第10章③ グローリア

 利益という言葉が無かった時代、戦争の動機は専ら君主の栄光を追求する事にあったという。


 ラホイ王国は、他の列強諸国と異なり、政治体制を近代化する事に失敗し、産業革命に順応する事にも遅れ、今は無き専制君主の時代に思いを馳せている。


 ラホイ王は、ルペン共和国の市民革命やマルクヴァルト邦国の立憲君主制への移行に政治的教訓を得る事が出来なかった。


 いや、見たくない現実を直視する能力も意思も無かった。彼は、ただひたすらに、君主の栄光を求めた時代に回帰しようとしていた。


※※


ラホイ王国南東部・プチダモン州:州兵第1沿岸砲兵連隊


 灰色の艦隊が、海岸沿いに姿を現わしたのは、地元の漁師が出港する早朝の時刻だった。


 海岸から15海里に陣取る日本海軍の第178任務部隊は、水平線の向こうから太陽が昇る様に旭日旗を翻した。


 同部隊は、ケイトマン諸島の占領任務に派兵された第179任務部隊の作戦コンセプト(※TF-179は両用即応群・水上戦闘群・海兵遠征大隊の混成部隊)を受け継ぎ、輸送揚陸能力と海上戦闘能力を併せ持つ。


 プチダモン州の沿岸要塞は、港湾の両端に築かれ、湾口と湾外を行き来する商船に睨みを利かしている。


 海岸線と港湾部の警備は、王国軍でなく、州兵によって提供されており、同州の独立性を伺わせる。


 沿岸要塞から湾外を監視する兵士は、水平線から現われた艦隊の規模に我が目を疑った。


 望遠鏡が壊れているのではないかと叩いてみるが、どうやら壊れていないらしい。彼の報告に要塞司令部と沿岸砲兵は、てんやわんやで、休息を取っていた将兵は急いで持ち場へと戻る嵌めになった。


 沿岸砲兵が急いで持ち場へと戻っていると、やがて件の外国軍艦が海岸へと接近し、よりはっきりとその姿が視認できる様になっていた。


 日本海軍は、沿岸砲台の射程距離外へと碇泊し、それ以降はその場から動こうとはしなかった。


 正体不明の外国海軍がすぐそこにいる恐怖からなのか、要塞司令部は、沿岸警備用のコルベット1隻と高速連絡船1隻からなる緊急の海上部隊を当該水域に派遣した。


 場合によっては、敵海軍に攻撃・撃沈される恐れのある危険な仕事だったが、水兵は黙々と出航の準備を行った。


 高速連絡船には、要塞司令部の幕僚と従者、港湾局の役人が乗り込んで、外国海軍を臨検しようと日本海軍の艦艇に近付いた。


 幕僚(大尉)は、軍艦に近付けば近付く程に、自身の軍事常識とかけ離れた外観を信じられない気持ちで、理解が追いつかなかった。


 一方の役人は、これだけの造艦技術があれば、もっと巨大な戦列艦も建造できるかもしれないとか、暢気な感想を洩らした。


※※


プチダモン州・バラノ市:州政府・緊急会合


 プチダモン州は、ラホイ王国で最も豊かな地方で、州の首都であるバラノ市は、人口120万人を誇る第二都市だ。


 同州は、独立国であった頃からラホイ語とは異なる言語と文化を育み、ラホイ王国の一州となってからも、自州の言語と文化を頑なに墨守している。


 同州は、独立運動が盛んで、中央政府とは常に緊張関係にあり、中央政府の政策や決定に背く事も珍しくない。


 独自の軍事力である州兵を維持しているのは、単なる州の防衛だけでなく、内戦や独立戦争も想定しているからだ。


 その独立性と自治権は、領邦国家や半主権国家に近い。


 州政府は、沿岸に現われた日本海軍への対応を諮る為に、関係機関の幹部からなる緊急会合を開催した。


 しかし、時間的な余裕が無かったからなのか、一部の部局や幹部は出席していない。


 州総督は、沿岸要塞司令部から派遣された幕僚(大尉)に、日本海軍の印象を訊ねた。


「非常に訓練が行き届いている印象を受けました。自分が乗艦した軍艦(ミサイル駆逐艦「おきつかぜ」)は、艦内が清潔に保たれていて、とても200人以上が乗艦しているとは思えませんでした。

