第5話
いよいよ今日召喚の儀式が行なわれる。
皆召喚の祭壇の前に集められガヤガヤと騒いでいる。
私はそんな喧騒の中自分の召喚獣、つまり使い魔はどんなものだろうと考え巡らせていた。
「さぁはじめますよ!」
先生の号令と共に辺りに静寂が訪れる。
「では一人ずつ祭壇の前へ、そこで己の能力にあった使い魔の召喚を行います。」
しばらくしてベルが笑顔で駆け寄ってきた。
「みてみて、私ハヤブサ召喚できたよ」
「おめでとう。そろそろ私の番だ」
「いいのくるといいね」
そうはいっても辺りは猛獣を手懐けてる人もいる。
「大丈夫かなぁ……」
一抹の不安がよぎる。
「さ、魔導士ステラ。祭壇へ」
私は祭壇へ上がり、準備を整える。
呪文を唱え魔法陣に手を置く。
途端に魔法陣が光り私の相棒が召喚される。
猛獣?ドラゴン?はたまた精霊?私の期待は膨らむ。
皆の視線はあるがすごいのを召喚してやろうという意気込みが勝り、気にならなくなっていた。
光が消えると目の前に召喚したものが現れる。
私はそっと目を開けて驚愕した。
それもそのはず、目の前にいるのは水の様な半透明のプニプニしたあいつだったのだ。
「ス、スライム……?」
唐突に辺りから失笑が漏れてくる。
「スライムだって、あれって自我のないクラゲみたいなもんでしょ……クスクス」
「魔法もまともに出来ない子にはお似合いね」
私は顔から火が出そうになりながらスライムを抱えて祭壇を降りた。
「あああああ、何でこんな下級モンスターが私の相棒なの~?」
がっくりと落ち込みスライムをクッションのように抱える。
意外とぷよぷよして冷たくて気持ちいい。
その後も恥ずかしさに悶絶しているとまた声があがった。
「何この子召喚もまともにできないの?」
失笑の中戻ってきたはなコマチちゃんだった。
「私……召喚できなかった……」
「そんなことないよ、私だってスライムだし得手不得手はあるものだよ」
「いいのいいの!初めてなんだし失敗して当然だよ」
不安げな表情の私たちを見ながら、ベルが優しく話しかける
「これから上手くなっていけばいいじゃない、私がコツを教えてあげる」
普段ポーカーフェイスのコマチちゃんを見るといかに落ち込んでるのかがわかる。
傷の舐めあいをしてると祭壇の方からワッと歓声が上がる。
「リリアーナ様が風の精霊を召喚したわ!」
「すっごーい今までも精霊を召喚出来た人なんて極わずかよ」
振り返ってみると突風の渦巻くなか一人凛々しく立つ彼女の姿があった。
「すごい……あれが風の精霊……?」
彼女の周りは魔力で満ち溢れている。
「あれが今のリリアーナの実力……私とは到底違う……でも私もいつか」
私達がリリアーナのもとへ行こうとするとアンネッタが近寄ってくる。
アンネッタは中流貴族の令嬢で魔法もそこそこ使う、平民がどうやら嫌いらしい。
「あなた方流石ですわね。特にその落ちこぼれ2人、一人は召喚すらできていないのね」
私達は余計に肩身が狭くなってしまう。
「今はそうかもしれないけどいつかあんたを超える魔導士になってみせるわ!」
「あらそう、まぁせいぜい落ちこぼれ同士足を引っ張りあわないことね」
ツンと踵を返すとアンネッタは立ち去る。
「嫌な感じね、二人共気にしないで、まだ魔法の授業はたくさんあるんだから」
◇◇◇
寮に帰ってからは3人でお茶をしながら談笑することとなった。
スライムをクッション代わりにしながら何かできることはないか模索していた。
ふとベルが口走る
「ねぇスライムって自我がないんだったら普通の使い魔より柔軟な命令や操作ができるんじゃない?」
そんなこと思っても見なかった。
試してみるとスライムは伸ばしたり縮めたり物を掴んだりすることができることがわかった。
「こんな感じかなぁ……」
その後も私はスライムを伸ばしたり縮めたりティーカップを持ってこさせたりと
順調に操作していった。
確かに雑用には便利そうだ。
