第15話
急遽敵陣に乗り込むことになってしまった。
確かに敵の指導者と交渉するのは合理的ではある、が、危険も大きい。
危険を避けるためにも国境を大きく迂回して回らなければならない。
そのためにも長旅になる、準備は充分にしておかなければ。
そう思い立ち商店街へ向かったが戦争が始まるとのことでどこも閉店状態だった。
何とか荷物を整えると早速出発準備に入る。
「これよりクレア班は敵陣に姫殿下をお送りする。敵陣に乗り込むのだから何かあった時は姫殿下の安全を最優先に」
「「「はい!」」」
「姫殿下には我が学院の制服を着てもらっているが万一のため姫殿下を囲うようにもっとも安全な陣形で移動する」
「先生、この迂回路を使うと私達が敵陣に乗り込む前に国境で先発隊が敵と遭遇します」
私は疑問に思っていたことを口走る。
「それは仕方ない、逆に敵が国境部隊に気を取られてるうちに背後から奇襲をかける事ができる。」
「そんな奇襲だなんて、私は話し合いに行くのです」
「姫殿下、敵はおいそれと話を聞く輩ではございません。大将のもとへと隠密に移動し奇襲に乗じて話し合いの場を設けるのです」
「わかりました、作戦はあなた方に一任します、しかしなるべく無闇な殺生はさけてください」
それは私達も望む所だ、余計な戦闘は消耗するし、何よりアルテア様の身が危険に晒される。
「それはアルテア様御身あってこそ、そこは何卒ご容赦ください」
私が告げるとアルテア様はどこか顔を曇らせて俯いた。
そうこうしてるうちに先生が馬を引いてやってきた
「姫殿下、お乗り下さい」
そういって跨ってからアルテア様に手を差し伸べる。
アルテア様が先生の後ろに跨ると私達も自分の馬を引いてきた。
「姫殿下、途中まで馬で行きます大分迂回することになりますが落ちないようしっかり掴まってて下さい」
アルテア様は無言で頷く。
「皆、準備はいいわね、ちゃんとついてきなさいよ」
先生が軽く馬の胴をかかとで蹴ると馬は駆け出した。
私達もそれに続く。
馬を飛ばして街道の終わりについた頃丁度日も暮れかかっていた。
「姫殿下、ここからは徒歩になります」
先生がアルテア様を馬から降ろすと私達は馬に帰還スクロールを貼り付けて学園へ返した。
「姫殿下ここからは獣道です、足元に充分お気をつけになってください」
「先生、もう日が暮れるので今日はここで野営しては?」
私はアルテア様が心配でそう提案する。
「私はいいのよ、心配しないでありがとうステラ、でも今は一刻も早く歩みを進めねばなりません」
そう言うとアルテア様は先生に続き獣道へと入っていく。
私達は心配ながらも後へと続く。
しかし予感は的中し普段から森を駆け巡っている私達よりもアルテア様が先に限界がきた。
「ハァハァ、歩みを止めてはなりません、早くこの無益な戦争を止めなければ……」
ついにはアルテア様はへたり込んでしまった。
「先生、ここはやはりステラの言うように野営したほうがいいんじゃないですか?」
「そうね、ここらが限界かもね、じゃあ野営の……」
「なりません!」
アルテア様が声を上げる
「今この瞬間にも、無駄な血が流されているのかもしれないのに私が足を引っ張っては……」
「先生!私に考えがあります」
そういうと私はアルテア様をスライムで抱えあげた。
「すみません、私……」
「いいんですアルテア様、これで進めますね」
「ありがとう……ステラ」
そんな一瞬の気の緩みからか私達は”それ”に気づくのに遅れた。
敵の斥候、もうここは敵の領地内だったのだ。
斥候はすぐさま情報を持ち帰らんと私達と距離を取る。
「まずい!」
先生が後を追う、情報を持ち帰らせてはならないのだ。
「ハッ!」
木々を貫き先生のライトニングスピアが斥候を射抜く。
「ああ、また無益な血が……」
「アルテア様、これは仕方ないことなのです」
敵にこちらの情報を渡すわけにはいかない。
「死体の処理どうします先生」
ベルが重い空気の中口火を着る。
「そうだ、ステラのスライムは?」
「私のスライムだと時間かかっちゃうかな……そうだここからちょっと前に通った底なし沼に沈めるのはどうでしょう?」
