正伝 金魚は世界最古の観賞魚

世界三大〇〇

琉金

 四角い箱の中、女の子の笑顔が溢れる。それを目掛けて、幾万ものハートや星等が投げられる。その中には有償の宝石や塔も混ざっていて、その数は決して少なくない。

 ー以上、琉金まりえのチャプチャプ配信でした。また明日! バイバーイ!ー

 15分限定の配信は、僕の家のお風呂場から毎日なされている。配信が終わると、直ぐにまりえがやって来て、濡れた水着姿で僕の心を擽ぐる。

「マスター、如何でしたか!」

 女の子が僕をマスターと呼ぶのは、僕等の健全な関係を物語る。この女の子は金魚に過ぎず、僕は飼い主に過ぎないのだ。まりえがアップにしていた長い髪をばさっと下げると、扇風機の風がそれを靡かせる。配信中は少し垂れた大きな目でよく笑うが、今は笑顔はなく真剣そのものの眼差しで、僕1人を見つめる。5分間の反省会である。

「とても良かったよ! でも……。」

 僕が喋り始めた時には、まりえはメモ帳と鉛筆を取り出している。感心するほどの勉強家である。その向上心を満たしてあげるために、僕は何かアドバイスをしなくてはならないが、それが苦痛だ。完璧に近付いているから、穴を探すのも一苦労だ。

「お尻はもっとゆっくりと振った方が、水の音からして、セクシーだと思うな」

 まりえは、僕が言い終わる前からお尻の素振りを始めている。水の音なんかなくっても充分にセクシーだ。画面の中の姿にでさえ、毎日15万人が訪れるのを、僕だけが生で鑑賞している。

 この日の配信中に課金された額は、6000万円を軽く上回る。お金が貯まっていくのは嬉しいが、僕の金魚が人の目に晒され、オカズにされていると思うと複雑な気持ちになる。もっとも、まりえには魅せるのが仕事というか、生き甲斐という思いがあるようだ。観て喜んでくれることが何よりも幸せなのだとか。

「マスター、有難うございます!」

 礼儀正しい金魚の飼い主であることが、今の僕の誇りである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る