 練度が高い様に見えるのは、恐らくは志願兵を中心としているからでしょう」


「志願兵?海兵というのは、そこら辺から拉致するものだと思っていたが?」


「日本軍は、志願兵を中心とした軍隊らしいです。ただ、現在は戦時体制への移行に伴って、大量の予備役を動員しているとの事でしたが。

 徴兵制を基礎としている周辺諸国とは、軍制が大きく異なるのでしょう」


「確かに、日本海軍の軍艦は、我が軍よりも遥かに巨艦だったらしいが、それを踏まえると、僅か200人で運用できるという事か?」


「仰る通りです。自分が乗艦した軍艦は、戦列艦3隻分の全長(150m以上)を誇りますが、運用に必要な要員は、戦列艦1隻の1/3から1/4の兵力で足りる訳です」


「それは何とも……、我が軍よりもより少ない兵力で何隻も運用できる訳だな」


「えぇ、それはその通りなのですが。どうやら、日本海軍側の説明によると、軍艦1隻を造艦する費用は、戦列艦とは比較にならない程に高価だと言います。

 少ない兵力で軍艦を運用できたとしても、あれだけの巨艦を次々と造艦できるとも思えませんが」


「なるほど、要員だけでなく、軍艦建造の費用も問題になるのか。それで、日本国は我が州の脅威になるのだろうか?

 ここで友好関係を結ぶべきか?それとも、敵対するべきか?あるいは中立を装うべきだろうか?」


 大尉は、飽くまでも外交政策は門外漢であると前置きした上で、慎重に意見を述べた。


「わざわざ敵対する必要はありませんが、友好関係、つまり事実上の外交関係を結ぶべきかどうかは分かりません。

 日本政府が、マルクヴァルト=ルペン軍事同盟と対抗同盟のどちらかに付くのか、あるいはどちらにも付かないのかがまだ分かりませんし、一州が外国と独自に外交関係を樹立する事を中央政府は容認しないでしょう。

