鯛焼き
「マスター、お腹空いたー!」
奈江が画面の奥から元気に言っている。後ろにいた由依やゆとりも映り込んで空腹をアピールしはじめた。金魚達は、まるでベテランのバラエティータレントのように、画面の中でどう振る舞えばどう映るのかを、全て把握しているかのようだった。これほどの短時間にコツを掴むだなんて、正にタレントだなと思った。
金魚達が何をどれくらい食べるのかは、この時は全く知らず、手探り状態だった。金魚達も手探りをしていたのかもしれない。母の言い付けを僕は守ったためしはないが、金魚達は僕の言い付けを末永く守ってくれた。
「よく噛んで食べること」
「はい」
「1度にたくさん口にしないこと」
「はい」
「笑顔を絶やさないこと」
「はい」
「それから、マスターには、サービスすること」
「はい」
「せーの」
「いただきます」
学校の給食のようにきちんといただきますをして、四畳半という狭い食堂に7人揃って、今日の夜ご飯の鯛焼きを食べた。1人1匹しかないが、仕方がない。現金は既に底をついていて、ピザを頼むことも出来ないのだ。それに、金魚達をおいて買い物に行くのも心配だったし、一緒に外出出来るほどの身嗜みも整えてあげられない。金魚達が不憫でならなかった。金魚達が言うには、僕がそうなるように願ったことが変身の理由だとか。突然人の姿になってしまい、戸惑っているのは金魚達自身なのだろう。だから、僕はマスターとして、かわいい金魚達を立派に飼育していこうと心に決めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます