第6話
翌日…
今日の授業は座学の授業だ。
座学といっても魔法を殆ど使えない私には退屈でしかなかった。
少なくとも魔力測定でここへ入れるくらいの魔力はあったはず。
そんなことが頭の中を堂々巡りするばかりだ。
小さいスライムを伸ばしたり縮めたり、大分思ったように形にできるようになってきた気がする。
「~であるからして体内の魔力を集中させることで魔法が具現化します。もちろん魔力が枯渇すれば魔法は使えなくなってしまいます」
「ステラさん?聞いているの?」
先生に注意される。
「え、はい……ごめんなさい」
「全く、集中が足りませんね、罰として書庫の掃除を命じます」
「は、はい……」
周りから失笑が漏れる。
はぁなんで私はいつもこうなんだろう…
はたきを持ちながら古い書庫の埃を払っていく。
魔力の集中かぁ……
自分の場合は上手く発動までにコントロールできていない気がする。
奥の古びた本が置いてあるところへランプ片手に埃を払いながら進む。
この辺りは滅多に人手が入っておらず埃もひどい。
バサバサと埃を払っていると顔の真横に大きな蜘蛛が降りてきた。
「ひえっ」
とっさに飛び退き本棚にぶつかってしまう。
やってしまった、本棚が倒れてくるのかと思いきや小さな隙間ができている。
どうやら更に奥に部屋があるようだった。
私は重い本棚をこじ開けるとランプをもってその隠し部屋へと進んだ。
そこは小さな書斎のようになっており古く大きな本が平積みされていた。
ここの主は何やら研究をしていたようだが私ごときでは推察できない。
何やらわけのわからない文字の羅列された開きっぱなしの本とその翻訳と思われるメモ書きが机の上に散乱している。
ふと鍵がかけてある本が目に入った、鎖がかけられたその本はどこか怪しげな雰囲気を醸し出している。
魅入られるように本を手に取ると急に寒気がした。
「ステラ~」
ベルの声が聞こえる。
私は咄嗟に隠し部屋から抜け出した。ここは他生徒に知られてはまずいと思った.
「ああステラここにいたのね、こんな奥まで掃除だなんて熱心ね」
外に出るとベルとコマチちゃんが待っていた。
「うん、もう掃除は終わったから大丈夫だよ」
「ほ~ら、午後は授業ないんだから3人で買い物いく約束してたの忘れたの?」
そんなことを知らずか優しく話しかけるベル。
「あ、ううん覚えてるよ、ごめんね、行こう」
ステラが部屋をでた後、秘密部屋の痕跡は一切無くなっていた。
◇◇◇
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そうしてたどり着いたのは城内の商店街、ここは城内に街がまるごとある作りになっている。所謂一国家ほどの規模だ。
「今日はマジックアイテムの買い出し?」
「ううん、今日はコマチの装備を整えにきたの」
「そうなんだぁ、一体なに買うの?」
「私……魔法全般が不得意……だから武器を使う」
武器屋といっても皆マジックアイテムを買うのでここ一件しかない。
「いらっしゃいようこそ当武器屋へ、魔法剣から小物までなんでもあるよ」
次にコマチちゃんがカウンターに並べたのは十文字の刃の付いた投擲武器らしきものだった。
「これ……同じもの作ってほしい」
「う~ん出来なくはないが少々時間をもらうぜ。あと金も」
ジャラっと銀貨の入った袋をカウンターに置く。
「これで作れるだけつくって……」
「おいおいまじか嬢ちゃん、投擲武器なら投げナイフとかも扱ってるぜ」
「これが一番手に馴染む……」
「うちは一流がモットーだそういうなら作ってやるぜ」
「コマチほんとにそれだけでいいの?剣とかあったほうが便利なんじゃ…」
「お、剣なら魔法剣とかどうだい?軽いし嬢ちゃんにも使いこなせるかもしれねぇ奥にあるから見てみたらどうだい?」
「魔法剣……」
コマチちゃんの眼が一瞬輝く。
「まあ見るだけならタダだしあうのがあるか見るだけ見てみましょ」
そういってベルはコマチちゃんの肩を押しながら店奥へと入っていった。
居心地悪そうになったステラも後を追う。
「ねぇコレなんかどう?じゃーん炎の魔法剣!」
そうよ、これにしましょコマチ!」
「おうそれは火水晶を削って作った逸品だぜ、抜くと刀身から炎が舞って相手を焼き尽くす。でもまぁ嬢ちゃんのこの銀貨じゃ買えねぇぜ」
「そっかぁ……じゃあじゃあ在庫処分のほうをっと」
そういって剣の入った籠を漁るベル。
