第14話 もちろん温泉回かな
『異世界ダブルアーク その2』
「君は間違っておるのです。この世界では、召喚士の正装が白ふんどしなのです。正装を変態など言い切るのは間違っておるのです」
召喚士パ・オは赤く腫れた頬をさすりながら言う。
「いや、どう見ても変態だから」
「正装をバカにするものではありませんのです」
「ふんどしが正装とかないから。というか、諸悪の根源がお前で、倒せばミッション達成になるんじゃないか?」
召喚士の頭がおかしいから、世界がおかしくなったに違いない。
トレンチコートに、白ふんどしなど、俺の世界では、路上を徘徊している変態くらいなものだ。というか、そんな変態も滅多にいない。
そんな変態がトップに立ったりするから、俺が召還されるような事態へと発展してしまうんだ。
「なっ?! わ、わわわわわわ私を世界の敵みたいに言わないで欲しいものです! 私はこう見えても、この世界の英雄です!」
頭がくらくらする。
こんな奴が英雄扱いされる異世界なんて長居したくはない。
これまで同様にとっととミッションを達成して元の世界に戻るべきだな。
「はい、止め。英雄だなんだの話題はこれまで! で、俺を召還した目的を話せ。ちなみに、俺はおっさんとは契約しない。単独でやらせてもらう」
「私と契約しないとは……残念です」
パ・オは落ち込んだようで、ふてくされたような顔をした。
「さっさと内容を話せよ」
どうも傲慢な態度を取ってしまうが、仕方がない。
相手が変態のおっさんなのだから。
「では気を取り直してお話しするのです。数年前よりこの世界ダブルアークに異変が生じておるのです。魔物が多く出現し、魔王だけではなく、魔神までもが闊歩するようになってしまい、この世界が破滅しようとしているのです」
「そんな奴らは全部倒せばいいだろ?」
「他の召喚士4名が召還した召喚獣と共に倒しておるのです。なのですが、異変が一向に収まらず、魔物どもが出現しているのです」
「そいつらを生み出しているボスがいるだけだろ?」
「なんということです! それは盲点であったのです! 我々は全て倒せば終わると思っていたのです! さすが召喚獣殿」
「それくらい分かれよ」
「当事者である私達には盲点だったのです。しかし、ボスはどこにいるのです?」
「それを今から調査するんだろうが」
「素晴らしいのです! もう目標ができたのです!」
「……なんか殴りたくなってきた」
本当にぶん殴ろうかと思っていた俺だが、人の気配を察知して、とっさに身構えた。
「凄腕の召喚士ってのは、あんたか。俺ら最高のパーティーより雑魚そうだぜ」
「ああん?」
俺を馬鹿にしたのはどこのどいつだ。
むさ苦しい男が3人、それと、少女が4人。
で、一人の少女が青い毛並みの毛むくじゃらな奴を抱きかかえているが……。
今までどこにいたんだと突っ込みたくなったが、俺の後ろの方に悠然と立っていた。
なんだ、こいつら。
「上位ランカーという話ですが、本当ですか? ひ弱そうですよ」
眼鏡をかけた優男がさげすむように俺を見ながら言う。
「ま、俺たちのパーティーの前じゃ、上位ランカーだろうと雑魚でしかないがな、がははっ」
腕などの体毛が濃いゴリラ風の男がせせら笑った。
「パパの友達の召喚獣よりも弱そうだね、こいつ」
ギザギザヘアのひ弱そうな男が皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「雑魚ぽん!」
青い毛並みの毛むくじゃらが吠えた。
「紹介しますです。眼鏡の紳士がノビー・タノ様です。で、巨躯の美男子がジャイアーノ・ゴダー様です。で、キザな男子がスネース・ネロ様です。最後に、青き流星の毛並み様が、ドーラエ・ノン様です」
こいつら、ヤバイ。
別の意味でヤバイ。
四次元ポケットとか出してきたりしたら、さらにヤバイ。
「これ、劇場版か何かか?」
「はて? 何の話です?」
「……ふう。俺の気のせいか。名前が似ていたり、格好がそれなりに似ているのは、きっと他人のそら似か、偶然の一致だな」
「きっとそうです。で、4人の女子たちは、彼らを召還した女召喚士です。皆、白ふんどしをしておるからお分かりかと思いますのです」
高価そうなローブにその身を包んでいるが、まじまじと見つめてみると、スリットのような切れ目がおへその辺りから入っていて、白いふんどしを見せるような形になっていた。
その格好って、妙にエロい……。
しかも、モデル並の顔立ちをしていて、見ほれてしまいそうだ。
「……」
ため息が出そうになる。
シャーリーの件でまだ虚しさが澱のように残っているって言うのに、どうしてこうも現実は追い打ちをかけてくるんだろう。
俺だけがおっさん召喚士で、他の奴らが美少女の召喚士とか拷問以外の何者でもないだろうが。
もうちょっと俺の心を癒やしてくれるイベントがあってもいいじゃないか。
いいだろうが、それくらいあっても!
そう叫びたいくらいだ。
現実なんて糞食らえ。
異世界も糞食らえ。
「一人でやらせてもらうさ、今回も」
俺は身を翻して、彼らから離れようとした時だった。
一陣の風が凪いだ。
俺にはそよ風のようにしか感じられなかったのだが……
「……なんだ、今のは?」
悪意ととも敵意とも違う、天使の悪戯というべき『何か』を肌がひしと感じ取る。
振り返ると、そこにいたはずの者達の姿がなかった。
警戒しながら、周囲を流し見ると、3人と1匹の召喚獣がぼろきれのような姿形になって地面に倒れている。それに、召喚士の少女達もまた同じように倒れいていて、生きているのか死んでいるのかさえ分からなくなっている。おっさんの方は姿が見えないが、探す気さえしなかったので、あえて無視した。
「ランク20位台など所詮はゴミじゃのう」
艶っぽい女の声がした。
「誰だ、お前は? ここの異世界のボスか?」
「くっくっ、わらわがボスとは面妖な事を言うものじゃな」
ふうっと旋風が吹いたかと思うと、俺の目の前に、白銀に輝く着物をまとい、七つの尻尾を持つ狐耳の妖艶な女が優美に立っていた。
「わらわの名は舞姫。立場は創世竜ギルバラルトと同じ、とだけ言っておくかのう」
「見た目は若いが、ただのババアか、もしかして」
俺はポンと手をたたいて、納得顔をした。
舞姫が清々しいまでの笑みを浮かべたのを見た次の瞬間、俺は何の攻撃を受けたのか分からないまま吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられていた。気づくと、舞姫に踏まれていた。
「今度、ババアと言ったら、地獄の業火で千年間かけて焼き殺すまでじゃ」
「分かりました。綺麗なお姉さん。いや、綺麗な御狐様」
舞姫が足をのけたので、俺は立ち上がって埃を払った。
舞姫にしてみれば、じゃれた程度なのだろう。
今のはさほどでもなかったが、そんじょそこいらにいる王やら、魔王やら、魔神やら、神やらとはレベルが雲泥の差だ。
俺が本気を出せば、勝てるかもしれないが、ノーダメージで済むような相手じゃないと俺の第六感が警鐘を鳴らしている。
むしゃくしゃしているし、舞姫と本気バトルをするのもやぶさかではないが……。
「うむ、物わかりが良い奴じゃ。褒美じゃ。ほれ、わらわの尻尾をもふもふさせてやろう」
舞姫はそう言って、自慢であろう尻尾を見せつけるように俺にお尻を向けて、七つの尻尾を左右に振った。
「いや、エキノコックスが怖いので遠慮します、美しい御狐様」
「お主、わらわを馬鹿にしておるのか?」
「そんな事あるわけないじゃないですか。敬意を払ってますよ、たぶん」
「くくっ、ギルバラルトが惚れただけの事はあるのう。そうじゃのう、わらわはこれから温泉に行くのだが、一緒に行かぬか? 混浴だそうじゃ」
悪戯っぽい笑みが、からかっているのかどうかの判断を迷わせる。
「今回は温泉回ですか? ボスを倒すとかそういうミッションを放っておいて」
「どのような展開になるかは、お主の選択肢次第じゃ。お主にとっては、ここのボスは塵程度だとは言っておくかのう」
舞姫は小悪魔のように微笑む。
「もちろん温泉回かな」
「うむ、当然の選択じゃな。ならば、そこに転がっておる一山いくら程度の女召喚士も同行させるかのう。創世の召喚獣を世話できるのだから、本望のはずじゃ。お主もそれでよかろう? ハーレムを望んでおるような顔をしておるからな」
全てを見透かしているかのような舞姫の目が俺を刺す。
それにしても、美少女を一山いくらとか言っちゃうのはさすがにまずい気がする。
「綺麗な御狐様に当然ついて行きますとも」
俺はなんとなくだが気づいた。
ジオールが俺をこの異世界に召還したのは、ミッションのためだけではなく、舞姫がそれを望んでいたからではないかと。
だからこうして向こうから話しかけてきて、温泉に誘ったのでないかと……。
しかしだ。
今はそんな事よりも温泉だ。
初めての混浴!
俺にとって吉と出るか凶と出るか!
良い経験、もとい、良い思い出になるといいな!
『異世界ダブルアーク その2』終了。
その3に続く
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