東錦

 反省会が終わると、直ぐに次の金魚の配信が始まる。この日の2番手は、東錦あゆみである。彼女の配信は他とは少し違う。入室者が群を抜いて多いのもそうだが、その殆どが女性なのだ。あゆみは今やカリスマモデル顔負けのファッションリーダーになっていた。毎週水曜日は女性限定にしている。その方が入場者数は増えるものなのだ。この日の入場者数は平均のざっと倍、80万人に達していた。世界最大の女子会といったところだ。

 ーこんばんは、あゆみです!ー

 配信はシンプルな挨拶から始まる。首筋、手首、足首、そしてくびれ。全ての『クビ』の細さが、気品のある鼻筋と相まって、儚さ、か弱さを魅せ付ける。それでいて性格はサッパリした江戸っ子気質だ。金魚達の中では最も頭が良く、コメントにしっかり答える。これが人気の秘訣なのだ。僕は、それを鑑賞することができる、世界でたった1人の男子ということになる。この優越感は半端ない。

『彼氏が髪型の変化に気付いてくれません。どうすれば良いですか』

 ーそうねぇ、普段から髪の毛に触らせてあげてれば良かったんじゃないかしら。それでも気付かないようなら、捨てる!ー

『下校デートの誘い方が分かりません。教えて下さい』

 ーうん。誘い方ねぇ。難しいわ。誘わせ方なら幾つか知ってるけど。雨の日にわざと傘を忘れて、ビショ濡れな姿を魅せ付ける、とかね!ー

 金魚の助言をまに受ける鑑賞者が哀れでならない。あゆみの情報源の殆どは、僕の部屋にあるライトノベルなのだ。普段は余りそれらを目にしない肉食系の女子達にとっては、かえって新鮮なのかもしれない。

 そんなだから、反省会での僕の指導にも力が入る。

「あそこは、『東野』より、『うふぉ』のエピソードを推した方が良かったよ」

「すみません。『うふぉ』にはまだ目を通しておりませんでした」

「直ぐにでも読破しておくべきだな!」

 力なく返事をし、項垂れて本棚に向かい合うあゆみ。書を手にすれば真剣にそれと向き合うのだから、僕はそっと頭を下げる。

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