてその上で試合が行われる。
そこで赤チームと白チームに別れて戦うのだ、ステラ達は赤チームだ。
控室をでて会場に上がる、すると聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あら?落ちこぼれの皆さんじゃないの?これは楽させて貰えそうですわ」
アンネッタが取り巻きと一緒に嘲笑う。
「見てなさいよ、コマチ、ステラ、いいわね?」
「うん」
「任せて……」
審判が中央へきて試合開始の合図をする。
「場外に出るか気絶または戦闘不能になったものを脱落とみなす、以上誠心誠意戦うように」
審判が場外へ出た後振りかざした手を振り下ろす。
瞬き一つの合間にコマチが瞬足で抜刀して刀を返す。
そのままの勢いで取り巻きの一人を峰打ちで場外に吹き飛ばす。
「えっ!?」
アンネッタは情報の処理が追いつかず固まってしまう。
「今よ!」
この機を待っていたがごとくベルが煙玉を投げ煙幕を張る。
ステラがそれに紛れてベルとコマチのスライム分身を作る。
それぞれ二人の分身がもうひとりの取り巻きを抱え上げ場外へと走り、着地する。
煙幕が晴れるとそこにはアンネッタ唯一人が残されていた。
「形勢逆転ね」
ベルがフンと鼻をならし問いかける。
アンネッタは俯きがちに、しかし顔を真っ赤に染めながら
「舐めるんじゃないわよ!アースクエイク!」
呪文を唱えると会場の地面がみるみる隆起し3人を場外へ吹き飛ばしてしまう。
「うわっ」
「しくった……」
「まだ!」
ベルとコマチは場外へでたもののステラは即座にスライムをゴムのように伸ばし会場地面に貼り付ける。
スライムを縮ませて会場へ復帰する。
しかしアンネッタも馬鹿ではない、着地の瞬間を狙って魔法を放ってくる。
「くらえ!ストーンブラスト!」
ステラは着地を狙われもろに食らってしまう。
「うっ……!」
そのまま倒れ込むもなんとか起き上がろうとよつん這いになる。
「ふっ、あっけない幕切れね。私一人で充分でしたわ、これで止めを……!?」
突然身体動かなくなり動揺するアンネッタ。
「こ、これはスライム!?地面のひび割れから!?」
アンネッタの頭手足各部にスライムが取り付いている。
「わ、私達の……勝ちだよ……」
そのスライムはステラの片手五指につながっていた。
「スライム・マリオネット……」
ステラが指に力を込めるとアンネッタはそのまま場外に歩みを進めた。
「そんな!こんな、私がこんな平民に!」
ストンと会場を降りた瞬間審判が声を上げる。
「勝者!赤チーム!」
しばしの静寂の後に会場が沸き立つ。
アンネッタは信じられんとばかりに膝から崩れ落ちる。
「やったわねステラ!」
「やるじゃん……」
「えへへ……なんとか勝てたね」
「最後は危なかったけどステラのお陰ね、スライムをあんなふうに使うなんて予想外ね」
「街で人形劇みたときに思いついたの」
「これで私達も落ちこぼれとはおさらばね」
三人は声援が送られるなか会場を後にした。
「痛っ」
「ステラ大丈夫?さっきやられたとこが痛むの?」
「大丈夫だよこのくらい」
「控室にポーションあった……」
控室に戻ると試合が終わりガックリと肩を落とす生徒、喜びに満ち溢れる表情の生徒、自分の番は今か今かと苛立つ生徒、様々な面々がいた。
それを尻目にステラはポーションを飲み干す、すっと身体の痛みが引いていくのがわかった。
「大丈夫、ステラ?」
「うん、平気、これで回復したよ」
その途端会場からワーッと歓声が上がった。
まだ私達の試合が終わって間もないのに勝負がついたようだった。
勝負とは一瞬で決まるものとは言え早すぎる。
自分たちのときも早かったがそれよりも早く勝負が付いたような歓声だった。
急いで会場に戻ってみるとそこにはリリアーナの班が勝利し会場を降りる姿があった。
「すごい……会場の再整備の時間も含めると私達以上の速さだよ」
ステラは驚愕で開いた口が塞がらなかった。
「上には上がいる……」
コマチも呟く。