 だからと言って、この複雑で緊張状態が増している地域情勢の中で中立政策を採る事が望ましいとも思えません。

 従って、最低限の実務関係を結ぶだけに留めるのが良いのではないでしょうか」


 彼は、この緊迫化した地域情勢で、州が中央政府とより敵対するべきでないと考えていたから、中央政府の承認もないままに正式な外交関係を樹立する事には慎重だった。


 それに、まだ日本国についての情報が少な過ぎるから、もっと情報が集まってから外交なり貿易なりを準備すれば良いと考えていた。


「実務関係とは?」


「公式でなく、非公式に入国管理や通商関係を結ぶという事です。

 そもそも、我が州の対外活動は、全て中央政府の承認を得ている訳ではありません。

 中央政府が国交と通商を承認していない国家とも我が州は実務関係を維持しています。それに関して、中央政府はとやかく言っていないはずです。

 まぁ、黙認しているだけでしょうが。当面は、日本国との関係を我が州が我が国と国交の無い国家との関係を処理している方法を適用すれば良いのではないでしょうか。

 そして、中央政府の承認が得られれば、公式の外交関係を結べば良いのです」


「……中央政府が承認するとでも?黙認はしても、明示的な承認はしないだろう。

 何よりも、中央政府は我が州を含めて各州の不満に神経を尖らせているだろうからな。中央政府は、我が州単独の外交関係を決して認めない」


「自分に言われましても……、改めて申し上げますが、外交政策は門外漢ですから」


 大尉はそう言って、州総督との議論から降りた。


 そもそも、彼は軍人であって、外交官ではないし、州政府の幹部でもない。


 軍人が代理公使や駐在武官として外国に派遣される事もあるが、外交任務を命じられる軍人はごく少数だ。


※※


ラホイ王国首都:アルメイダ市


 アルメイダ市は、ラホイ王国の首都で、人口160万人を擁する最大都市だ。


 同市を中心とした街道は、各州の主要都市へと至り、陸上交通の要衝として、大量の商品が運ばれ、地方から商人や職人を引き寄せ続けている。


 人口動態は、西大戦洋地域の諸国でも特に発展が著しく、将来性の高い都市でもある。


 しかし、同市の発展ぶりとは裏腹に、同国の国際政治での地位は、斜陽と言って良く、列強の一国ではあるが、国際政治の表舞台にはあまり存在感を発揮できていない。


 ルッテラント連邦と同じく、かつては同国も地域に覇権を確立した海上帝国であった。


 だが、当時、新興国として台頭したエリザベス王国の挑戦を受けるに至り、海戦で大敗を喫してからというもの、外交でも軍事でもプレゼンスは急減してしまった。


 産業革命に順応して、経済大国として復活したルッテラント連邦とは対照的だ。


 非効率な統治機構と、恣意的な宮廷政治は、同国の限られた国家資源を浪費する事に忙しく、政治改革を断行できる政治指導者は不在のままだ。


 君主は、国際政治上のプレゼンスを復活する事を強く望んでおり、マルクヴァルト邦国のシルヴァニア侵攻に反対する対抗同盟の結成と加盟は、またとない機会に思えた。


 停滞する国内の政治改革への不満の捌け口を対外政策に見出したのだ。


 国内では、君主の寵臣が国政を壟断し、各州が中央政府に対して、不穏な姿勢を見せ始めている。


 特に、独立運動が盛んなプチダモン州は、主権国家の統一性を内側から破壊する脅威だ。


※※


アルメイダ市:宮廷評議会


 宮廷評議会は、君主の寵臣である宮廷顧問官による合議体で、王室大臣を兼ねる宮廷顧問官を例外として、省庁の長である国務大臣は評議会から排除されていた。


 評議会の議長は、君主の傅育官を務めた法学博士で、その功績によって、男爵に叙爵された。


 博士は、君主との信頼関係を利用して、宮廷評議会から国務大臣を排除し、権力を欲しいが侭にしている。


 君主は、臣下である博士の行状を咎めず、寧ろ、職権と地位の濫用を助長している有り様だった。


 元々、君主は国務大臣を信用してはいなかった。彼が幼君であった頃、摂政と国務大臣は君主を無視して、国政を処理していた。


 それはまだ幼い彼の矜持を傷付けるのには十分過ぎる程だった。


 彼が成人して、摂政から君主大権を取り返すと、傅育官を務めた博士を自身の宮廷顧問官に任命して、宮廷の掌握に動き、専制君主として振る舞う様になった。


 君主は、マルクヴァルト邦国への侵攻を主張し、これに博士も同調した。


 しかし、宮廷顧問官を兼ねる軍事評議会議長(海軍元帥)は、すぐさま侵攻案に賛意を示さず、代わりに君主の真意を質した。


 君主は、少しばかり不愉快そうな表情を見せたが、軍部の権力に配慮してなのか、投げ遣りに手を振って、話を促した。


「我が国は、対抗同盟への支援で十分に政治的利益を得ているのではないか?

 マルクヴァルト邦国との全面戦争では、被害が大きく、損害を上回る利益が見込めるとも思えない。

 そもそも、我が軍の兵力は90万人だが、邦国軍は160万人以上の兵力を擁している。

 もしも、我が国が邦国と全面戦争に陥れば、兵力の面で不利にならざるを得ないだろう。

 マルクヴァルト侵攻が、国益に適うとはとても思えないな」


 元帥の遠慮のない発言に、君主は眉を寄せて不快感を表わし、宮廷顧問官達は、二人の様子を緊張の面持ちで見守った。


 寵臣が任命されるはずの宮廷顧問官を兼ねる元帥がこうも君主に対して反抗的な態度を取るのは、彼が寵臣などではないからだ。


 彼は、軍部の利益代表であって、君主のご機嫌取りでも太鼓持ちでもない。権力を濫用する君主であっても、軍部の動向には注意が必要だった。


 ラホイ王国は、地域の独立運動などを抱える為に、国内情勢は不安定で、治安維持の為には、軍部の権力が欠かせない。


 国軍は、対外戦争だけでなく、内戦にも備えて、警察権を振りかざしている。


 思うが侭に行動する君主でも、軍部が持つ絶大な権力は理解できる。寵臣でない元帥が、宮廷顧問官を兼任しているのも、政治取引の結果だ。


 軍部は、宮廷評議会に軍部の利害を反映させ、君主は自身の権勢を維持する為に軍部の支持と協力を利用するという暗黙の契約なのだ。


 言ってみれば、同国は二つの主権機関が並立している状態である。君主は、率直に疑問を元帥にぶつけた。


「何故、元帥は戦争に反対する?軍部としての総意だと?」


「陛下、マルクヴァルト侵攻の戦争目的は何なのか?」


 元帥は、君主に対しても冷淡な態度を崩さなかった。それには、形式上の敬譲さえ感じられない。


 君主と臣下という主従関係よりは、寧ろ、同僚職の如く対等関係そのものだ。


 君主は、元帥の態度を咎めはしなかったものの、鼻を鳴らして、又も不快感を隠そうとはしなかった。


「決まっているだろう。我が国の栄光を取り戻す為だ!!周辺の小国にまで、落ちぶれた帝国と嘲笑されるのは、もう我慢ならん!!

 海上帝国として復活するのだ!!我が国は、他の列強諸国と比較しても強力な軍事力を備えているというのに、国際政治の場では無視されてばかりだ!!

 余は、その様な状況など望んではおらんのだ!!いまこそ、我が国と我が民族の武威を知らしめてやるのだ!!

 元帥よ!!お前も海軍軍人ならば分かるだろう?お前は、あの干渉戦争(ルペン革命戦争)で、共和国海軍との海戦に従軍したではないか!!

 余の主張が分からぬとは言わせぬぞ!!!!」


 君主は、元帥に対して畳み掛ける様に、正当性を並べて見せた。しかし、元帥は君主の意見に呆れた様子だった。


「国家の栄光を取り戻す為に、対外戦争を始めると?陛下は、いつの時代に生きておられるのか?

 現代(※作中の西大戦洋地域は近世後期から近代初期の時代)の戦争は、君主個人の動機でも、栄光の為でもなく、専ら国益に奉仕する行為だ。

 それで、国益とやらはいずこにある?邦国との直接対決が我が国の利益になるとでも?」


「余の利益よりも、国益が重要だとでも貴様は言いたいのか?開戦を決定する権限 は、余の君主大権に含まれるはずだろう」


「勘違いしないで欲しいが、軍部は戦争に反対しているのでなく、具体的な戦争目的と利益を提示しろと言っているだけだ。

 それが提示されなければ、我々は戦争を準備しようにも出来ない」


「……マルクヴァルト侵攻によって、我が国は領土を拡大できるではないか。

 それに、我が国の首に刺さったあのコスタ半島を処理する口実にも為り得るだろう?

 いい加減、エリザベス王国のコスタ海外州を処理するべき時期ではないのか?元帥はそれにも反対だとでも言うつもりか?」


「いや、コスタ海外州への侵攻と併合は、軍部として多いに賛成する所だ。だが、マルクヴァルト侵攻と何か関係があるとでも?」


 君主は、にやりと嫌な笑みを浮かべた。


「余が対外戦争を行いたい理由には、もう一つある。国内問題の不満を外部に振り向かせる事だ。

 動員令と徴兵・物資の徴発を名目として、各州を抑え込めるし、特にプチダモン州の独立運動を牽制できるではないか。

 プチダモン州は、コスタ海外州と友好関係にある。それも、堂々と余の宮廷(中央政府)に申告せず、密貿易を繰り返しているだろう?

 プチダモン州への抑圧は、コスタ海外州の兵站能力にも影響を与えずにはいられないのではないか?

 対外戦争は、我が国が抱える独立運動と領土問題を一挙に解決できる名目としては丁度良い」


 君主は、先程までの様子とは打って変わり、急に理性的になった様子だ。


 しかし、君主の主張は開戦の根拠としてはまだまだ弱いだろう。


 対外戦争を根拠として、プチダモン州から徴兵と徴発を行って、それがコスタ海外州に打撃を与えたとしても、他国から物資を輸送するだけだ。


 所詮は、急ごしらえの根拠でしかない。


 要するに、対外戦争をしたいという目的がまずあって、理由や根拠など後付けだ。


 彼は、元帥に対してマルクヴァルト侵攻を準備する様に命じた。


「とにかく、軍事評議会でマルクヴァルト侵攻を審議せよ。これは、余の命令だ。いいな?」


 元帥は、大げさに溜息を吐きながらも、軍事評議会で審議する事を承諾した。


※※


アルメイダ市:軍事評議会


 軍事評議会は、名目こそ陸海軍の調整役に過ぎないが、その実態は、国内を統制し、軍部の権力を維持する為の装置だ。評議員には、陸海軍の最高幹部が名を連ねる。


 軍事評議会議長(海軍元帥)は、壮麗な宮殿をまるごと借りた評議会の事務局へ戻ると、部下である書記官(陸軍中佐)が執務室を訪ねた。


「閣下、宮廷評議会は如何でしたか?」


「どうもこうも、宮廷は馬鹿ばかりだ。陛下は、戦争がしたくて堪らないらしい」


「何故、この時期に戦争を?どこに仕掛けるのでしょうか?」


「マルクヴァルト邦国だ。邦国によるシルヴァニア侵攻を、対抗同盟との全面戦争へと切り替えたいらしい」


「国内情勢が不穏な状態で、対外戦争をするかもしれないと?」


「陛下に言わせれば、まさに国内情勢を安全ならしめる為に、対外戦争を用いるそうだ。

 まぁ、理屈は分からないではないが、マルクヴァルト侵攻によって、国内の治安維持に必要な兵力がごっそりと遠征軍に持っていかれるかもしれん。それだけは阻止せねばならない」


「では、閣下は戦争に反対されるので?」


「いや、マルクヴァルト侵攻は、我が軍にとっても利益になるおいしい戦争だろう。戦時を名目にいくらでも物資を徴発できるし、邦国の領土を好き勝手に出来る好機だ。

 だが、対外戦争で、国内情勢を安定化できるかどうかは未知数だな。寧ろ、陛下と宮廷に対する各州の反発をより一層高めるだけに終わるかもしれない」


「それはまた何とも、面倒ですね。ですが、各州、特にプチダモン州を抑え込む何らかの措置は必要なのでは?」


「勿論その通りだが、干渉戦争で敗北した我が軍に、果たして対外戦争を遂行できるだけの体力と士気は十分なのか?

 将兵は、国内の治安維持任務に慣れきっていて、とてもマルクヴァルト侵攻をすぐさま行えるとも思えないがな」


「では、国内の師団とは別個に、新たに新兵を徴兵して、それを速成訓練で遠征軍を拵えては?」


「わざわざ、遠征軍を編成する為に、徴兵すると?全く、労力の無駄も甚だしいな」


「ですが、我が軍の兵力を拡大する好機になるかと」


「何だ?お前は開戦に賛成なのか?」


「はい。陸軍としては、そろそろきちんとした戦争がしたいなぁと。いい加減、治安維持任務も飽きましたから。

 国家の栄光を取り戻すという陛下の主張も分からなくはありません。何よりも、敵地で略奪ができますからね」


「そうかぁ、海軍としてはあまり旨味があるとは思えないのだがな。邦国の軍艦と商船を拿捕したとしても、捕獲品はたかだか知れているだろう。

 それよりも、シルヴァニア船籍の商船を拿捕する方が、余程稼げるな」


「我が国は、対抗同盟の原加盟国ですが?」


「同盟など、長くは続かん。所詮は、利害が一致した寄り合い所帯に過ぎないのだからな。我が国が、邦国と同盟を締結する選択肢だって十分に有り得るだろう?」


「それはその通りですが、邦国との同盟に利益があるとも思えません。このまま、対抗同盟に留まる方が良いのでは?」


「対抗同盟に留まっていても、ルペン共和国やルッテラント連邦が同盟を主導して、我が国は従属的な地位に置かれかねない。

 現に、加盟後も、我が国のプレゼンスは復活していない」


 元帥は、国際政治のプレゼンスを回復させたいと望む君主の動機は理解できなくもなかった。


 彼も、中佐と同じ様に、国軍が国内の治安維持任務ばかり背負わされている事に不満は感じている。


 しかし、対外戦争によって、自国のプレゼンスが復活するとも思えなかった。邦国や共和国を差し措いて、自国が勢力圏を拡大し得るものだろか。


 戦争の結果、大国の地位を喪ってしまう可能性もある。中佐は、元帥が戦争に賛成なのか、反対なのかを再度問い質した。


 元帥の意見は、開戦とも反戦とも受け取れる。どっちつかずの態度だ。


「結局、閣下はどうされるので?侵攻に賛成なのですか?それとも反対なのですか?」


「戦争をしたいのは山々なんだが、国内もおろそかには出来ない。仮に開戦を決定するのならば、国内の治安維持に支障が出ない兵力を維持できる事が賛成の条件だな」


 元帥は、対外戦争に消極的賛成といった具合だ。


 戦争がしたくない訳ではないが、だからと言って、国内の治安も統制しなければならない。


 そもそも、海軍にとっては、邦国との戦争などあまり旨味があるものではない。


 陸軍は敵地の生産物を収奪するが、海軍は敵国の船荷を強奪するのだ。海運業があまり発達していない邦国船籍を襲っても利益があるとは思えなかった。


 そして、捕獲品が見込める国家は、どこも海洋国家であり、ラホイ海軍に抵抗できる海軍力を具備している。海洋国家同士の海戦は、火傷では済まないだろう。


※※


アルメイダ市:軍事評議会


 軍事評議会議長(海軍元帥)は、君主から命じられたマルクヴァルト侵攻について、嫌々ながらも、評議会の諮問に諮った。


 書記官(陸軍中佐)が、議長に代わって、君主が提案した侵攻の概要を説明した。


「――陛下は、マルクヴァルト侵攻によって、我が国の国際政治上のプレゼンスを復活させると共に、各州が抱えている内政上の不満を対外戦争によって解消したいとの意向です」


