第4話
翌日、私は前日の疲れで泥のように眠っていたがコトコトとお湯を沸かす音と香り立つハーブの匂いで目覚めた。
「あ、おはよう、目が覚めた?」
「あ……うん、おはよう」
「今ハーブティー淹れてるから、飲むでしょ?」
「うん、ありがと」
ベルはテキパキとお湯と茶葉を入れたポットからコポコポとティーカップに注ぐ。
「あ、これ美味しい……」
「そうでしょ、昨日商店街に行ったときにカモミールが売ってたから買ってきたの」
「そう言えば今日から魔法の授業だったよね、これ飲んで頑張ろう?」
「うん!」
私はベルのお茶を口にしながら自分はどんな魔法を教わるのだろうと胸躍らせた。
◇◇◇
鐘の音と共に先生がやってくる、今日は外での授業だ。
「魔導士個人に資質というものがあって属性ごとに違うのだけれど、今日は皆さんには資質の確認を覚えてもらいます」
「これはいざ任務についたときにどの魔法が自分にあっているかというのが重要です」
「それでは事前に班分けしたグループになって」
先生がパンパンと手を叩きながら声をかける。
私はまたしても幸運に恵まれベルと同じ班だった。
そしてもう一人、私よりも小柄で歳は3つくらい下に見えるとろんとした眠気眼の薄桃色のゆるふわロングウェーブの女の子が歩み寄る。
「コマチ、コマチ・アマミ……よろしく……」
最低限の言葉しか喋らない少々無愛想な自己紹介であったが、私も口下手だからただ寡黙なだけだとわかる。
「私はベルナデッタ、ベルナデッタ・クライメットよベルって呼んでね、それとこっちが…」
「ステラ・ソヴァールです!よ、よろしく」
魔力測定でバランスよく振り分けられたらしいこの班で今後授業を教わっていくようだ。
「それぞれ自己紹介も終わったわね、それじゃあまず手のひらに魔力を集中して丸い塊をイメージしてください」
先生がやり方を実践しながら説明していく、先生の手のひらにはその何倍もの大きさの水が逆巻いてる。
「よーし!私も!」
ベルも意気込んで集中し始める、すると手のひらから静電気が出始めた。
「私は雷の資質ね」
私も続かんとばかりに集中し始める…
しかし手のひらにはひとすくいの水が湧き上がる程度だった。
「あ、あれ?水が、でもこれって水の資質だよね私」
もう一度!
しかし私の手のひらからはそれ以上の水は上がらなかった。
まわりから失笑が漏れる、私は恥ずかしくなって俯いた、その時ふと隣のコマチちゃんを見ると彼女も苦戦してるようだった。
私達とちがい何もでてこない。
「資質の無い魔導士は私は初めてみますわ、一体どういうことでしょう?」
先生も困り気味だ。
周りの失笑は私達の班に向けられた。
他の班の生徒は皆順調に手のひらで炎や風、土などといったものを湧き出させている
「やっぱり平民と素性もよくわからないダンマリ小娘との組むのは大変なんじゃなくって?」
隣の班の子がベルに声をかけてきた。
中流貴族のアンネッタ、金髪縦ロールのいかにもなお嬢様が下流貴族と平民を嘲笑いにきたのだ。
「全員まともにできないなんて飛んだ落ちこぼれ班ね」」
「中流貴族の令嬢が私達を笑いに来たの?私達は私達でやるから気にしないでちょうだい」
その言葉が気に障ったのかムッとした表情で言い返す。
「では落ちこぼれ班の実力特と拝見させて頂きますわ」
フンッと踵を返して立ち去る。
「ごめんねベル……私がちゃんと出来ないから……」
「私も魔法……得意じゃない、ごめん」
「いいのいいの!私も上手くできないんだし」
「これから上手くなっていけばいいじゃない、一緒に頑張ろう?」
どうやら私は友人に恵まれたようだ、隣のコマチちゃんも感謝の表情で見つめている。
その後いくらか練習したが私達は一行に上達の気配を見せなかった。
急にざわざわと辺りがざわめく、私達の嘲笑ではなくもっと別の何かに目が向いている。
「リリアーナ・リュエール・デ・ゼトワール…主席入学で上流貴族の令嬢よ」
親切にもベルが説明してくれるが、私には幼き日の記憶が蘇っていた。
彼女の手のひらにはとてつもない風が渦巻いていた。
「嘘、あんなに大きな……」
ふと私の口から漏れてしまう
「彼女は上流階級のエリートよ、できて当然だわ」
私たちの班でまともに誰もいない、これから先が思いやられる。
「リリアーナ!私、私よステラ!」
思い立ってもいられず駆け寄る
「ステラ……貴方あのステラなの!?」
「うんうんそうだよぉ、あの時急に引っ越しがきまって伝えれなくてごめんね」
「そうだったのね、でも貴方が元気そうで何よりだわ、まさか魔法学院で再会するなんてね」
「二人共!今は授業中ですよ!雑談はあとになさい」
「じゃあリリアーナまた後でね」
「ええ」
「それでは各自授業を再開してください」
パンパンと先生が手を叩く
教えも虚しく結局私とコマチちゃんは一向に上手くならなかった。
このあと私達ビリの班が居残り授業となったがそれでも上手くなる様子はなかった。
「二人共そのうち上手になるわよ!それにコマチは魔力測定のときすごい光度放ってたでしょ」
「でも……私魔法上手くない……苦手」
「じゃあコマチちゃんは才能が開花してないだけで実力はあるんだぁ、いいなぁ」