「それいいわね、私とステラで行ってくるからその間ベルとコマチは姫殿下の護衛を」
「おっけー任せて」
「らじゃ」
皆の前では気丈に振る舞っていたけれどやっぱり怖い。
沼に沈んでいく死体を見ながら、いつかは自分も敵を殺さなくてはならないのかと緊張の糸が張り詰めていた。
3人の元へ戻るとアルテア様が顔面蒼白でへたり込んでいた。
それもそ無理はない、王宮では死体などまず見ることはないはず、それに加えて肉体疲労と精神的ダメージ。
私はすかさずスライムで姫様を包み込み寝袋状の形にする。
「アルテア様はそこで少し横になっていてください」
もう敵領地に入っている、いつまたさっきのようなことが起きるかもしれない。
私はアルテア様を背負う形に変えて森を疾走する。
「姫殿下、もうすぐ敵陣営の真後ろにでます」
先生がそういうとアルテア様は覇気を取り戻したように見えた。
「姫殿下、万が一交渉が決裂したときは敵の首魁を討ち取らねばなりません、お覚悟はよろしいですか?」
「はい、わかっています、皆さん私の安全第一に考えて頂いてるんですよね、その時は仕方ありません」
アルテア様は納得したようだった。
それからじゃ敵に会うことなく無事総大将がいると思われるテントに辿り着く。
そして擬態化魔法でローブを被っていれば暗闇の中そうそう見つかるもんでもない。
まず見張りは2人、衛兵を默らせる。
私の出番だ。
衛兵2人を見事に捕まえ近くの森にしばりつけることができた。
後はテント内に大将一人だけだ。
テントに入ると「何奴だ!」
と声を張り上げられてしまった。
衛兵を呼ばれないうちに黙ってもらおう。
スライムでぐるぐる巻きになってもらう。
鼻と耳だけを残してアルテア様が話かけるのを待つ。
「突然ながらの無礼、お許し下さい、私は隣国のアルテア・ド・ターブルロンドと申します
どうか現在の場所より兵をひいてほしいのです」
「がぼぼ、がばがば」
なにかいいたそうなので口の部分も開けた
「馬鹿め、こっちの勢力は貴様らの倍以上。なぜ撤退せねばならんのか」
スライムをぎゅっとしめる
「ぐはぁ、ただの司令官の儂を殺しても戦争はもう止まらぬ、また新たに司令官が派遣されてくるだけだ」
アルテア様は唇を噛み締め目をそらす
「先生どうしよう、このままじゃ私達の存在がバレてしまいます」
「そうね、じゃあこうしましょう、大将首を取り周りのテントに火をつけて混乱状態に陥らせるの」
「じゃあそれで行きましょう先生」
ベルは渡りに舟と言わんばかりに乗り気だ。
「これで敵の駐屯地はめちゃくちゃでしょ?満足に補給も受けられないとなると状況も変わってくるでしょ、ステラ、やれる?」
「わ、私人を手にかけたことがなくね……」
「しょうがないわねぇ、じゃあ私が……」
そう言いかけた瞬時コマチちゃんの刀が相手の喉を貫いていた
「今日殺さなかった敵は明日殺しにくる……」
コマチちゃんはすごく冷徹に言い放った。
「じゃ、じゃあ司令官も片付いたとこだし、物資の焼き払いして戻りましょう」
ベルも相当ショックだったのか声がうわずっている。
「二人とも覚えておきなさい、これが戦争よ」
私達は無言で頷いた。
その後は擬態化魔法をかぶり武器庫、食用庫をおもに狙って火付けした
消火の作業もあり、幸い私達には誰も気づいてないようだった。
前線の補給基地がやられたとあっては軍も引かざるを得ない。
ほんの一時的ではあるが戦闘を回避できたのである。
そうして自分達の領地に戻ってきた私達は野営することにした。
保存食をアルテア様と分け合う。
「アルテア様、お口に合うかどうかわかりませんがどうぞ」
干し肉と豆のスープ美味しいとはいってくれたが宮廷の料理にはかなわないだろう。
夜は木々にスライムをハンモック状に広げて眠ることにした。
その辺の木の枝をハンモック下部に吸着させ周りからの視線も隠せる。
なにより私のスライムが寝心地がいいと評判だったので嬉しい。
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