第8話


「さぁさぁ、今日も授業を始めましょ~」



「先生今日は何の授業するんですかぁ~」



頭の後ろで腕を組みベルは不満そうに漏らす。



「今日はねぇ、ズバリ先生と鬼ごっこをしてもらいます、あ、皆は鬼ね」



「はぁ~?鬼ごっこ~?先生遊びに来てるわけじゃないんですよ私達」



ベルのいうことも最もである。



「先生こう見えても昔はハミングバードの隊長を務めてたんだよ~」



____ハミングバード、学院長直轄の魔法部隊、その実力は王宮魔導士にも引けを取らないという。



「あなた達の年頃で任命されて様々な場数を踏んできたものよ」



「すごい……」



「人は見かけによらず……」



「まぁまぁそんなわけだからどんな手を使ってもいいから私を捕まえればそこで授業終了、無理だった場合は居残りで各種自主トレね」



「ええええ」



3人ともが非難の声を上げる。



「じゃあ今12時だから5時の鐘がなるまでね、今から開始~よーいドン!」



そんなことに聞く耳を持たない様子でさっさと始めてしまった。



「わ、私いくよ!」



言葉と共にステラは駆け出す、その様子を見てかコマチも後に続く。



「あっ二人共ちょっとまってよぉ~」



ベルが渋々着いていく。



「ベルは基礎魔法で牽制しつつ距離を詰めて、私はスライムでいろいろ探ってみる、コマチちゃんは電気ショックの峰打ちで最後に止めを」



「わかった……」



「もうどうなっても知らないわよ!」




クレアは森の木の枝から枝へヒョイヒョイと飛び移るように移動していた。



「落ちこぼれって聞いてたけど中々どうして、正確に追ってきてるじゃない」



ニヤリと笑みをこぼす。



時々飛んでくる基礎魔法を避けながら独りごちる。



「案外磨けば光るかも、これは磨きがいがありそうね」



その後方では慣れない森の中を走りながら作戦会議が開かれていた。



「牽制しても一向に距離がつまらないわ。どうしよう」



「スライムマリオネットの距離まで詰まってくれればいいんだけどそう簡単に捕まってくれそうにないし……」



打つべき手が全く思いつかない。



それからはクレアの思うがまま森の中を5時間も走らされ続けた。



5時の鐘がなる。



「はいタイムアウト~ご苦労様でした~」



三人は息が上がって返事もできない。



それに引き換え息一つ乱さずクレアが答える。



「この授業はね~体力の底上げとチームワークを見てたの」



そういって先生答える



「あなた達試験でのチームワークは良かったけどそれは予め入念に練られたものでしょ?


 任務では咄嗟の判断が必要な場面もあるの、瞬時に作戦を立てなければならない事態にも遭遇するわ」



「また明日も体力アップと思考の柔軟さを鍛える授業するから楽しみにね~」



そういうとクレアは手を振りながら帰っていった。



ステラはギュッと唇を噛みしめる。



「私達に足りないもの……」






そんな授業を半月程やったが全戦全敗だった。



「今日で鬼ごっこはおしまい、基礎体力も少しは付いただろうし次のステップへ向かうわ」



「それはズバリ、個々の個性を伸ばしま~す」



「ベルは回復と錬金、ステラはスライム、コマチは剣技ね」



そういってクレアは片肘ついてごろ寝を始めた。



「わかんないとこあったら先生に聞くんだよ~」



「うわぁなんて無責任」



「そ、そんなぁ」



「サボり魔」



そんなことを言っても動きそうにないので3人は渋々修練を始める。



(こういうトリッキーな子達は独学で学ばないとダメなのよ)



クレアはそう心の中で呟くと欠伸して目をとじた。



◇◇◇




少し時は遡り



「今日からおまえたちの面倒を見るアレスだ、これからこの班はアレス班とする」



いかにも厳格そうなサイドポニーの20代半ばと思われる教師が仁王立ちで生徒の前に立つ。



「私はリリアーナ・リュエール・デ・ゼトワール、リリアーナとお呼びください」



「わたくしはエリザベル・ゾーヌ・グラシアル、エリザベルでいいですわ」



水色の髪に常に笑みを浮かべたような物腰やわらかな少女が名乗る。



「ボクはヴェネット・フー・ド・ジョワ、ヴェネットでいいよ」



こっちは赤毛のショートカット、天真爛漫といったかんじでノリも軽い。



「お前たちの試験での武勲は知っている、既に二つ名も持っているようだな」



「疾風のリリアーナ、霧雨のエリザベル、業火のヴェネット」



「お前たちがいくら優秀であろうと特別扱いはしない、これは私の方針だ」



「まずはお前たちの腕前を見せてもらう、ここ最近森に猪の群れがでて農作物や森を荒らしているらしい、こいつらの討伐が今日の任務だ」



「承知しました」



「あらあら、いきなり任務?」



「まぁボクからすれば軽いけどね~」



「では早速群れがいると思われる場所に向かう」



アレス班は足早に森の奥へと進む。



「……あれだ」



20頭はいるであろう獰猛そうな猪が集まっていた。



「私がやります」



そういうとリリアーナが群れへと向かっていった



そっとステッキを掲げるとあっという間に竜巻が起こり群れを巻き上げた。



「あら?」



竜巻を逃れた一頭がエリザベルに向かって突進してきた。



エリザベルは穏やかな顔を崩さず棒立ちしている。



猪の獰猛なキバがエリザベルの足元に突き刺さった……かに見えたがまるで蜃気楼のように彼女は霧散した。



その猪をヴェネットが上から狙い付ける。



「フレイムナックル~!」



見事猪の頚椎に入り猪は倒れた。



「先生、終わりました」



リリアーナが山積みになった猪を背に報告する。



「初任務ご苦労、見事だったぞ」



「先生?この猪達いったいどうしましょう?」



「何、学園に持って帰り晩餐にすればいい」



「やったーお肉だー!」



こうしてアレス班の初任務は終わったのである。





◇◇◇




そして時は今




「ねぇ先生~いつまで自主トレ続けるんですかあ~、アレス班の子達はもう初任務終えたって噂じゃないですか~」



「よそはよそうちはうち、自分の力を信じて頑張んなさい」



ベルはぶーたれながらもトレーニングを続ける。



一方でステラは目を閉じ座り込んでいる。



「こらステラ~サボっていいなんていってないぞ~」



「え、ああ違うんです先生、これは魔力の感知をしてて」



「ん?ステラもしかして魔力で敵の情報がわかるの?」



「あ、はい少しづつですけど……」



「その方法、一体誰に教わったの?」



「いやこれは独学というかいつの間にかでるようになってたてかぁその……」



「これはこれはAクラスでやっと覚える技だよそれを独学で?」



「はい、できます」



「すごいじゃないステラ!いや~やっぱ私の生徒は一味違うねぇ」



「これそんなにすごい能力だったんだ」



「普通の魔導士はそんな敏感に察知できないんだよ」



「これを大進歩だよ、やるねぇステラは」



「そ、そんなにすごいんですかこれ」



「ああ、胸を張っていいよ」



「もっとコツを掴んで魔力探知で誰だか判別できるかその能力重視で修練するように」



「は、はい!」



(しかしあんな特殊能力一体どこで……)



「先生~私の修練って基礎魔法の復習とマジックアイテムの調合ばっかりでパッとしないんですけど、なんかすごい魔法とかないんですか~?」



「う~ん強力な魔法ねぇ……要するにとっておきってのが欲しいんだよね?」



「そう!とっておきの一撃!」



「ベルは基礎魔法の中でも雷魔法が得意だったわよね、これなんてどうかしら」



「ストーンウォール!」



5枚の土壁が形成されていく。



「まずこうやってサンダーボルトの要領で手に電撃を集めていく……」



バチバチと音を立てながらクレアは掌に電撃を纏っていく。



「これを引き伸ばして槍の形にする」



段々と電撃は形を細長く変えていく。



「長く、鋭く、といったイメージで」



槍を化した電撃を土壁に投げ撃つ。




轟音を立てながら槍は土壁を貫通していく。



5枚目に届きようやく貫通が止まった。



「とまぁこんな感じ、名付けてライトニングスピア、威力は抑えてあるから本来はもっと貫通するよ」



「す、すごい……威力を抑えてもストーンウォール4枚を貫通するなんて」



「よ~し私もやるぞ~」



ベルは掌に電撃を集め始める……が



「あれうまく伸びない……」



「最初は両手でやっても大丈夫だよ~」



「こうかな?」



ベルは掌を向かい合わせにしその間に電流を走らせる。



徐々に電流が伸び始める。



「ストーンウォール!ほれ、やってみ」



先生が土壁を作ってくれた。



「えいっライトニングスピア!」



爆音をともに土煙が立つ、が貫通はせず1枚目に傷をつけただけに終わった。



「あ、あれ?」



「まだまだ威力不足ね、もっと濃縮して引き伸ばして撃つのよ」



「もっと……濃縮……」



ベルは言われた通りに電流を貯めるが時間がかかる



「ほらもっと濃縮して」



「えぇまだですか~」



「そんなんじゃ私の威力には届かないよ~」



濃縮すると槍は短くなってしまう、濃度を保ったまま伸ばさないといけない。



「なにこれ意外に難しい……」



口で言うのは容易いがいざ実践しようとなるとそうはいかない。



ベルはどうしても長い槍を作れないでいた。



「も~どうしてもっと伸びないのよ~」



短い槍で放っても2枚貫通がいいところだった。



「それにこの魔法、魔力の消耗が想像以上に大きい……」



剣技に頼るコマチやスライムを自在に操ることができるステラをと比べてベルにとってこれは大きなネックだった。



「この魔法今の私じゃ撃てていいところ2発が限度」



困ったものだ威力はそれなりにあるのだがチャージに時間がかかる上、上限2発ときた。



そうだステラに聞いてみるのはどうだろう、彼女は最近アクセサリーのそれ抜きでも魔力コントロールが抜群に上手くなっている



スライムという不定形の操作を行う上で上達したのだろう、何かコツがあれば聞きたいものだ。



「どうしたのベル?」



「あのさ、ステラってここ最近で魔力コントロール抜群に上手くなったでしょ?なんかコツでもあるのかなって」



「あー私はスライムを粘土とゴムのイメージで操ってるからなかぁ、ベルはもっと長い棒をイメージすればいいんじゃないかな」



なるほどそう考えると合点がいく。



これで少しは上達するだろうか。



ステラからアドバイスをうけ、再び魔法をつかう。



「はぁぁぁ!」



もう一度電流を貯める。



今度は比較的上手くチャージでき電流の流れも滑らかだ。



「これなら……」



長く、鋭くのイメージで電流を伸ばしていく



さっきより長めに伸びた。



濃度を維持しつつ土壁に投げ撃つ。



稲妻の様な音を立てて今度は4枚貫いた。



「はぁ、はぁ、はぁ」



今の私にはこれが限界だ。



「お~やるようになったじゃない」



「でもこれ以上は威力が伸びなくて……」



「初っ端からこれだけできれば上出来よ、後は練習あるのみ」



「練習かぁ」



これでも戦力不足は補えただろうか、そう不安に思う。



「よし!明日も今日の修練を励むように!じゃあ私は雑用があるからこれにて」



そういうと先生は足早に立ち去る。



「はぁ私達これでいいのかしら」



「でも少しずつ強くなってる気がするよ」



「反復練習」



こうして修練を続ける3人であった。

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