第41話 伊東一刀斎? 誰だ、それ?
「こいつ、人じゃなくて猫じゃん」
前に行った事がある異世界のプライベートビーチが存在している異世界を統べていたのが、この猫女こと皇帝クラディア十五世だ。
服は着ていないのだが、体毛が衣服代わりのように全身を覆っていて、どちらかと言えば、人に獣耳をはやしただけのようなのを毛嫌いするケモ属性の人々が歓喜するような外見をしている。
人が支配うんぬんを言っていたのに、人ではなくケモが支配するのは矛盾してないか?
人であるのならば、俺が王として相応しい気がするんだが。
「この惑星には言語がねぇんだよ。家畜に学は必要ないってな。だから、こいつがトップになるのに相応しいんだ」
「え? 言葉を話せないのか? それって……」
言葉を話せないのならば、俺が支配するのは無理そうだ。
俺がこの世界を支配してしまったら、余はまさに世紀末になってしまうではないか。
仕方ない。
ここは、皇帝クラディア十五世のメンツを立ててやろうではないか。
「……そう、家畜にゃ。だからこそ、余が選ばれたにゃ」
クラディア十五世は胸を張って、自信ありげに微笑んだ。
「余の能力……いや、クラディアの名を持つ皇帝の能力は言葉を脳に直接刻む事にゃ。言葉を知らぬ獣たちに言語を強制的に記憶させることにより、余の一族は獣の王として君臨する事ができたにゃ」
コミュニケーション能力はあるものの同一の言葉を持たない様々な獣たちを統べるために、統一言語を半ば強制的に記憶させたという事なんだろうか。
だとしてら、それは革新的な事じゃないのか?
「だから、こいつが必要なんだ。おめぇじゃ、この異世界は支配できやしない」
まるで俺の心を読んでいたかのようにドンゴが言う。
もしや、表情に出てしまっていたか?
「だが、お前も必要なんだよ。なにせ、この異世界には、伊東一刀斎が転生した修羅のような女が人工知能を警護していてな。あいつは俺じゃ勝てないんでな」
「……伊東一刀斎? 誰だ、それ?」
ドンゴが勝てないほどの奴がいるのか?
それはそれで楽しそうだな。
雑魚同然の邪神とかには飽き飽きしていたんで、手応えのある奴だと嬉しい。
「流派は一刀流とだけ分かっている、謎の多い戦国時代の剣豪だ。いや、剣鬼と言っても過言ではないだろうな。刀の道を極めんとして生き続けていた奴なんでな、俺みたいな中途半端な奴じゃ勝てないんだ」
「なるほど。ナンバー1の実力者である俺じゃなきゃダメということか。やはり、俺は必要だよな。その伊東一刀斎とやら、俺が必ず倒してやるよ」
「余は武芸はからっきしなので、高みの見物しかできないがにゃ」
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「この惑星には、いくつもの血液工場があってだな、どこでもいいんだが、そこを強襲すれば、必ず伊東一刀斎が出てくるはずだ。そいつを倒した後、人工知能を叩きつぶせば終わりだ」
「えらく簡単に言うな。というか、どう人工知能を叩きつぶすんだ?」
「それは俺の役目だ。気にすんな」
「その時も余は見ているだけだにゃ」
どうやら、皇帝クラディア十五世は戦いに参加せず、高みの見物としゃれ込むらしい。
ま、それはそれでいいか。
「とりあえず工場に案内してくれ。一暴れさせてもらう」
今回は、思う存分暴れられそうだし、気合い入れてやってみるか。
伊東一刀斎とやらがどれほどの実力者かは知らないが、俺に倒せないはずはない。
* * *
「……もう終わってしまったの?」
伊東一刀斎は周囲に殺意が消滅したのを感じ取ったためなのか、意識の覚醒に身を委ねた。
人間は足がかゆい時に、頭をかくはずはない。足がかゆければ足を掻き、頭がかゆければ頭を掻く。人は間違う事なく、痒い場所を掻くものである。剣術でもその事は同じであり、隙があるところに自然と太刀を向かわせる。その動作を無我の境地で行うことこそ体得した『無想剣』である、と転生前の伊東一刀斎がたどり着いた結論であった。
無我の境地で相手の隙を見つける前に悟り、そこへと切り込み事を実践したのが『無想剣』であった。しかし、その無想剣は転生する前は未完成であったのだ。
だが、転生後は修行に修行を重ね、本当の無我の境地を得て、真の無想剣を習得したのである。
転生した伊東一刀斎は敵と相対した瞬間から隙のある場所へと無我の境地で斬り込む潜在意識だけで動く鬼夜叉になったのである。
目をそっと開けた伊東一刀斎の周囲には、ゴブリンの死体が山のように築かれ、血の川が至るところででき、血の霧が一部で周囲の景色をゆがめていた。
……そう。
ミランジェローヌストファントドーロシフォンシンオンミストラディアンマニュケ、略して、ミケが王を務めるゴブリンの王国の誇る精鋭部隊をわずか一時間もかからずに壊滅させる事ができるほどに。
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