その輪に入って行けず呆然と立ち尽くす私。
それを眺めていたコマチちゃんの眼の端に古ぼけた刀が目に入った。
埃を被っていたそれを手で払うと鞘から抜いてみた。
青白いサビ一つない刀身にピリピリとした何かを感じる。
「おうそれは雷刀『紫電』っていってな。持ち主の魔力を雷に変えるって剣なんだか曰く付きでな、誰も買いたがらないんで回り回って俺の店にきたわけよ」
「決めた……コレにする」
「ええ今、曰く付きって言われなかった?やめときなよ~」
「この形が一番手に馴染む……コレ買う」
「おうこちとら厄介払いが出来たってもんだ武器を注文してくれたサービスだ、持ってきな」
「ええ、いいのかな。コマチちゃんはそれでいいの」
会話に入って行けずモジモジしてたステラがやっと口を開いた。
「こういうの探してた……これがいい」
「まあコマチがいいって言うならいいけど、まぁ一応魔法剣っぽいし」
「じゃあこれで決まりだね」
こうしてコマチちゃんはブレザーの制服に日本刀をさしたどうにもギャップのある格好となった。
「そうだこれからステラのアイテムも買いにいかないと」
「え、私はいいよぅ」
「ステラは魔力総量が少ないでしょ、おあつらえ向きのマジックアイテムがあるのよ」
そういってベルは店を飛び出し手招きしながら商店街の奥へと急いだ。
慌てて追いかける二人。
「そうだこれからステラのアイテムも買いにいかないと」
「え、私はいいよぅ」
「ステラは魔力総量が少ないでしょ、おあつらえ向きのマジックアイテムがあるのよ」
そういってベルは店を飛び出し手招きしながら商店街の奥へと急いだ。
ガランガランと扉の鐘の音が鳴る。
店内はどこか古ぼけているが趣のある作りだった。
べルは足早に目的のマジックアイテムの陳列棚の所へ行く。
「これこれ、初心者魔導士ように作られた紫水晶の首飾り、これで魔力制御になるはずよ」
「わぁ~すごいこんなのあったんだ。」
「じゃあ私ちょっと買ってくるね!」
マジックアイテム…主に攻撃主体のものかと思いこんでいたがこういう補助系のアイテムもあるらしい。
私は会計を済ませると早速首飾りをつけてみた。
するとまるでそれまでそうであったかのように身体の魔力の流れを感知することができた。
「ああでもそれあくまで補助具だからね、それで魔力一時的に制御するのが目的だから。」
「なるほど、私もいつかコレ抜きで魔力総量をあげれればいいな」
そんなこんなで店を出た時はすっかり辺りは夕暮れ時だった。
「いっけない、早く食堂いかないと混んできちゃうわ、ステラ、コマチ。ダッシュよ!」
そういってベルは一目散に走り出した。
「え、ちょっとまってよぉ」
「晩ごはんなくなるのは困る……」
コマチちゃんはその体躯からは想像も出来ないほどの速さで走り去っていった。
◇◇◇
「二人共まってよぉ……」
ゼエゼエと息をきらせながらようやくステラが追いついた。
食堂はバイキング形式で並んで取ったものから順に食べていくスタイルだ。
ようやく取り終えたステラが座ると両隣にべルとコマチちゃんが座っていた。
「コマチ盛りすぎねぇそんなに食べれるの?」
「問題ない……今、成長期、だからたくさん食べて大きくなる」
そんな談笑をしている中誰かが近づいてきた。
「あ~ら、落ちこぼれ班の皆さん揃いも揃って。ここは私達の席よ、どいていただけないかしら?」
何かと私達を嘲笑いにくるアンネッタだ。
「何言ってるの!食堂は自由席だし誰が誰と座ろうと勝手でしょ!」
「二度までも私に楯突くなんて、ここはお灸を吸えておいたほうがいいのかしら」
そういうとアンネッタは手のひらに魔力を貯め始めた。
ベルも立ち上がろうをしたけどその瞬間風が吹いた。
少し離れたテーブルでリリアーナがギロリとこっちをみている。
怖気づいたのかアンネッタは
「今日のところは譲って起きますわ、でも次の魔導士試験では容赦しませんことよ」
そういうと足早に立ち去った。
リリアーナに視線を向けると顔を背けた。
ようやく食事がとれる。
「ねぇベル、魔導士試験って何?」
「ステラそんなことも知らないでいたの?」
「ご、ごめん」
「私達はまだ見習いのCランク魔導士でしょ魔導士試験っていうはその昇格試験みたいなもんなのよ」
「班ごとに別れてお題をクリアするの。班のチームワークを高める目的もあるわ」
「そ、そうなんだ」
「今年は班ごとで勝ち抜き試合になるんだって」
「えーっ!」
思わず大声を出してしまい赤面する。
俯きがちに座る私をよそに説明を続けるベル。
「より実践に近い形で戦うみたいね」
「でもでもそれじゃ私達が一方的に不利だよねまともに魔法使えないし」
「ん……圧倒的不利」
「それでその試験っていつなの?」
「一学期末よ」
「このままじゃ、試験なんてとても……。どうしよう……」
「……どうする?」
「そうね、まず二人に必要なことは・・・・・。基礎魔力を高める修練ね!」
「もう半分も過ぎちゃってるよ、修行しなきゃ!」
私は自分を鼓舞する。
「付け焼き刃じゃ相手にならないわよ、リリアーナに当たる可能性もあるしね」
リリアーナ……今の私の目標であり最大の壁
「勝ち残れるのは5チームだけ、半分は失格になるわ」
とりあえず私は食事に手を付けることにした。
どれも村にいたときとは雲泥の差で、ここ数日食堂を使っていたがメニューの豊富さに驚かされる。
今日は具だくさんのミネストローネだったが3杯もおかわりしてしまった。
焼き立てパンにも舌鼓を打つ。
ふと隣をみるとコマチちゃんは相当な量のおかわりをしているようだった。
その夜3人で作戦会議を開くことになった。
寮の一室に集まり机を囲んでいる。
「まずはステラとコマチに魔法を使える、或いはそれに相当する戦闘力をつけてもらわないとね」
「でも具体的にどうすれば……?」
「明日図書室にでもいって使えそうな魔法があるか調べてみましょ」
「私……本苦手……」
「まぁまぁそう言わずに、私も何か魔法使えるようになりたいしマジックアイテムの調合も調べておきたいの」
「そうだねじゃあ明日は授業の後図書室だね」
翌日、授業を終え図書室に集まる3人の姿があった。
ベルが本を山程抱えてもってくる。
「ふぅ……これだけあれば何か使える魔法あるんじゃない?」
「うーんでもどれも威力と引き換えに術式が複雑で詠唱中にやられちゃうかも」
「やっぱり相手もそれを狙ってくるわよね、となると接近戦の得意なコマチを主軸に作戦を立てるしか」
う~んと首を傾げながらベルは考えふける。
「ごめんね私、皆の足引っ張っちゃって」
申し訳なさそうにステラが俯く。
「大丈夫……私、切り込み隊長やる」
コマチちゃんが励ますように答える。
「お互い手駒を知っておく必要があるわね、コマチは刀だとしてステラは何ができる?」
「えっと…スライムの召喚とウォーターシュートを少しと擬態化の幻術くらいかな…」
ボソボソと呟くように話す。
「私は基本的な魔法と錬金術で合成したマジックアイテムかな」
「となるとステラが狙われるのが一番危険ね、何か対策しないと」
顎に手をあて考える。
「私が守る……」
「何言ってるの、コマチは切り込み隊長でしょ、ステラと私は防御魔法を覚えるわ」
「で、でも私防御魔法の授業でもちゃんとできなかったし…」
山積みの本にバンっと手を置き胸を張って答える。
「大丈夫よ!今は魔力制御のアクセサリーもあるし指導書通りにやればできるわよ」
「そ、そうかな?私やってみるよ!」
自分でもできることがある、それがステラにとっては嬉しくてたまらなかった。
「よーしじゃあまず、この土を使った防御壁の魔法から…」
こうして私達は放課後に図書室に集まるようになった。
ある日、日直を終えた私が他の二人が先に来ているであろう図書室の扉をあけると奇妙な光景が広がっていた。
何やら煙を出しながら液体を調合しているベル、その傍らで片手腕立て伏せをするコマチちゃん。
「ふ、二人共何してるの?」
その声に気づきやっとこっちを見る二人。
「ステラ遅かったじゃない」
「来るの待ってた……」
「ごめんね日直長引いちゃって」
「ステラ、今日から外で実践訓練を始めるわよ」
「ええ、いきなり?」
「何いってんの、魔法の基礎は充分勉強したでしょ、それにステラの持ち味は詠唱無しで召喚できるスライムなんだから」
「そ、そうかな……?」
それからというもの、コマチちゃんは筋トレ、私はスライムの操術、ベルは魔導書の熟読と各々別れて個性を伸ばすことにした。
その夜ベルはすっかり熟睡している。
私はまだスライムのコントロールを上達させるために一人でスライムを練っていた
「はぁ~私もまだまだだなぁ」
そう言って気を抜くとスライムがべチャリと顔に落ちてきた。
「……」
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