戻ってきたリリアーナに労いの言葉をかける。
「リ、リリアーナ!昇級おめでとう!私達も合格したよ!」
リリアーナはポーカーフェイスで語る
「ありがとうございます、それにあなた達の活躍、見せてもらいました。お見事です、特にステラ、流石私のライバル、では」
そういうとそそくさと立ち去ってしまった。
「ステラライバルだってすごーい」
「勝者の余裕……」
「私のこと、ちゃんと認めてくれてるのかな、何だか嬉しい」
その後も試合を観戦していたが順調に進んでいき全クラス終了となった。
最後に叙勲式があり各自勝者に学院長自らBランクの証となるブローチが授けられる。
「皆さん、Bランク昇級おめでとうございます、これからも己自身を戒めより一層の活躍を期待しています」
そしてBランクになったことによって任務につけるようになり、それに応じてクラス替えが行われた。
教室での座学を終え、任務に付くことでより実戦に近い経験を積むのが目的である。
Bランクの違いはスリーマンセルに担当教師が付くことである。
3人は今日初顔合わせとなる先生と校内敷地の噴水で待ち合わせをしていた。
「おっそいわね~」
「こないね」
「遅刻……」
大事な初日だというのに遅刻、しかも教師が、ありえない。
30分ほどしてようやく誰かがこっちへ走ってくる様子だった。
「いや~ごめんね~寝坊しちゃってさ~」
そこには身なりは教師だけれど歳は私達と同じかそう変わらない雰囲気のツインテールの女の子がいた。
「私が今日からあなた達の担当教師になるミス・クレアよ、見た目はあなた達より少し年上くらいだけどこれでも飛び級なんだからね、クレア先生って呼んでねよろぴく!」
パチンっとウインクするその様は3人は呆然と見つめていた。
「あれ?受けがイマイチだったかな?まぁいいや、あなた達の試合はみてたし書類もあるから自己紹介は省くわね」
「これからこの私がみるこの班はクレア班とします」
「せんせー私達これからなにするんですかぁ~?」
「あー任務っていってもいきなりはこないのよね特例の指名を除いて」
「特例ってまさかリリアーナのことですか?」
「あーそうそうあの娘学年トップだったものね、何でも魔法ギルドからの指名が来たそうよ」
「えーいいなぁ、せんせー私達にも任務とかないんですか~?」
ベルが不満そうに質問する。
「私達クレア班がやるのは~」
「や、やるのは?」
「当面の魔法の復習で~す」
「ええええ」
ベルだけで無くステラからも不満の声が漏れる。
コマチだけは相変わらず無表情だ。
「生徒の魔法の手駒を知っておくのも教師の務め、さあさ出し惜しみなく見せてね~」
「じゃ、じゃあまず私から」
ステラが名乗りを上げる。
そういうとステラの制服の袖からスライムが出てきた。
「私ができるのは2体の分身と……」
スライムが変形して分身を成す。
「ゴムのように伸ばしたり縮めたり……」
遠くの石を吸着して手元に持ってくる。
「紐状にしたスライムを人体にくっつけて操る方法」
「後はスライムを手の形にしてものを持ち上げたり……です」
その様子をクレアは関心した表情で見守っていた。
「ほぉ~なかなか柔軟に使いこなしてるね~」
「そっちのちびっ子は?」
「私はこれ……」
コマチは石を空中に投げると刀の鯉口を切り抜刀する。
瞬間に石を十字に斬り四等分にした。
「お~魔法じゃないけどすごいねぇ~」
そう言いながらパチパチと手を叩く。
「じゃあ残るは私ね」
ベルがそう言い放つ。
「私は回復魔法を中心に基礎魔法全般と後は錬金で作成した煙玉、炸薬、ポーションとか」
そういってベルはかばんの中身を見せる。
「へぇ~近距離、中距離、回復補助と割りとバランスとれてるのね」
「大体はわかったわ、それから私の役目はあなた達をAランクに引き上げることよ、肝に銘じておいてね」
こうして新たな授業が始まるのであった。
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