第45話 弱ッ! それでも俺のDNAを受け継いだ奴かよ! 弱すぎだろ!
「にーに、どうして、サリサが……。サリサが……ここに……」
「……え? サリサ、生きていたのです? 生きて……生きていたのですのね……サリサ……」
「サリサァァァァァァァッ!! 何をやっているんだよ! サリサァァァァァァァッ!!」
「えっ!? えええっ?! サリサ……サリサ……サリサ?!」
死んだはずの旧友が唐突に姿を現した事で、リリ、エーコ、サヌ、ワサの四人は戸惑いを隠しきれないといった様子で声を上げていた。
サリサはそんな旧友達の声など届いていないかのように、俺を呼び出そうとしていた。
「……いや、待てよ」
ユリ目ユリ科エンテリック・ホンジョウショウイチロウって叫んでいなかったか、サリサという少女は。
ユリ目ユリ科エンテリックまでは聞き覚えがあるんだが、その先がなんで俺の名前になっているんだ?
あ、俺は思い出したぞ。
異世界プランターズってところで、ユリ目ユリ科エンテリック・ハイメーションって植物に会って、受粉とかそんな事をしたような……。
もしや、それでできた俺の子供?!
俺、もう子孫を残しちゃっていたの!?
「ふははははははっ!!!」
サリサ・フォンデューニュは高らかに笑った。
その瞬間、胸が大きくなったような気が……。
急成長を……って、違う、違う!
何かが……何かが……胸の辺りで蠢いてやがる!
なんだ、あれは?
「気づいたかね?」
背中を向けたままの完遂の弥勒が、俺の方を顧みて、悲しげな目をした。
「何がだ?」
「サリサに偉大なる召喚士としての力を与えはしたのだよ。しかし、サリサには過ぎた力であったようだ」
「だからなんだって言うんだ?」
「未熟な召喚士にはその力は己を滅ぼす諸刃の剣という事なのだよ」
俺は改めてサリサの事を見つめる。
蠢いているものは、サリサを滅ぼそうとしている弥勒から与えられた力だとでも言うのか。
「本来ならば、サリサのような小娘には過ぎたる力であったのだよ。持って三分と言ったところか。三分後には、力によってサリサは殺されるのであろうな」
「……三分か」
三分は長いようで短い。
サヌ達にもう一度サリサが死ぬ場面なんかを見せちゃダメだ。
闇落ちした友達が死ぬところなんて見せたりはさせない!
それだけはなんとしても阻止したい。
サリサを救ってやる。
サヌ達のためにも、俺のためにも、そして、サリサのためにも。
俺は召喚獣アプリ『メソポタミア』でナンバー1の召喚獣だ。
不可能を可能にできる男のはずだ!
やれない事はないはずだ!
「三分あれば問題ない!」
サリサの召喚が完了したのか、世界樹であろうかと思える巨木が俺の目の前に出現した。
世界樹のようでいて、触手のようなものを数百は生やしていて、陰獣か何かにしか見えない、どうしようもないグロテスクな巨木であった。
案ずるより産むが易し。
俺は地面を蹴って、サリサの方へと最速のスピードで向かう。
「そこをどけええええええええええええええっ!!!」
世界樹と陰獣との集合体みたいなユリ目ユリ科エンテリック・ホンジョウショウイチロウが、俺とサリサの間に立ち塞がるようにしていたが、そいつが俺の子孫だかなんだか分からないが、どうでもいい。
邪魔なものは邪魔だ。
「失せろおおおおおおおっ!」
渾身の力とありったけの炎属性を拳に詰め込んで俺の鉄拳を、ユリ目ユリ科エンテリック・ホンジョウショウイチロウにたたき込むと、悲鳴に似た雄叫びを上げながら数瞬の内に灰となって世界樹は崩壊していった。
「弱ッ! それでも俺のDNAを受け継いだ奴かよ! 弱すぎだろ!」
息子が親である俺を倒すシチュエーションだろうが、ここは!
どうしてそれができない。
こんなに簡単にやられちゃ、俺が受粉させた意味がない。
今度プランターズに行く事があるようならば、俺を倒せるくらいの子孫を残さないといけないな。
「さて、サリサ。次はお前の番だ」
俺は立ち止まり、サリサを改めて見やった。
サリサは大粒の涙を流しながらも笑っていた。自分の身体が与えられた力によって蝕まれ、浸食され、滅ぼされているのが分かっているかのような達観した表情をして泣きながら笑っていた。
「あははははっ!! 殺してよ……ねえ、殺してよ……はやく……はやく……はやく……あははははっ!!」
「残念だが、俺はお前を助ける。リリ達の前でお前が死ぬ姿をもう一度見せるワケにはいかないんでな」
こういう時に使うとしたら、光属性の力か。
癒やしか、浄化の力か、そういったものを使えば救えるはずだ。
そんなもの、一度も使った事はないが、召喚獣ランクナンバー1の俺にできないワケはない。
なにせ、俺はできる男だからな。
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