 陸軍司令官(陸軍元帥)が、侵攻案に賛意を示した。


「対外戦争、結構な事じゃないか。今まで、対抗同盟の戦いはシルヴァニア公国が中心だったが、ついに全面戦争へ拡大する段階に来た訳だな。

 愚鈍な陛下にしては、ましな提案じゃないか?対抗同盟の主導権は、我が国が握るべきだろう。

 戦争は、勢力圏を拡大する絶好の機会にもなる。それに、増強された兵力ならば、コスタ海外州とプチダモン州を処理できる。

 いい加減、国内問題も解決しなければならないが、対外戦争は、外政問題と内政問題を同時に処理できる好機になるはずだ。

 それに、侵攻によって、国内の民族意識も統一化するだろう」


 陸軍元帥は、積極的に賛成して、侵攻の利点を説いた。これに対して、国内の治安維持を担う憲兵総監(陸軍大将)は、侵攻案に難色を示した。


「対外戦争によって、内政問題や治安維持の問題が解決できるとは到底思えない。何よりも、動員は各州の反感を更に強めるだけに終わる可能性もある。

 確かに、動員によって各州の独立能力を蚕食する事は出来るが、中央政府に対する憎悪を集中させる結果にもなるはずだ。

 治安維持に責任を負う者として、その様な事態は看過できるものではない。対外戦争が、内政問題や領土問題、独立問題を解決できるなど幻想でしかない。

 それに、民族意識を統一化すると言うが、その民族主義と愛国心がどこに向かうか分かったものじゃない。

 民族主義も愛国心も制御できる代物でないという事は、シルヴァニア侵攻が良く教えてくれるではないか。

 邦国政府も公国政府も、強硬な国内輿論に押し流されている。本来、停戦すべき戦況でも、それが出来ていない。

 干渉戦争の時も、ルペン人の熱狂は、西大戦洋地域を覆いつくして見せただろう。民衆を制御する為には、対外戦争で民心を一体化させるのではなくて、州同士・地方同士の不仲を利用して、分断させる方が有効だ」


 彼は、憲兵総監として国内の事情に良く通じている。対外戦争で国民意識を醸成すれば、各州の統合は進むかもしれない。戦争に勝利すれば、領土と勢力圏を拡大できるかもしれない。


 しかし、彼にはそれが無い物ねだりにしか聞こえなかった。


 仮に君主や陸軍元帥の思惑が実現したとしても、国民意識に目覚めた各州は、君主に政治改革を迫り、あるいは退位を迫るかもしれず、軍部としては、中央政府がそこまで譲歩して、既得権益を手放す事など有り得なかった。


 要するに、彼は国民が民主政や共和制に「目覚める」事を望んでおらず、このままの政治体制で良いと思っているのだ。


 特に、立憲君主制に移行した邦国の影響は、ラホイ王国にも及び始めている。各州は、専制的な権力を振るう君主に対して、政治権力の制限を要求する様になって憚らない。


 もしかしたら、動員の代価として立憲君主制への移行を各州政府は要求するかもしれなかった。


 他方、海軍大臣(海軍元帥)は、侵攻案に同意した上でコスタ海外州の併合にも賛成した。


「コスタ海外州が本国(旧エリザベス王国)との連絡も救援も受けられないというのならば、海外州を併合する好機ではないか?

 しかも、海外州は第6艦隊の母港でもある。無傷で手に入れられれば、我が軍は一気に海上戦力を倍増できる。

 そうなれば、我が国の海軍力は地域最大になるかもしれない。マルクヴァルト侵攻と同時に、コスタ海外州も侵攻すべきだ。

 我が軍に比べれば、海外州は陸上戦力に乏しいはずだろう?物量で押し切ってしまえば良い」


 憲兵総監が海軍大臣の意見に割り込んだ。


「我が軍とコスタ系貴族の戦争を忘れていないか?コスタ半島は少ない陸上戦力で、我が軍の侵攻を防衛して見せただろう。それを踏まえれば、兵力で優勢だからと言って、安住するなど論外だ」


 憲兵総監は、コスタ海外州への侵攻が、コスタ戦争の再来になるのではないかと恐れた。話の腰を折られた海軍大臣は、鼻を鳴らして、反論した。


「コスタ戦争の時とは、情勢がまるで違う。当時よりも、我が軍は多くの兵力を動員できるし、コスタ海外州は本国の支援を得られないという制約条件があるのだから、参考にはならない」


 これに対して、今度は東部艦隊司令官(海軍大将)が反論した。


「いや、もしも我が軍がコスタ海外州に侵攻すれば、我が国の海上交通路の安全はどうするのですか。

 我が国の海上交通路の安全は、第6艦隊の哨戒と保護によって、恩恵を得ている側面もあります。

 仮に我が国がコスタ海外州を併合すれば、第6艦隊の代わりにその軍事的負担を背負うはめになりましょう。

 我が国は、コスタ海外州に依存している部分もあります。

 寧ろ、コスタ海外州の独立を認めて、我が国の同盟国として、対抗同盟に加盟させるべきではないでしょうか」


「何だと?コスタ海外州の併合を諦めると?」


「その方が、我が国にとっては安上がりです。領土を併合して、一体、どうするというのでしょうか。

 コスタ海外州は、我が国にとって宝の持ち腐れに過ぎません」


 議長が、興味深げに海軍大将の意見を問い質した。


「では、我が海軍では、海上交通路の安全を保てないと?」


「議長閣下は、海兵であるから良く理解できるはずです。我が海軍の実態は、精強と謳われ様とも、所詮は張りぼて艦隊ですよ。

 ルッテラント海軍やエリザベス海軍に比べるとどうしても見劣りします。

 特に、近年は海軍予算の縮小が連続している有り様です。宮廷が国家予算を浪費しているこの現状で、どうして、我が国の広大な海上交通路を防衛できますか。

 コスタ海外州の第6艦隊があるからこそ、我が国の海上交通路の安全が保障されているのです。

 その現実を直視するべきです。残念ながら、我が国は外国海軍に依存しているのです。まぁ、状況は他国も同じですが」


「海軍予算を拡充すれば、我が海軍でも、海上交通路を防衛できると思うか?」


「それはどうでしょうか。閣下は、海軍と軍艦が予算だけで運用される訳でない事は、私よりも知悉しているかと思いますが。現状の軍制を改めない限りは、厳しいでしょうね」


「軍制を改めるとは?」


「つまり、徴兵制から志願制に移行するという事です。職業軍人を中心とするべきなのです。まぁでも、無理でしょうが」


「海兵など、そこら辺の飲食店で拉致して、調達すれば良いではないか」


 海軍大将は、議長の主張に呆れて溜息を吐いた。


「そうやって、旧態依然とした手法にばかり頼るから、いつまでも経っても軍制改革が進まないのです。

 拉致した海兵は、士気が低く、練度も低いままです。我々が彼らをそうさせているのですよ。

 拉致されて、いきなり戦えと命令されて、士官から暴力を受ける艦内で生活を送りたいと思いますか?思う訳がないでしょう。

 だからこそ、志願兵を中心とした軍制に改革するべきです。このままでは、軍艦の全てがお飾りになる日も近いですよ」


「兵士を教育する為には暴力も必要だろう?」


「暴力にも限度があります。士官が兵卒に振るう暴力は、教育の範囲を逸脱して、単なる遊びになっています」


 侵攻の可否を決める場であったのに、話題の中心が逸れてしまった。


 議長は、話題を本題へと修正した。話を振られた騎兵総監(陸軍大将)は、侵攻案に賛成すると共に、騎兵師団の投入を訴えた。


「マルクヴァルト侵攻を成功させる為には、数個の騎兵師団を先遣部隊とする遠征軍を編成するべきだ。騎兵突撃の衝突力を以て、邦国軍の防衛線を突破できるだろう。

 従って、動員を開始する場合には、馬と飼葉の徴発も進めなければならない」


 騎兵総監は、侵攻を前提に話を進めていた。議長の政治力があれば、君主の提案をはね付ける事も出来たはずだ。


 それをしないで、軍事評議会に諮問したという事は、半ば侵攻を前提としている様なものだろう。


 彼の推察は期待が混じっていて、正確な政治分析とは言えない。議長が評議会を開催した理由は、君主を納得させる為でしかない。


 歩兵総監が歩兵を中心とすべきだとか、砲兵総監が火砲で制圧すべきだとかと好き勝手に主張して、収拾が付かなくなった為に、再び議長が軌道修正させた。


 陸軍内や海軍内でも、意見が統一されておらず、良く言えば多様な、悪く言えば雑多な意見が吐き出された。


 それでも、陳腐な議論を繰り返す宮廷評議会に比べれば、議論は活発だと言える。騎兵総監が具体的な侵攻計画を提案した。


「我が軍の兵力が邦国軍に劣る以上、動員によって兵力を増強して、集中運用によって局所的な兵力の格差を解消し、陽動攻撃と二正面以上の攻撃によって、邦国軍の兵力を分散させるべきだ。

 その為には、邦国の最北部と北東部の二正面を設定し、邦国の北部方面軍を拘束・撃破してしまえば良い。

 更に、邦国を全面戦争に引きずり込む為に、現地の住民を虐殺するなどして、挑発し、降伏や停戦の選択肢を奪ってしまえ!!そうすれば、邦国の国内輿論も全面戦争へと舵を切るだろう!!」


 議長は、騎兵総監の過激な発言を窘めた。


「停戦の選択肢を残しておく方が、今後の外交交渉には有利だろう?」


「外交交渉?今更、邦国政府と何を交わすというのか!!外交で、我が国の領土問題と国内問題が解決できるのか!!戦争でしか、解決できないだろう!!」


 強硬な主戦論を展開する騎兵総監に対して、議長は辟易とした。どうやら、一部の最高幹部は主戦派らしい。


※※


旧エリザベス王国・コスタ海外州:総督府


 コスタ海外州は、旧エリザベス王国の海外領土の一つで、ラホイ王国の北東部に突出した半島部分を領域とする。


 エリザベス海軍は、ここに植民地艦隊の第6艦隊を配備していた。


 コスタ半島は、土着の貴族とラホイ王国の戦争が続いた紛争地帯で、エリザベス王国は、そのどさくさに紛れて、植民地戦争で敗北したラホイ王国の間隙を突き、土着の貴族と同盟を結んで、ラホイ軍を追い出し、そのまま、植民地帝国の版図に加えた。