「はぁお前は呑気でいいよねぇ」
スライムを抱えながらお茶を飲む
「あちっ」
ふとしたことからスライムにお茶をこぼしてしまった。
「わっわっ、大丈夫かな」
スライムに特に異常はなくむしろ体積が少し大きくなった気がした。
「あ、洗わなきゃ」
とっさに水道でスライムを洗う。
するとどうだろうスライムは水を吸ってぐんぐん体積を大きくしていった
「あれ?この子水で大きくなるの??」
私は自分のスライムの新能力に驚きを隠せない。
「そりゃスライムなんて10割水みたいなもんだし、でもまさか水で大きくなるとはねぇ」
うんうんと目を閉じて頷きながら冷静に分析する。
「雑用召喚獣……羨ましい……」
コマチちゃんまで……
私は洗い終えると自分の身長くらいまで増幅したスライムに顔からダイブする。
「すっごく大きくなっちゃった」
「でもステラ、召喚獣っていうのは術式無しですばやく召喚できるからそのメリットをなにかに生かせないかしら?」
うーんと私は考え巡らせるが何も思い浮かばない。
「でも雑用くらいしかできないよ?」
「そんなことない……召喚できない私から比べたら十分羨ましい」
コマチちゃんからしてみれば召喚できるというだけで羨ましいのだ。
「そ、そうかなぁ?じゃあスライムでやれること一通りやってみることにするよ」
そんな話をしながら夜もふけていった。
翌日…
今日の授業は座学の授業だ。
座学といっても魔法を殆ど使えない私には退屈でしかなかった。
少なくとも魔力測定でここへ入れるくらいの魔力はあったはず。
そんなことが頭の中を堂々巡りするばかりだ。
小さいスライムを伸ばしたり縮めたり、大分思ったように形にできるようになってきた気がする。
「~であるからして体内の魔力を集中させることで魔法が具現化します。もちろん魔力が枯渇すれば魔法は使えなくなってしまいます」
「ステラさん?聞いているの?」
「え、はい……ごめんなさい」
「全く、集中が足りませんね、罰として書庫の掃除を命じます」
「は、はい……」
周りから失笑が漏れる。
はぁなんで私はいつもこうなんだろう…
はたきを持ちながら古い書庫の埃を払っていく。
魔力の集中かぁ……
自分の場合は上手く発動までにコントロールできていない気がする。
奥の古びた本が置いてあるところへランプ片手に埃を払いながら進む。
この辺りは滅多に人手が入っておらず埃もひどい。
バサバサと埃を払っていると顔の真横に大きな蜘蛛が降りてきた。
「ひえっ」
とっさに飛び退き本棚にぶつかってしまう。
やってしまった、本棚が倒れてくるのかと思いきや小さな隙間ができている。
どうやら更に奥に部屋があるようだった。
私は重い本棚をこじ開けるとランプをもってその隠し部屋へと進んだ。
そこは小さな書斎のようになっており古く大きな本が平積みされていた。
ここの主は何やら研究をしていたようだが私ごときでは推察できない。
何やらわけのわからない文字の羅列された開きっぱなしの本とその翻訳と思われるメモ書きが机の上に散乱している。
ふと鍵がかけてある本が目に入った、鎖がかけられたその本はどこか怪しげな雰囲気を醸し出している。
魅入られるように本を手に取ると急に寒気がした。
「ステラ~」
ベルの声が聞こえる。
私は咄嗟に隠し部屋から抜け出した。ここは他生徒に知られてはまずいと思った
「ああステラここにいたのね、こんな奥まで掃除だなんて熱心ね」
外に出るとベルとコマチちゃんが待っていた。
「うん、もう掃除は終わったから大丈夫だよ」
「ほ~ら、午後は授業ないんだから3人で買い物いく約束してたの忘れたの?」
そんなことを知らずか優しく話しかけるベル。
「あ、ううん覚えてるよ、ごめんね、行こう」
ステラが部屋をでた後、秘密部屋の痕跡は一切無くなっていた。
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