「私、テレビに入りたい」

 奈江が無事で、謝罪を受け入れてくれたことで、僕は気が抜けたようにソファーに腰掛けた。その弾みでリモコンに触れ、テレビスイッチが入った。ちょうど歌番組がやっていて、画面狭しと歌い踊る、アイドル達の笑顔が飛び出してきた。初めは目を魚のように丸くして驚いていた6人は、いつのまにか画面に釘付けになっていた。マイクを持たない右手を口のそばにあて、振り真似をしていた。特にはしゃいでいたのは、意外にも最も大人っぽい色気のあるあゆみと、風呂場では最も落ち着いていた優姫だった。まりえはというと、テレビの裏側を覗いたりその薄さに感心したりしていた。それをゆとりがサポートするかのように一緒になってテレビの裏側を覗いた。微動だにしなかったのは由依と奈江で、何かに心を撃ち抜かれている、そんな様子だった。

「クシュン!」

 扇風機の風に当たりっぱなしの奈江のくしゃみで、はっとなった。僕を含め、この場にいる7人はびしょ濡れで裸なのだ。風呂釜をフル回転して追い焚きしつつシャワーからはお湯をじゃんじゃん出して、全員でお風呂に入り直すことにした。


「ねぇ、マスター。さっきの四角い箱って」

 浴槽で由依が尋ねてきた。奈江の髪を洗ってあげていたところだったので、由依が真剣な表情をしていることに気付かなかった。

「ああっ、テレビのことかい?」

「テレビ。テレビっていうのね」

由依は一旦そこで言葉を切った。黒い瞳は魔力を秘めているようで、僕を引きつけた。それからしばらくして由依が続けた。

「私、テレビに入りたい」

 由依が真剣なのは分かっていた。だけど、不意打ちとはこのことで、僕は思わず爆笑してしまった。入りたいというのが傑作だった。普通は、出たいというのだから。

「もう、マスター、真面目に聞いてよ」

 由依がキーキーいうのを諌めたのはまりえで、由依に激しく同意したのはゆとりと奈江だった。

「まあまぁ、由依ちゃん。落ち着いて」

「でも、私も興味あるな。テレビってどうやって入るのかしら? 居心地良いのかしら?」

「入りたーい。奈江もテレビ、はいるー!」

 真剣にテレビに入りたいと言われると、やっぱりおかしいしかわいらしい。それでも僕は、今度は笑わずに、真剣な表情で答えることにした。金魚達の願望を叶えてあげたいとも思ったし、画面の中にいる金魚達の姿を見たいとも思った。

「それじゃあ……。」

 僕がテレビに入ることに対して協力する姿勢を見せると、それまでは遠巻きに見ていたあゆみや優姫も集まってきた。

「1人ずつ入ってみようか。その代わり……。」

「その代わり……。」

 6人が声を揃え、前のめりになって僕の次の言葉を待っている。もちろん丸裸で。

「お風呂から上がったら、ちゃんと服を着ること」

 反応は2つに別れた。ゆとり、あゆみ、まりえは目をキラキラと輝かせ、服を着るのを楽しみにしているようだった。もっと早くにそうするべきだったかもしれない。残りの3人は、服を着ることでテレビに入れるのなら、お安い御用といった捉え方をしていたようだった。

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