第15話 それって、温泉回じゃなくて、ふう……
『異世界ダブルアーク その3』
「……」
小川の横に源泉があって、そこに誰かが石で浴槽を築き上げて、入浴できるようにした手作りの温泉であった。
当然脱衣所や、洗い場などがあるワケではない。
しかしながら、広さはそれなりにあって、七八人は入れそうだ。
「早く脱がぬのか?」
舞姫はさも当然というように、俺の前だというのに着物を脱ぎ捨て、裸体をさらけ出した。
だが、俺は恥ずかしさが先行してばかりで脱ぐことができないでいる。
しかも、俺の後ろには4人の召喚士の少女が一糸まとわぬ……ではなく、白ふんどしのみの姿で控えている。何故彼女達が舞姫に従っているのか、理解不能だ。弱みでも握られているのだろうか。
「……」
同世代に近い女の子の前で裸になれる神経が俺にはない。
「ぬぅ……」
しかも、目のやり場に困る。
そう思いながらも、ちらちらと舞姫や少女達を盗み見てしまう。
舞姫は、豊満な胸や、すらりとした足や、くびれた腰など、そして、艶やかな七つの尻尾。ババアなどといってしまった自分を呪いたくなるほどだ。
しかも、ちょっとした所作で、胸が上下左右に小刻みに揺れるのがまたたまらない。
少女達はといえば、胸の大きさは舞姫にかなわないものの、白い柔肌がなんとも眩しい。それに恥じらいの表情をしていて、耳まで真っ赤にさせて、目を合わせないようにしているところなどは、俺が恥ずかしくなってしまうほどだ。
「くくっ、凝視したいのであれば、すれば良い。わらわは恥じぬぞ」
反応を試すかのような微笑を浮かべる。
「脱がぬのか?」
「……脱ぎたいが……」
「こやつの衣服を脱がせ」
舞姫の一言で、控えていた少女たちが俺に襲いかかってくる。
右腕を胸が小ぶりな少女につかまれ、左腕をツンとそそり立つような胸の少女につかまれながら、まな板のような少女二人にズボンを脱がされていく。
抵抗しようものなら、彼女らを傷つけそうだし、無抵抗だと彼女らの胸やら何やら柔らかいものが身体に当たってきて不可抗力ながらも良い思いができて胸がいっぱいになる。
少女達といえば、顔を真っ赤にさせていて、視線を俺とは合わせないように、合わせないようにと必死になっていた。意思はあれども、身体が命令に従わざるを得なくなっているのかもしれない。
「きゃっ!」
俺は変な声を上げてしまった。
ズボンだけではなく、パンツまで脱がされて、俺の大事なところがさらけ出されてしまった。
服を脱がせようとしている少女達の顔がさらに深い紅色に染まっていくも、食い入るように見つめていたと思ったら、ぱっと顔を逸らした。
「くくっ、可愛い声を出すのじゃな、お主」
「いや、だって、これは……」
「安心するがよい。そやつらは生娘じゃ」
生娘って……。
もし、初めて見るのが俺のだったら、どうしようか……。
トラウマレベルになるんじゃないのか、これって。
舞姫は俺たちの事を顧みつつ、温泉へとその身を沈めていった。
「くくっ、そう自分のものを卑下する事はなかろう。理由は分からぬが男というものは自分自身に自信がない事が多いものじゃ。己にとっては唯一無二のものなのだから誇るが良い。現に、お主の屹立としたその姿はなかなかじゃぞ」
舞姫は俺のを横目でじっと見つめている。
上着を脱がそうとしている少女の顔に何度か当たったりして、ある意味、さらに凶暴なものになりつつあるというのに……。
「人が悪い。人じゃなく、狐が悪い、か」
シャツまで脱がされ、俺は一糸まとわぬ姿にされてしまった。
彼女達には悪いことをさせてしまったが、俺的には至福だったと言っておこう。
そこでようやく彼女達が腕を放してくれて、俺は解放されたのだが、もう恥ずかしいとかそういった感情はどうでもよくなっていて隠す気も起きない。
「もうどうにでもなれ」
時の流れに身を任せるように、俺は温泉に入った。
「……ほぉ」
大きな胸って水に浮くんだな。
舞姫は温泉に肩までつかっていたのだが、俺が入ると、腰を浮かせて、俺の方へと寄ってきた。
何か反応しようものなら、また玩具にされそうな気がして、俺は舞姫の一挙手一投足を見守る事にする。
舞姫は身体を寄り添わせ、肩に手を回してきて、豊乳を押しつけられてくる。
そして、そのまま俺の事を背中から抱きしめてきて、
「シャーリーの件、大義であった」
と、俺の耳元で囁いた。
「……え」
予想だにしていなかった言葉に、俺は何かの聞き違いかと思ったほどだ。
「お主の選択は間違ってはおらぬ故、気に病むことはない。むしろ正解といったところであった。お主の胸の中で安らかな最後を迎えられ、シャーリーは幸せであったろう。感謝する」
「何故知っている?」
「見知った仲であってな。シャーリーに召喚術を伝授したのは、何を隠そう、このわらわじゃ」
