和金
「ちょっとマスター。私って最近太ったかしら」
和金由依は、細い体を観せながら僕に言った。言うほど太っているようには思えないのだが、こういう時の返事には気を使う。
「そんなことないと思うけど」
「そんなはずないわ! もっとよく観てよ」
厄介だ。実に厄介な質問だ。由依自身が気に食わないと思っているところをピタリと当てない限りは、機嫌は悪い方へと変化するに決まっているのだ。
「分からないものは、分からないよ」
開き直ってみた。
「じゃあ、ここ触ってみてよ。ぷにぷにになっちゃった」
なるほど、そういうことか。棒読みの由依の台詞にピンときた僕は、誰の仕業かも察しがついた。黒幕はあゆみに間違いない。僕の部屋にあるライトノベルの『ヒルズもの』の中で、ヒロインが主人公に言った台詞と同じなのだから。由依はスキンシップが苦手で、他の金魚達と違って僕を触ることはほとんどない。以前それが話題になった時は、恥ずかしいからムリとその理由を明かしていた。それであゆみに相談でもしたのだろう。だから、僕はあくまでもあゆみの顔を立てるために、『ヒルズもの』の主人公と同じ行動をとった。
「どれどれ」
言いながら後ろに回り込み、由依の両の二の腕を摩った。確かにプニプニしている。摩っていて気持ちが良いくらいだ。由依も気持ちが良くなったのか、ふにゃふにゃと倒れ込んだ。
「ちょっとやりすぎたかな……。」
僕は、静かに由依を寝かせ、うちわで扇いでやった。ここまでは『ヒルズもの』と全く同じ進行である。
確かこのヒロインは、その日を境に胸が大きくなり、最終的にはGカップの巨乳になったはずである。今はまだAカップの由依もいつかそう呼ばれる日が来るのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます