第23話 マイクロビキニ、万歳!
『『異世界のプライベートビーチ 下編』』
俺たちは異世界プライベートビーチへと転送されたのだ。
おお!
綺麗な海だ! さらさらの砂浜! 眩しい太陽!
そして、砂浜には頭だけ出ている舞姫……。
とてもシュールだ。どうしようもないくらいシュールだ。
当の舞姫はこんな状況でも寝ているらしく、頭をこっくりこっくりさせていた。
「南沙諸島なんじゃないか、ここって」
異世界とか言いながらも、ただの孤島にしか思えないし、南沙諸島のどこかの島の写真で同じような風景を見たような気がしないでもない。
それに加え、気候やら何やらが地球とあまり変わらないような気がする。
「それはいいとして……」
「何ジロジロ見ているのよ」
エーコ・ピアッサはもう慣れてしまったのか、それとも、気にしないようにしているのか、隠しているようで隠していないマイクロビキニを着こなしている。前の時はじっくりと見る事がはばかられたが、今こうして見ると、下乳の辺りがなんとも……。
「リリは……えっと……その……恥ずかしい……かな?」
「僕的には裸よりも恥ずかしい……かな?」
「こんな姿はにーには見せられないの……」
リリ・ポーアも、ワサ・プロシェルも、サヌ・リアッツも、胸などを腕で隠しながらもじもじとしている。
そりゃそうだろう。
水着とか言いながらも、紐や布きれにしか過ぎない水着だから、普通の反応と言える。
デザインは四人とも同じなのだが、微妙にサイズが異なる。
舞姫がその辺りをきちんと採寸して選んだんだろうか……。
そんな彼女を見ていて、叫びたくなる。
『マイクロビキニ、万歳!』と。
本当は嫌なんだろうけど、マイクロビキニなんて着てくれるなんて、ほんと、良い子ばかりだ。
涙が出てくるくらいだ。
「安心してください。元来、この異世界の孤島はヌーディストピーチなのですが、今日は特別にマイクロビキニ着用の許可を得ての使用です」
「ジオール、何を安心しろって言うんだよ」
俺たちよりも遅れてくるように、ジオールがここへと転送されてきて、さも当然というような事を口にした。
もちろん10億ポイントで交換した黒のマイクロビキニを着用しているのだが、胸のボリュームが白スク水の時よりも大きくなっていて垂れているように見えるのだが……。白スク水だと、胸が圧迫されて小さく見えるだけなのか?
「そうですね。地球人、もとい、日本で言うなれば、ここはケモ属性の国です。服を着る方が異質なのですよ。服を着ての海水浴など海を汚す行為であり、もっての外だとの事です」
「それはヌーディストビーチとは言わないだろう」
「そうかもしれませんね」
ジオールは、リリ、エーコ、ワサ、サヌを手招きし、呼び寄せると、
「それでは、オリエンテーションを始めます。注意事項というべきか、知っておくべき事をお伝えします。それは自分に自信を持つことです。恥じらいは重要ですけども、今の私のように自分に自信を持って見せる事も大事です」
ジオールが俺の事をちらりと見て、にんまりと微笑んだ。
確かに見ていたが……。
「異性に見られると綺麗になるという研究結果があったような、なかったような気がしますが、見せる事も重要なのですよ。先ほどから思春期真っ盛りな男子が私の胸を凝視しています。今回は防水仕様の110センチを装着しているせいかもしれませんが」
110センチか……。
装着という事は胸のパーツでかさ上げでもしているというのだろうか。
ジオールに質問してみたいが、俺はそこまでデリカシーのない人間じゃないし。
「僕でも……大丈夫なのかな?」
ワサが腕で隠している自分の胸とジオールの胸とを見比べ、ため息をついた。
「大きさや形に食いつくような輩は外見だけに拘る雑魚です。そんな雑魚は相手にしなくてもいいんですよ」
「そっか! 僕だって!」
ワサが腕で隠すのを止め、背筋をピンと伸ばした。
今のジオールやエーコよりないことはないが、マイクロビキニの胸の辺りに小豆のようのように隆起している場所があるが、もしや……。
しかし、凝視するワケにもいかず、ぷいと視線を逸らした。
「今、釣れましたね。今のように自信を持てばいいのですよ」
「なるほどね!」
ワサはなんとなく分かってきたのか、元気いっぱいの笑顔になった。
「リリにもできるかな?」
リリは腕で隠すのを止めたが、まだ気恥ずかしさが残っているようで顔を紅色に染めて俯いた。