「私は魔力測定もギリギリみたいだったし才能ないのかも……」
「そんなことないよ!魔力は成長と共に増えるっていうし、あ、そだ今日この後親睦会も兼ねて寮の部屋でお茶会しない?」
「ほんと?やった~」
「私もお菓子すき……」
私の魔法のことは置いといて二人と距離を縮められるのが嬉しかった。
「あ、ごめん私この後ちょっと話があるから後からいくね、二人は先に始めてて」
私は授業が終わった生徒達をかき分けリリアーナの元へ駆け出す
「リリアーナ!」
「ステラ、他のお友達はいいの?」
「うん先に帰ってもらったから」
それからリリアーナとは積もる話をうんとした。
「その指輪、まだつけててくれたんだ」
「これは私のお守りよ、そういう貴方もつけてくれてるのね」
「うん、私もお守り!」
「これからどちらが優秀な魔導士になれるか競争ね、ステラ、これから貴方と私はライバルよ」
ふいに受けたライバル宣言にびっくりする、が、それと同時に私という存在を認めてくれているんだと嬉しくなった。
「うん!私負けないよ!」
リリアーナがすっと手を差し出す、私はそれをギュッと握り返した。
その後少々遅刻気味になってしまったお茶会へ急ぐ。
「あ、ステラおそーい一体何してたの?」
「ちょっと古い友達を話してた」
「そうだったの、さぁお茶を温め直すから座って座って」
◇◇◇
その後は3人の班結成を祝ってお茶会を始めた。
「ステラはお母さんと二人暮らしだったんだよね」
「うん、でも実はお父さんが生きてるみたいで魔導士になれば会えるかもって」
「積極的……ポジティブ……」
ズズーッとお茶を啜りながらコマチちゃんは答える。
「私はあるものを集めてる……魔法学院に入るのが一番手っ取り早く情報が集まると思った……」
コマチちゃんに少しは打ち解けたのかもと淡い期待を寄せる。
「へぇあるものって?コマチは何かのコレクター?」
「何かすごい宝物とか?」
ステラとベルの続けざまの質問に淡々と返すコマチちゃん。
「公には言えない……けどとても大切なもの……」
「そうなんだぁ、そのために魔導士になるのも面白いね」
「コマチってさ名前からして異国の人だよね、それで魔法が苦手なのかな?」
「わかんない……」
普段は寡黙なコマチちゃんもこれからを共にする仲間ができたせいか饒舌に話すようになっていた。
「はぁ……でも私なにもできなんだなぁ、魔力の素質のあるコマチちゃんと違って魔法も全然だし……このままだと退学になっちゃうかも」
胸の重しを吐き出すかのように言葉を絞り出す。
「そんなことないわよ!人それぞれ得手不得手があるもんだし、それに明日は召喚の儀式よ!
使い魔と契約するの、もしかしたらステラはそこですごいの呼び出しちゃうんじゃない?」
「そ、そうかなぁ。でもお陰で希望が持ててきたよ!ベルありがとう」
「これから私達の班も頑張って他の班を見返そう!」
何時になく意気込んじゃう私。
初日で早く終わったというのもあるがすっかり辺りが暗くなるまで話こんでしまった。
「コマチちゃんは寮は何号室なの?」
「このすぐとなりの211号室……人数が余ったから一人部屋……いつでも遊びにきて」
「うわぁ一人部屋かぁいいなぁ、じゃあ私とベルでまた遊びにいくね」
「うん……待ってる……」
そういうとコマチちゃんと扉の前で別れを告げ二人は部屋に戻った。
「召喚の儀式かぁ、私のどんなの呼び出せるんだろう」
「召喚の儀式で呼び出すのは生涯の相棒ともいうべき存在だからね、たまにすごいの呼び出しちゃう人もいるけどね」
「そっかぁ楽しみだなぁ」
明日の儀式ではどんな使い魔を呼び出せるんだろう。
そのことを考えるとなかなか眠れずにいた。
「どうしたの?緊張で眠れない?」
ベッドに入ったはいいがどうもソワソワして眠れない。
そんな私に気づいたのかベルが声をかけてきた。
「うん、何ていうか今日失敗しちゃったから明日は大丈夫なのかなって」
「大丈夫よ、ステラは一生懸命だもの、きっといい使い魔を召喚できるわ」
「ありがとう」
「そうだ!明日の召喚の儀式の予習しておかない?召喚の魔導書があるの」
「いいの?」
「ええ、だって友達が不安がっているんですもの。お茶入れるわね」
そういうとベルは灯りをつけて紅茶の用意を始めた。
温かい紅茶の香りが緊張をほぐす。
「えっとまず、召喚っていうのは契約を結ぶところから始まるんだけど、
他の魔法と違って契約した召喚獣は詠唱や発動時の呪文もいらないし呼ぶ召喚獣によっては中級魔法レベルは期待できるわよ」
「へぇ~そうなんだ」
「ステラはもしかしたら召喚士向きなのかもね」
今日失敗したばかりだというのにもう期待を向けてくれてるベルが眩しい。
「だとしたらしっかり契約の手順を予習しておかないとね?」
「うん!」
「といっても私も召喚なんてしたことないんだけど、でもすごいの呼んで今日笑ってた奴等を見返してやるわよ!」
「私も頑張らないと」
そういって二人で参考書を見つめながらああでもないこうでもないと議論を交わしながら夜は更けていくのであった。
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