第39話 ロリも何も、あんたら三人ともババアである事に変わりはないんだから
「ぎゃああああああっ!!」
「うぉぉぉぉぉっ!!」
先行していた筋肉達が足を滑らせて、次から次へと滑落してくる。
なんで落ちて来るんだよ!
きちんとした登山装備をしていないから、ああなって当然みたいなところがあるから自己責任だな。
しかも、斜度がそれなりにあるから、一度足を滑らせると、滑落は必至といったところで、一度落ちれば、数十メートル下へと滑り落ちてしまう。
横スクロールのアクションゲームをプレイする要領で滑落してくる筋肉を避けながら、頂上を目指した。
そうして前へ前へと進んでいる間に、前を走っている奴が一人もいなくなった。
「まあ、こうなるよな」
召喚獣バンクナンバー1の俺と、ただの筋肉バカとでは実力差は歴然としている。
前に誰かがいるようなら、部外者の俺はそいつに倒す権利を譲るのが筋だろうからそうする予定ではあったが、前に誰もいないし、振り返ってみても誰もいないのを確認してから数分待ってみても誰も来ない。
ならば、俺がやるしかないだろう。
独走している以上は、魔王とやらを倒すのが筋ってもんだろう。
先行する者がいないのならば、全速力を出してもいいだろう。
雪をかき分けると言うべきか、除雪車のようというべきか、雪を周囲へとまき散らしながら、俺は先を急ぐに急いだら、魔王城らしき場所にたどり着いて、中にいた奴らをとりあえず全滅させておいた。
ボスらしき奴はタキシードを着た吸収系だったが、俺が倒した雑魚を全て吸収した後、真の姿までお披露目してくれたものの、やっぱり雑魚で、俺の一撃であっけなく消し飛んでいた。本人は強いつもりだったんだろうが、俺にしてみれば雑魚なのは、毎度の事ながらなんとももの悲しい。
でも、どこかで見た事があったような気がしたんだが、どこだったろうか?
似たような奴はいくらでもいるだろうし、他人のそら似かもしれない。
とりあえず、魔王の居城らしき建物を完全に破壊してから下山したのだが……。
「三十七回目の筋肉祭りで、魔王レベロングを倒す者が出現するのは私は想像もできませんでしたよ~♪ 私、感激で~す♪」
下山すると、例の小学生のような外見の女子がホログラムとして空に映し出され、そう告げると、それが合図であったかのように、あの大広場に集っていたのと同じくらいの筋肉が俺の周りに集まって来て、あれよあれよという間によく分からない装飾の神輿に乗せられた。
「生神様じゃ!」
「神様だ!」
「きゃー!! 神様ステキー!」
「神様! 抱いてー!」
というか、俺は神様に祭り上げられていた。
凱旋パレードの主役みたいで、道にこの異世界の住人達があふれかえり、俺に美辞麗句をあふれんばかりに投げかけてくる。
うん、悪くはないっていうか、照れくさい。
英雄だな。
うん、これが英雄になった瞬間っていうんだろうな。
たかが魔王を倒したくらいでこの騒ぎようは……普段、テストでは赤点ギリギリの奴がいきなりテストで百点を取ってお祭り騒ぎになった時のような感じでなんか恥ずかしい。
止めて欲しいと言いたいが、気分がいいんでしばらくはこのままでいいか。
「なんだ、あれ?」
神輿は俺が例の大広場に到着したのだが、その大広場の中央に何やらモニュメントができていた。
何だろうか、と思って、目をこらしてみると、俺の全裸像である。
見間違いじゃないか?
そう思って、目をごしごしこすってから、もう一度凝視するも、やはり俺の全裸像である。
「いつのまに俺の全裸像が?!」
急造したにしては丁寧すぎる。
いつ俺の裸を模写したんだと言いたいくらい精巧に作られている。
皺までもがくっきりとしていて、なんだろうか、ダビデ像よりもとある部分の皺などが綿密に作られている。というか、マジでどこで俺の全裸を見ていたんだよ! と叫びたくなるレベルだ。
「魔王を倒しちゃうくらいの英雄は神様なんですよ~♪」
ホログラムの少女が賛辞の言葉を述べると、
『神! 神! 神! 神! 神! 神! 神! 神! 神! 神! 神!』
狂ったようなエールが筋肉だけではなく、住人達からも湧き上がる。
この異世界の住人のノリは、どこかおかしい。
誰がこんな教育を施したんだ……と、その答えは、例のホログラムで映し出されている少女であると想像に難くない。
彼女に対して熱狂的すぎるのがその証拠と言えた。
リヒテンが連れてこいと言っていた人物は彼女なのだろうか?