「できますよ。ですが、真似する必要はないんですよ。人それぞれですから。自信さえ持っていればいいんです」
「うん、リリ、がんばる」
リリはようやく顔を上げた。
顔は赤いままだが、表情がいくばくか良くなった気がする。
俺としては、そういう面持ちの方が見ていてほっこりできるというものだ。
「にーには……」
いつのまにか、俺の傍にサヌがいて、今のも泣き出しそうな瞳で俺の事を見上げていた。
他の女の子に気を取られてすぎていたのか、俺は。
「にーには、自信があるの?」
「ああ、あるな。今のところ、俺が召喚獣ランカーの中じゃ最強だし、ジオールやらドンゴやらと互角にやれる自負はある」
「……分かった。うちも自信持つね。にーにみたいに」
サヌは破顔一笑して、胸などを隠すのを止めた。
「……何よ、他の子ばっかり変な目で見て……」
若干すねた様子のエーコがそんな事をぼそりと言った。
「さっき見てたら、怒ったじゃないか」
「そ、そうだけど……で、でも……」
俺が見つめると、エーコはぷいっと顔を逸らしてしまった。
何を考えているのかよく分からないが……。
「最後に、思春期の鬱屈たまった少年と一つ屋根の下で過ごしていてストレスも大変でしょうから、今日は羽を伸ばして楽しんでくださいね」
* * *
リリやエーコ達に一歩前に出て欲しいとジオールが言いたかっただけのようなオリエンテーションが終わった。
次のイベントは俺的には非常に厳しい。
「ここの紫外線量は、地球に比べると数倍上ですので、しっかりと日焼け止めを塗ってください。この日焼け止めはこのビーチ用の多少粘度高めのものですが、気にしないで塗ってくださいね」
ビーチの一角に設けられた海の家然とした場所に俺たちは移動していた。
正確には海の家ではなく、屋根の下にキャンピングベッドが10ほど置かれているだけの休憩所といったところだ。
「いやらしい少年には背中だけ塗ってもらう予定です。自衛のために、胸とかは自分で日焼け止めを塗ってくださいね。そうしないと、胸をもまれたり、アクシデントを装って大事なところに指を入れられたりと大変な事になってしまうかもしれません。背中にオイルを塗っているとき、むくつけき何かを押し当ててくるかもしれませんので、それにも注意してください」
俺はどんだけ野獣なんだよ、と突っ込みたかったが、からかわれそうでぐっと堪えた。
「……ヤダ、何これ。ベトベトしてる……」
エーコがキャンピングベッドに腰掛けるなり、用意されていた日焼け止めを指ですくうと顔をしかめた。
「ねちょねちょ……」
サヌも日焼け止めを手のひらに出して、指で遊ぶようにかき回す。
「冷やっとして、気持ちいいかも……」
手始めとばかりにワサが日焼け止めを腕に塗って、びくっと身体を震わせた。
「僕には必要なさそうなんだけど……仕方ないかな?」
ワサはそう言いつつ、胸もと辺りから豪快に塗り始めていた。
そんなワサを三人が見つめていた後、踏ん切りがついたのか、各、日焼け止めを塗り始める。
お風呂場で身体を洗うかのような手つきで日焼け止めを肌へと伸ばしていく様は、目が釘付けになってしまう。
「楽しいですか?」
声よりも先に殺気に近い気配を感じて、俺ははっとなるなり、四人から視線を外して、ジオールを見た。
ほんの数瞬、ジオールの眼光が鋭かったような気がしたんだが。
「ど、どうかな?」
俺は誤魔化し笑いを見せた。ジオールに何か思惑があるよう気がするも、邪推じゃないかと否定する自分自身もいた。
「準備ができたら、うつぶせになってくださいね」
ジオールにそう言われると、四人はキャンピングベッドにうつぶせになった。
「さあ、俺の出番か」
日焼け止めオイルを塗るのなんて生まれて初めてやるが、上手くやれるかどうかだ。
とりあえず、日焼け止めを手に取り、中身を確かめる。
俺が知っているのに比べると粘度が遙かに高い。
手ですくってみると、どろどろとしていて、なんていうかアレだ。
「こんなの塗っていいのかよ」
「ボーナスステージです、がんばってください」
ジオールに監視されている気分だが、まずは一番手前にいるエーコからだ。
押し潰された胸が横からはみ出しているが、これは見ていいものなのか。
いや、ちらちら見る分には問題ないだろう。
「ひゃっ!?」