 土着の貴族は、同盟の褒賞として、エリザベス王国の爵位を叙爵されて、いくつかの貴族特権と荘園支配権を認められ、海外州の支配階級に鞍替えした。


 その経緯から、海外州の統治は、本国政府が派遣した植民地官僚と、土着の貴族を背景とする現地の支配階級による共同統治とも言える政治体制を布いていた。


 君主が任命する総督職の半数は、コスタ系貴族が占める事からも、現地出身のエリートが強い政治的影響力を持つ事が伺える。


 現在の総督は、コスタ系貴族の出身で、コスタ半島最北部の港湾都市一つと、その都市周辺の大規模農園をいくつも領有する、半島を代表する大貴族で、コンセロス公爵の称号を保持する。


 ピカルド海外州が、日本国への併合や同盟へと傾いた一方で、コスタ海外州は、早くも自州の独立を考慮し、準備し始めていた。


 両州の判断が分かれた理由は、地政学の論理が働いたからでもあるし、本国の首都が陥落したという情報の伝達速度の違いによる。


 ピカルド海外州が弱小国の旧メルケル帝国領を挟んで、陸軍国家のマルクヴァルト邦国と接していたのに対して、コスタ海外州は陸海軍が共に優れた列強であるラホイ王国を挟んで、邦国と接しているだけで、ラホイ王国が邦国軍の防波堤になっており、ラホイ王国の隣国であるシルヴァニア公国の軍事力は、海外州に駐留する軍隊にとって、脅威になる程でない。


 他方、周辺の海軍力を比較すると、ピカルド海外州が圧倒的に有利であるのに対して、コスタ海外州は、海軍国家であるラホイ王国及びルペン共和国の海軍と対峙しなければならない。


 その上、固有の各海外州の事情を汲むと、ピカルド海外州がバッテンベルク王朝と帝国諸侯の婚姻によって獲得した直轄領であるのに対して、コスタ海外州は、エリザベス軍と土着の貴族によって獲得された経緯がある。


 どちらの州にも、一定の独立派はいるが、より独立しやすい環境にあるのは、海外州の中核として活躍するコスタ系貴族だろう。


 土着の貴族として、外国の支配から脱するという動機もある。元々、エリザベス王国と同盟を締結した理由は、ラホイ王国に対抗する為に、他の列強を利用しようとしたからだ。


 半島の自治と安全保障を確固たるものにすべく、外国に頼っただけだ。


 半島の安全保障に不可欠だったエリザベス王国の首都が失陥した以上、コスタ海外州の対外政策が修正されて、独立の選択肢が首をもたげるのも当然だった。


 しかし、ピカルド海外州の独立派が直面した問題は、コスタ海外州にも当て嵌まる。


 人口でも、経済力でも、周辺諸国に大きく劣っており、一国の海軍力に匹敵する艦隊を維持・整備できるだけの地力は無い。


 この問題を解決できなければ、艦隊は張りぼて艦隊になってしまう。独立を為し遂げる前に、財政破綻で滅ぶかもしれない。


 コスタ系貴族は、エリザベス王国に従属した事で、これらの海上戦力にただ乗りして、安全に海上交通路を使用し、貿易業に投資する事が出来た。


 第6艦隊は、与えられた海軍予算が底を突きた瞬間に、動かない軍隊となるだろう。


 艦隊司令部は、予算を節約する為に、通常の哨戒線を引き下げて、戦列艦を海軍基地に呼び戻し、フリゲートすら惜しむ様になっている。


 それでも、海外州の貿易と商船を保護する為に、1個フリゲート戦隊及び2個コルベット戦隊を海域に展開させている。


 軍艦の稼働率は、以前よりもかなり低下している。だが、3個戦隊の展開でも、海外州の財政能力に負担を掛けずにはいられない。


 総督は、再び列強の支配下に収まるつもりなど無かった。ピカルド海外州の総督と違って、本国を占領したと思われる新興国(日本国)に併合されるつもりも無かった。


 幸いな事に、マルクヴァルト邦国によるシルヴァニア侵攻とルペン共和国との軍事同盟によって、周辺諸国は対抗同盟を結成して、邦国の領土拡大政策に掛かりっきりの現状だ。


 これを利用しない手はない。更に付け加えれば、コスタ海外州の敵国であるラホイ王国は、自国のプチダモン州と緊張関係にあり、同州の独立運動も頭痛の種となっている。


 あともう一つ、地域情勢に明確な変化が訪れれば、マルクヴァルト=ルペン軍事同盟と対抗同盟で形成されつつある新たな勢力均衡の隙間を縫う様に、海外州の独立を達せられるかもしれない。


 勿論、そのきっかけは神のみぞ知る。

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