背中に胸をぐいぐい押しつけられているが、俺はそれどころではなかった。
「だったら、御狐様が救ってやったら良かったんじゃないのか? そうしたら、シャーリーを壊さずに済んだんじゃないのか?」
「それは無理じゃ。シャーリーの望みはわらわでは叶えられぬ上、現世にはあまり干渉はできぬ」
「そんなワケはないだろうが。今だって、四人の女の子達を……」
召喚士の女の子達に命令をして、俺の服を脱がせていたじゃないか。
しかも、裸に近い格好のままにさせるなんて、干渉と言わずして何というのか。
「この娘たちは、死ぬ運命にあった。正体がばれた者が苦し紛れに召還を行ったのじゃが、偶然にも凶悪な邪神を呼び出してしまってな、四人の召喚獣と共に殺されたのじゃ。わらわは、その悲運を多少改変しただけじゃ」
「……は?」
舞姫が口から出てきた言葉の意味が全くもって理解できない。
「わらわがお主に会いに来たとき、この者達と召喚獣どもが倒れていたろう? もしや、わらわがやったと思ったのか?」
「……正直、気にしてなかった」
そういえば、俺は誰がやったのだとか、どうしてあんなことをしたのかと舞姫に訊きもしなかった。
何故だったんだろう。
「あれは殺される前の姿を風に乗せて、お主に見せただけじゃ」
そういえば、あの場面では、俺を召還したパ・オとかいうおっさんがいなかった。
あいつが元凶だったというのか。
あいつが、次から次へとこの世界に敵を召還したというのか。
そして、あいつが倒すべき敵だと俺が気づいてしまった事で、苦し紛れに召還を行い、偶然にも凶悪な邪神を召還してしまい、大惨事になったという事なのか。
「シャーリーの件の恩返しじゃ。お主は娘達の死を嘆き悲しみ、人が踏み込むべきではない深淵へと踏み出そうとしていた。それを回避したまでじゃ」
「……ありがとう」
確かにあの時はちょっと暗黒面に踏み込みそうになっていた。
あのまま、彼女達の死に直面して暗黒面へと落ちていたら、どうなっていたんだろう。
人ではなくなっていたのだろうか。
「……さて」
舞姫は絡めていた腕だけではなく、胸も俺から離した。
「こやつが身体を洗って欲しいと言っておる。この者の世界では、女の胸で男子の身体を洗うのだとか。その程度の事ができぬとは言わせぬぞ」
「それって、温泉回じゃなくて、ふう……」
逃れられない運命とは、このような事を言うのだろうか。
俺は再び覚悟を決めて、温泉から出た。
すると、彼女たちは恥じらいつつも、俺と同じように覚悟を決めたような目をして……
* * *
身体がすっきりしただけではなく、別の意味ですっきりしてしまって、裸のまま河原で横になっていた。
肌が触れあい続けてしまえば、さもありなん……。
なるようにしかならなかっただけだ。
「くくっ、健気な娘達であったろう?」
そんな俺を帰り支度が済んだと言いたげに着物を羽織っている舞姫が見下ろしていた。
舞姫は、からかい甲斐のあるオモチャを見ている目をしている。
「あの娘達の命運はお主にやろう。お主の世界に転送するもよし、この世界に捨て置くもよし、好きなだけ慰み者にするもよし、それはお主の判断に任せよう」
舞姫は温泉につかっている四人の少女を目で指し示した。
彼女達も疲れたようで、温泉でその身体を癒やしていた。
「……え?」
俺は絶句した。
そんな判断を俺に与えられても困る。
というか、女の子を物みたいに扱うのはいかがなものか。
「あの娘達もお主に命運を委ねると言っておる。故に葛藤などはいらぬ。欲望の赴くままが一番かもしれぬな、くくっ」
「どういう意味だ、それって」
何か不穏な空気を感じ取って、そう訊ねると、舞姫は真剣な表情を浮かべた。
「創世の塵より生まれし邪神レプリカ・ジ・オリジネーション。あやつが生きておる限りは、近い未来、あの娘達はその邪神に殺される運命にある。わらわが行った改変は、今日レプリカ・ジ・オリジネーションに殺される運命をいつか来る未来へと引き延ばしたに過ぎぬ。見殺したくば見殺せば良い。救いたくば、救うが良い。娘達もその事を知っておる。故に覚悟しておるのじゃ。今は、生と死を狭間にいることも知っておる」
つまり、舞姫が行った確変という行為は、死神の死刑宣告を引き延ばしたに過ぎないというのか。
邪神レプリカ・ジ・オリジネーションという死神がいる限り、逃れられない死という運命を少女達が背負っているというのか。
四人の少女という命運という重荷をいきなり背負わされた気がして、やりきれない気持ちもあったが、彼女達を救うのもありな気がする。
しかし……
優柔不断だからなのか、それとも、他の理由からなのか、俺はどうすべきかの判断をその場では保留したのであった……
『異世界ダブルアーク編』終了
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