その疑問はすぐに解消することとなった。
俺を乗せた神輿が大広場を抜けた先にあったギリシャ神話に出て来そうな神殿のような建物の方へと進んでいき、建物の出入り口付近で神輿は停まった。
『あの方がこの中でお待ちです!!』
神輿を担いでいた筋肉達が声を揃えてそう言い、変な気持ち悪さを演出するも、耐性ができてしまっていたのか、露ほども寒気を感じなくなっていた。
俺は神輿を降りて、その神殿の中へと入っていったのだが、不思議な事に神殿には人っ子一人いなかった。
ここが神聖な場所として見られいるからなのか、それとも、故意に人を入れないようにしているのかのいずれかなのだろうか。
先へ先へと進んでいくと、そこは行き止まりであった。
大理石の壁があって、それ以上先へは進めない。
袋小路そのもので、右にも左にも部屋はない。
おかしいなと思って、正面の大理石の壁を軽く押すと、ドアであるかのようにすうっと開いた。
すると、灯りが全くない、闇に包まれた部屋がその先に広がっていた。広がっていると思ったのは、闇が深すぎて、部屋の奥が全く見えなかったからだ。
「……待っていたよ♪」
闇の奥から声。
その声の主であろう、赤い二つの眼が闇の中から俺を見つめていた。
「君は誰から言われてきたのかな~?」
俺の正体を探っているようで、探ってはいない言葉だった。
分かっているから確認している、そんなところだ。
「リヒテンから連れてこいと言われてきた召喚獣・本城庄一郎だ」
「ああ~♪ 君はここ数ヶ月不動の一位の召喚獣くんか! きゃはっ♪ そんな凄い人がリッカに会いに来るだなんて感激しちゃう!」
「そのノリ、止めてくれないか? ちょっと話しづらい」
「えええええっ?! これがリッカのノリなんだけど~」
リッカっていう名前なのか、この少女は。
「そうか、すまなかった」
「いいの、いいの~。召喚獣くんには、そういう殊勝な態度は似合わないよ~♪」
闇の中に蠢くようにして光っていたリッカの目が急に鋭さを増した。
「リッカはね、このリッカちゃん王国が楽しいから止めたくないのよね~。だ・か・ら。誰とも組まない事にしているの~」
「この異世界、リッカちゃん王国とか言うのかよ! 好き勝手やりすぎだな!」
組むとか組まないとか以前に、自分の趣味全開の異世界を作っている事に驚きを隠せなかった。
たしかこの人たちって過剰に干渉してはダメだったんじゃなかったか?
「あの人達とはもう全然関係ないんだから、リッカはいいんだ~」
俺の心の声を見透かしてきたかのように先手を打たれた。
外見と言葉遣いはアレだけど、中身はやっぱりアレなのかもしれない。
「そうなんだ」
なら、連れて行くことはできないんじゃ……。
「リッカがいなくなると、この異世界がダメになっちゃうから、リッカがいないとダメダメなんだよね。だから、離れられないのよね~」
ん?
今、俺の背後に誰かが立ったような……。
リッカの手の者が俺の背後を取ったのか?
「あなたがいなくても、この世界は普通に回ります。安心してください」
最近やたらと耳にしている声で、声の主がジオールだとすぐにわかった。
何故、ジオールがここに来ている?
「お主がいてもいなくてもいいではないか? この世界の異様な雰囲気が中和されて、良い方向に向かうのではないか?」
しかも、舞姫の声までしている。
この二人も説得しにきたというのか?
そうだとしたら、心強い。
「きゃあああああっ!? 怖いよぉ。ババア二人が来た~。怖いよ~」
リッカが怯えたような表情を露骨に見せたが、演技臭くて、俺は少なからず白けてきた。
「あなたもババアでしょうが」
ジオールが冷静にそんな突っ込みを入れる。
この連中の元仲間って事は、年齢もそれなりに行っている事は予想できる。
しかし、この見た目で少なかれず騙されてしまうのは致し方のないことだ。
「リッカは違うんだよ~。ロリババアなの。ロ~リ~。そんなステータスが付いているから、狐のババアとか、サイボーグのババアとは違うんだよ~♪ ロリは別物なんだからね~」
リッカが胸を張って、さも当然というように力説した。
「ロリも何も、あんたら三人ともババアである事に変わりはないんだから、そんなに争う事はないんじゃないか?」
俺はついついそんな突っ込みを入れてしまったんだが……。
俺の一言で、この場の空気が変わった。
三人の目つきが変わってるし、むき出しの殺意を俺に向けてきているような……。
俺、もしかして言っちゃいけない事、言っちゃいましたか?
「リッカ、ちょっと本気出してもいいかな~?」
「久しぶりにハイメガ粒子砲の試射がしてみたくなりましたね」
「狐火で魂さえ灰にできるという話ではあるのじゃが……」
この後、俺はメチャクチャボコられた。
俺が怒らせちゃったんだから、無抵抗でされるがままだったっていうのもあるが……。
とはいえ、リッカ、こと、最強の吸血鬼である
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