番外編 〜久々のデート〜
すれ違いが続いた最終日
※結婚後の話なので、渡部の設楽への呼び方が『薫』になっています。
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カーテンの隙間から、うっすらと差し込んでくる朝日を感じ、俺はまぶたを開いた。
「……ん」
自分が眠っていたのは、リビングにある二人がけのソファ。昨夜は薫の帰りを待って、そのまま眠ってしまっていたようだ。
「朝か……アイツは……?」
ベッドではなくソファで寝たせいか、あまり頭がハッキリしない。寝違えたらしい若干ビキビキと痛む首を気遣いながら、俺はダイニングのテーブルの上を見た。
昨晩あいつのために準備しておいた、晩飯の肉じゃがは……そのままだ。しかしご飯茶碗と卵焼きが乗った皿は、テーブルの上にはない。
「んー……肉じゃがは残したのか……」
さては薫、昨夜は相当夜遅くに帰ってきたな……疲れ果てて食欲もなく……だが卵焼きの魅力には勝てず……大方そんなとこだろう。
ソファから身体を起こし、立ち上がろうとした時、俺の腹にタータンチェックのブランケットがかけられていることに気付いた。薫が俺にかけてくれたのだろうか。
だいぶ目が覚めてきた。居間のテーブルに目をやると、一枚のメモ書きが置いてある。
「ん?」
メモを手に取った。これはどうやら薫からの置き手紙のようで、アイツらしい達筆な文字で、簡潔にこう書かれていた。
――先に出ます。例の案件、今日やっと終わります。
だから今晩はゆっくりしたいです。
「……またか」
驚きを禁じ得ない。『今日終わる』の部分がではない。『先に出る』の部分が、だ。
アイツは俺が待ちくたびれて寝てしまうほどの深夜に家に戻り、そしてその俺が目覚める前に、出社したというのか……。
薫が今、大変な仕事を抱えているのは知っている。いつぞや失敗した仕事のリベンジみたいなもので、この仕事をもし成功させることができれば、会社としても本人としても、大きなステップアップになるであろうほどの、とても大きな案件だ。
薫は、あの時のリベンジとばかりに、めちゃくちゃ燃えていた。
――あの仕事を完遂できなかったことが、結婚前の唯一の心残りでしたから……
そう語る設楽の気迫は半端ではなく、その案件に取り組み始めてからの設楽は、以前よりも、さらに忙しく動き回っていた。
おかげで、今回はとても順調らしい。社内で時折聞こえる進捗報告も明るい物が多く、薫も、あのときのように切羽詰まった様子はない。大変は大変だが、とても充実した、キラキラと輝く仏頂面を見せていた。
……だが、俺は心配でならなかった。なぜなら、こんな毎日が、もう3週間も続いているからだ。先々々週の月曜日から始まった例の案件。今日は火曜日だから、丸々三週間が過ぎた計算だ。あいつの体力は大丈夫なのか? 土日だってこんな調子で出社してるんだぞ?
「すれ違いの生活が、もう3週間も続いてるんだなぁ……」
ポツリと口ずさみ、口に出したその事実に、我ながら寂しくなった。
俺と薫は、もう3週間も、会話すら満足に出来てなかった。
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