第12話

グォォォォォォン!



鳴き声と共の炭鉱が震える。



パラパラと落ちてくる小石も気にせず目の前の恐怖にステラ達は震えていた。



只々絶対的な恐怖。



双頭のドラゴンなんておとぎ話でしか聞いたことがない。



今自分たちは夢を見ているのだろうか、そう思わせる光景であった。



ズシンズシンと歩みを進めてくる竜に対しステラはやっと自分を取り戻せたのか二人に言葉をかける。



「に、逃げよう!」



他の二人もはっと我に返る。



「あの大きさなら坑道は通れないはず、一気に出口まで逃げよう!」



ステラは必死に二人に言い聞かせる。



「わかったわ、早いとこ逃げましょう」



3人で急いで坑道を走る。



後ろからは地響きを鳴らしながら鳴き声が近づいてくる。



ドラゴンは坑道を壊しながら無理やり進んできたのだ。



「何あれ、あんなの反則じゃない!」



「今は早く逃げないと!」



「絶体絶命……」



三人は坑道の中を駆け巡る。



途中で分岐路に差し掛かるが事前につけておいた印によって迷わずに済んだ。



それでも後ろからは落盤の音と共に唸り声が聞こえてくる。



大量の土煙がステラ達のすぐ後ろまでせまってきている



その時ステラが何か思いついたように話す。



「ベルすぐ後ろにファイアボール撃てる?」



「撃てるけどそんなものあいつには効かないわよ!?」



「いいから!私の合図で撃って!」



「もうどうなっても知らないわよ!」



ステラは瞬時にスライムを展開させる



「今!」



「ファイアボール!」



その瞬間炎が土煙に着火し大爆発を起こした。



粉塵爆発だ、奴が崩した坑道の粉が舞い上がって可能となったのだ。



その爆風と衝撃から守るようにステラはスライムで皆を包む。



ものすごい轟音と落盤で後ろの坑道は塞がれた。



「やった!?」



思わず声が漏れる。



しかし瓦礫に埋もれた山から再びドラゴンが顔を出す。



ダメだ、坑道ごとドラゴンを封じようと思ったがうまくいかなかった。



坑道をでると空がやんわり明るくなり始めた頃だった。



3人が坑道からでた後すぐにドラゴンが飛び出してくる。



ベルは急いで救難スクロールを取り出し指を走らせる。



するとそこには文字が浮かび上がり綴り終わると共に空へ飛び立った。



3人は朝霧のかかる森の中を走り抜ける。



服には枝葉が付きボロボロになっているが気にしている余裕は無い。



「殺される……誰か助けて……」



ステラは息切れ混じりに声を絞り出す。



ドラゴンは木々をなぎ倒しステラ達に迫る。



「どうして……どうしてこんなことに……」



ステラは呟きながらも何か解決策はないかと考え巡らせる。



「このままじゃ全員やられちゃうわ、なんとかしないと」



「うん、足止めしながらじゃジリ貧になっちゃう」



「あれ、街に出しちゃいけない」



「私……いい考えがある……夜明けと共に開けた場所に誘い込める?」



後ろからは唸り声が近づいてくる。



「どうかしら、粘れればいいけどやるしかないわね」



「わ、私もその作戦に賭けてみたい」



「わかった……じゃあ……作戦を伝える」



「ステラ……あのドラゴン数秒でいいから動き止めれる?」



「あんな大きなのにスライムマリオネット試したことないけど、やってみる!」



段々と森が切り開け日も昇ってくる。



「コマチ、私は?」



「ステラと一緒に足止め……お願い」



「わかったわ」



森を抜け草原に出ると同時に迎撃の体制に入る。



生木を倒す轟音と共にドラゴンが現れた。



ドラゴンがステラ達に向けて火炎を吐き出す。



「ストーンウォール!」



ベルが即座に土障壁を作り火炎を防ぐ。



「小賢しい!」



ドラゴンは尻尾の一撃で土障壁を粉砕する。



「きゃっ!」



距離を取っていたコマチ以外の二人は吹き飛ばされてしまう。



咄嗟にステラがスライムを張り直撃を避けたのは幸いだった。



破城槌にも等しい一撃をもろに受けていたら今頃二人は立てなくなっていた。



「うっ……大丈夫ベル?」



「ええ、何とか立てるわ……」



「ベル……手伝ってくれる?」



「ウォータシュート!」



ステラはウォータシュートを唱えるがもちろんステラのウォータシュートには攻撃できるレベルではない。



ステラはそれ同時にスライムを出しウォータシュートを吸わせる。



ベルも状況を察したのか同じく呪文を唱える。



「ウォータシュート!」



敵ではなくステラのスライムに放つ。



こうしてスライムの体積を増やすのだ。



どんどん大きさを増したスライムで近くの大岩を持ち上げる。



フレイルの要領でドラゴンの側頭部へぶつける。



岩は砕け散ったがドラゴンは何ともない様子だった。



「フン!効かぬわ!」



ドラゴンは再び火炎ブレスを吐き出す。



今度はステラがスライムで防御する、ベルはウォータシュートをスライムに放ち続ける。



火炎で少し容積は減ったが二人分のウォータシュートでまた容積を増大する。



「こう炎吐かれちゃ近寄れないよ」



「もう大きさは充分でしょ、私が囮になるわ」



「そんな!危険すぎるよ!」



「他に誰もいないでしょ、だから私がやるわ」



「でも……!」



「ステラは拘束に集中して」



「わかった……くれぐれも無理しないでね」



「オッケー」



こうしてステラとベルは二手に分かれるが双頭のドラゴンには関係ない。



二つの頭が二人を狙って火炎ブレスを吐く。



「もう一つの頭も私に向けさせないと……」



「煙幕に炸裂弾……それと魔法スクロール2枚……これだけで何とかなるかしら」



ベルはまず煙幕で視界を断つことにした。



「喰らえ煙幕!」



煙はドラゴンを包み見事視界を断ち切った。



「次は炸裂弾!」



ステラの方へ向いてる頭に投げつける、すると二つの炎柱がベルを襲う。



「ストーンウォール!」



ベルは続け様に後ろへ飛び退いた、ベルの左脇腹を尻尾が掠める。



「ぐっ!」



制服が一部破け肌が露わになる。



でも注意は引けたようだ。



「魔法スクロール、プロテクション!」



パーッと魔法スクロールが消えて呪文が発動する、これは身体を硬化させて防御を上げる魔法だ。



「これでっ!」



紙一重で尻尾を避けきる。



続いて火炎ブレスが迫りくる。



「魔法スクロール、イリュージョン!」



魔法スクロールが消費されベルの幻が現れる。



「ぬぅ!小癪な」



ドラゴンは前脚の爪でベルを薙ぎ払う。



幻はかき消されるがそこにはライトニングスピアをチャージしたベルがいた。



「くそが!」



「ライトニングスピア!!」



ベルが投げ放った電流の槍はドラゴンの目に刺さる。



「ぐあぁぁぁぁぁ」



ドラゴンがひるんで体制を崩す。



「小娘が!!」



ドラゴンが前脚を振りかぶった瞬間ビタッと動きが止まる。



「な、何ぃ……!」



「ナ、ナイス、ステラ……」



巨大なスライムがドラゴンを貼り付けにしていた。



「な、長く持ちそうにないよ、コマチちゃん……」



コマチは素早く術の印を結び巻物を召喚する。



「我が呼び声に答え、我が元にあれ……」



巻物から剣が抜け出される。



剣は朝日を浴びて光の刃を伸ばす。



その刃はドラゴンの何倍もの長さとなる。



コマチはその剣を持ってドラゴンへ走り迫る。



「ストーンウォール!」



ベルが最後の力で唱えた魔法にコマチが踏み台にして宙を舞う。



「天海小町の名において命ずる、輝け……天照!」



身体をひねりながら繰り出される光の刃は双頭のドラゴンの両首を断ち切る。



「ガァァァァァァ!!」



ドラゴンの身体が光り元の人間の姿へと戻る。



「天照……太陽光を吸収して光の刃と成す剣……」



コマチが着地すると剣は再び巻物に吸い込まれていった。



巻物が消えると同時にコマチもその場へと倒れ込む。



「ベル!コマチちゃん!」



ステラが駆け巡るとコマチは意識を失っているだけのようだった……ベルは!?



「ベル!」



ステラはベルの元へ急いだ。



「私は……大丈夫よ」



ベルは重々しく身体を起こした。



「わはは、私すごい格好ね……」



尻尾や爪の傷跡だらけで服がボロボロだった。



「怪我は?」



「大丈夫、かすり傷程度よ、それよりコマチは?」



「気絶してるだけみたい」



「そう、ならよかった」



ベルに肩を貸してコマチも元へと行く。



「お~い」



丁度そこへ先生が馬に乗ってやってきた。



「おや?遅かった?」



「遅かった?じゃないですよ先生!ベルもコマチちゃんももう動けないんですから!」



「ごめんごめん、これでも飛ばして来たんだよ?」



「これが今回の犯人?首切れてるけど」



「はい、この盗賊が本の鍵を開けてドラゴンになったんです」



そこには首と胴が離れた盗賊の亡骸と古ぼけた鍵のかかった本が落ちていた。



「これが盗まれたっていう本ね」



先生は本を取り上げる。



「その本が急に光りだして……」



「あ~詳しいことは帰ってから聞くわ、とりあえず帰還スクロールもってきたから帰りましょ」



そういって先生はコマチをおぶった。



長く苦しい戦いは幕を閉じた。

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