コメット(彗星)

「おっはよー、マスター!」

 彗星奈江のこの一言と重量感で、僕の1日が始まる。起こすにしても肩を揺するとか他にも方法がありそうだが、奈江の場合は全身で僕に乗っかってくるのだ。まだ子供だから仕方がないのだろう。奈江の見た目は中学2年生位で、童顔にして幼児体型なのだが、それでいて金髪である。どうせならセクシーなお姉さんの姿になってくれれば目の保養になったのだろうが、奈江の送り主がアメリカにいる妹であることを考えれば、致し方あるまい。それにしても、アメリカンな挨拶、スキンシップというものが僕を悩ませる。強制的に頬を寄せ、唇を重ねてくるのだ。まだ子供だからというのもあって、罪悪感は少ないのだが、最近では他の金魚達にもこの行動が伝播していて、始末に負えない。

 奈江の今の趣味は、扇風機の風に自分の声を当てることだ。

「かーいーぶゎんびぃーすがきたい」

 その音の響きを楽しんでいる一方で、こうして自分の願望を口にすることでそれが叶うと信じているようだ。

「良いですね、ワンピース。来週の遠征に間に合うように手配します」

 その願望を叶えるために、他の金魚達が奔走する。甘いもののことならゆとり、ファッションのことならあゆみである。

「うわゎぁーい、ぶゎんびぃーす、かーいー。マスタァー、あいがとぅー」

 それでも、感謝の言葉は僕に向けられるのだから、居た堪れない。僕からあゆみに礼を言えば、あゆみからは労いに対する感謝の言葉と控えめなスキンシップが返ってくる。こうやって奈江を中心に僕の家は幸せな気持ちとスキンシップに溢れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る