女の子に変わるところ

 結局、小一時間ほど金魚達を眺めた。そして、ふと思った。風呂に入れない、と。金魚達をまたあの狭い空間に閉じ込めるなんて出来ない。かといって、この家には風呂場はここだけである。6匹のうち、3匹はお隣に住む幼馴染の姉妹からの預かりものなので、今夜だけ風呂を借りるという手もあるが、気が引けた。姉の水草羽衣とは、喧嘩したばかりなのだ。だから頼み辛い。思案の挙句、行動に出た。

「一緒にお風呂に入ろうか」

 この時の僕にとっては、妙案に思えた。今思えば、とても恐ろしい殺金魚行為なのだが。僕は、服を脱いだ。

「ちょっとお邪魔するね」

 金魚達からなるべく離れたところを選んで入浴した。それに気付き様子を見に来たのか、金魚達は僕の方へ寄って来た。琉金は物怖じすることなく僕の直ぐ前を悠々と泳いでいる。まるで挨拶に訪れたようだと思ったが、これも自己中心的な解釈に過ぎない。金魚達が喋った訳ではないのだから。

「あぁ、気持ち良いなぁ」

 火照った身体をひんやりと包む水は、この日の僕にとっては、大変心地良いものだった。金魚達に負担がかからないようになるべくじっとして、天を仰ぎ目を閉じた。だから、その瞬間を見た訳ではない。自分の素肌に女の子達の身体が直に押し付けられていることを知ったのは、圧迫感から目を開けた後だった。

 直ぐ近くにいる女の子は、四つん這いになり僕の体に乗っている。圧迫感の正体の半分を占める。それが、琉金が変化した姿であることは直感的に分かった。広い額を僕の胸に押し付けていたが、肺呼吸に変わり息が続かなくなったのか、顔を上げた。それで僕と目があったときに、辿々しく言った。

「りゅ、琉金、まりえです。よろしく、お願いします」

 言い回しから、まりえが緊張していることが伝わってきた。だから、僕は冷静になろうと努め、周囲を観察し言葉を探した。4人で入ればちょうど良い広さの浴槽も、これだけいてはぎゅうぎゅうだった。金魚達は恐らく何かの拍子に一斉に女の子の姿に変わったのだろうが、その原因は分からない。

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