金魚達の願い
6人分の服となると用意するのもそれなりに大変で、下はパンツ1枚、上はシャツ1枚しかあてがえない。それだけでも、目のやり場に困らなくて済みそうではあるが。
「どうです、マスター。似合ってますか」
ゆとりがそういって、あてがった僕の服を着て僕の前に立った。似合うかどうかなど考えてもいなかったので、そう言われて始めて全身を観察した。男物の服を着た女の子が僕の趣味という訳ではないが、おうちデートの一幕のようで、かわいいと思った。
「うん、良いよ。とっても」
僕の返事に対して、ゆとりは大喜びしていた。あまり機嫌が良くなかったのはあゆみだった。
「人間って、思ったよりも大変なのですね」
上から3つ目・4つ目のボタンは、いまにも弾け飛びそうなほどパツパツに張っていて、左右のバランスを崩さないと胸周りの寸が合わないようだ。多少の申し訳なさはあるものの、これでも大成功で、こうして服さえ着ていてくれれば、僕が困ることはなかった。それがまりえを見て一変する。
「たしかに、あゆみさんの服はきつそうですね」
当のまりえはそう言っていて、あゆみに同情していたくらいで、自分の服装には不満はないようだ。だけど僕からすると、まりえの格好こそいけないものだった。どう表現しても、エロい。白いTシャツの奥にうっすら乳首が透けている。むしろ、目がいってしまう。そこで僕は、まりえにだけはもう一枚、冬用のセーターを着せることにした。
「なるほど。服というのは、奥深いものですね」
まりえは、重ね着という発想に感心していた。これまではオシャレなどに気を使うこともなく純粋に丸裸で生きてきた金魚達とはいえ、あり合わせの服を着せざるを得ないことに、いたたまれなさを感じずにはいられなかった。折角かわいい女の子の姿になったのだから、落ち着いたらオシャレしてもらおうと心に決めつつ、彼女達にテレビの中に入ってもらう準備に取り掛かった。
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