よし! とばかりにオイルを手の平ですくり取り、そのまま、エーコの背中にぺちゃっと押しつけると、びくっと身体が大きく震えた。
「一言言ってもやりなさいよね」
頬を紅色に染めて、じろりと俺を一瞥。
「じゃ、行くよ」
「……う、うん」
背中に手を添えると、エーコのぬくもりが伝わってくる。心臓の鼓動さえもが聞こえてきそうなほどだ。さらさらとした肌の上を俺の手が滑る度に、エーコの身体が過敏に反応する。意識しすぎているのか、はたまた、俺の力が入りすぎているのか。
「痛くはないか?」
「……く、くすぐったいくらいよ」
「なら、良かった」
背中が終わったので、ついでとばかりに首筋にも塗ってやると、その辺りまでも赤みを帯びてきたように見えた。
「い、いいわよ、そこは。自分が塗ったわよ」
「じゃ、終わりかな、これで」
これでたぶんまんべんなく塗ったはずだ。
「……何よ。もう終わっちゃったの? 早すぎよ、バカ……」
「エーコさん、そこは『サラマンダーより、ずっとはやい!!』ですよ、言うべき台詞は」
俺にトラウマを植え付けたいのか、ジオールは。
さて、次はサヌか。
他の三人と比べると、身体が小さすぎる。
「サヌ、いくぞ」
「お~」
まずはオイルを塗った手をサヌの背中に乗せた。
温もりが手の平から伝わってくる感触で、得も言われぬ至福が胸に去来する。
触れているだけでこれなのだから、抱き合ったりしたら、どう感想を俺は抱くんだろうか。
「……にーに、くすぐったい」
俺は手を動かしてはいなかった。
「すまない」
つるりとした肌だった。
オイルのせいもあるが、俺の手が流れるように背中を這っていく。するりと手が進むと、サヌは微かな嬌声を上げる。
そんなサヌの反応を見ていると、オイルを塗っているのではなく、サヌの事をくすぐっていると錯覚してしまうほどだ。
「……終わったかな」
「ありがと、にーに」
サヌの背中は小さかった。
すぐに塗り終わってしまい、やり足りなさが残ってしまったほどだ。
次は、ワサだった。
「そんじゃ、よろしく」
「お手柔らかに、ね」
ワサの肌の上をオイルを塗った手が、すっと流れる。思っていた以上にきめ細やかな肌で、すっ、すっと流されていくように進む。滑らか、という言葉がふさわしいほどだ。
「手って温かいんだね」
「そうか?」
「肩から力が抜けてくくらい、ぬくくて……」
俺の手は温かいんだろうか?
他の二人は何も言っていなかったし、もしかしたら、ワサの基本体温が低いせいで、そう感じているのかもしれない。
「……終わりっと」
「手の温もりにもっと委ねていたかった……かな……」
ワサは余韻を味わうかのようにため息をついた。
「最後はリリか」
「はやく、はやく! リリにもお願い!」
急かされるとは思ってもみなかったな。
「そいじゃ、行きますよ」
オイルを塗った手をリリの背中に乗せる。
そして、塗ろうとして、とある事に気づいた。
肌がざらついた感じがするのだ。
元来の肌がそうなのではなく、体調不良から来るような、肌の荒れのように思えた。
「リリ、体調が悪いとかない?」
俺の直感がそう告げていたので、否定されても適当に流せばいいかと思った。
「……え? なんで、そう思うの?」
「なんて言えば良いのかな。そう、直感だ」
「えへへっ、ちょっとまだ身体が合っていないみたい……」
「地球にか?」
だが、リリは答えはしなかった。
そうか。
住む環境が異なってしまえば、それに伴うストレスなどで体調が芳しくなくなる事があるとか。
リリは、環境の変化によるストレスで体調を崩しているのかもしれない。
それが分かっていなかったとは……。
他の三人ももしかしたら顔などに出していないだけで、ストレスがたまっているかもしれないし、体調がおかしくなっているかもしれない。
「リリだけじゃなくて、みんなも体調が悪かったら言ってくれ。できる限りの事はするからさ」
分からなかったのならば、分かるようになればいい。分かるようにすればいい。
俺にできる事は少ないかもしれない。
だが、相談はできる相手がいる事はいる。
相談したりして、リリ達が快適に生活できる環境などを構築したりする事ができるかもしれない。
『異世界のプライベートビーチ 下編』終了
異世界のプライベートビーチ 生贄編へ、つづく
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