第34話 あなたのその憎悪は素晴らしい!
私はこの世が憎い。
憎くて憎くて、全てを消し炭にしてやりたいくらいだ。
幼い頃、私を捨てた両親が憎い。
捨て子だからと捨て駒として私を戦争に動員した奴らが憎い。
ようやく戦争から解放されたと思ったら、召喚士の候補生として拾い上げられたが、そんな私を駒としか見ていなかった召喚士パ・オが憎い。
そして、私が無能だと分かると召喚獣に私たちを殺すよう命令した召喚士パ・オが憎い。
私は世界が憎い。
私を利用するだけ利用して、使い物にならないと分かると簡単に捨てた、この世界が憎い。
『あなたのその憎悪は素晴らしい!』
異世界の武器である銃で撃たれ、即死ではなかったものの、もう身体が動かせないくらいに出血して、後は死を待つだけだった私の頭の中に声が響いた。
『さあ、ネゴシエーションです! その憎悪を私に渡してくれませんか? その見返りに、私があなたを蘇生し、消えゆく命の灯火を再びともして差し上げましょう』
「……いらない。憎しみだけしか抱けない世界で生きていくなんてできない」
『ならば、世界を壊す力と命の灯火でどうでしょうか? あなたの憎悪はそれだけの価値があるのです!』
「この世界を壊していいの?」
『ええ、好きなだけ破壊してください。それだけの力をプレゼント・フォー・ユー!』
「なら、頂戴。この世界を壊して、壊して、壊して、私の憎しみをなくしちゃうの、この世界と一緒に」
『交渉成立ですね。私、レプリカ・ジ・オリジネーションは、サリサ・フォンデューニュ、あなたに私のレプリカを差し上げましょう。あなたの欠損してしまった身体を私のレプリカが再生させるのです。そして、健全な状態へと蘇生させるのです!』
邪神レプリカ・ジ・オリジネーションに命を救われる形で私は復活を遂げた。
邪神レプリカ・ジ・オリジネーションと同等の力を有する者として。
でも、私は弱いのだと思い知る事となった。
あれだけ憎いんでいた召喚士パ・オもそうだけど、私を蘇生させた邪神レプリカ・ジ・オリジネーションも、あっさりと葬り去られる現場を見て、私程度の能力ではこの世界を壊せないのだと思い知った。
やはり私はなれはしない。
この世界を壊せる存在に。
憎悪だけではこの世界を滅ぼす存在に。
『君はなりたい自分になるべきなのだよ』
私はまたしても救いの手を差し伸べられた。
不幸であったために、今さらながら幸福が訪れたとでもいうのだろうか。
『この世界を壊したいのだろう? ならば、私が手助けをしようではないか。安心したまえ。私は邪神レプリカ・ジ・オリジネーションのように矮小な存在ではない。世界を再創造できるだけの能力を持つ男だ』
「名前を知らないようなあんたを信用出来るとでも?」
この男も私を裏切るかもしれないし、私を駒としか見なしていないかもしれない。
『名乗らなかった事を詫びねばならぬな。私は完遂の弥勒と呼ばれている男だ』
* * *
「先日、地球に転送してきて暴れようとしていた召喚士パ・オは、おそらくはこれから抵抗しようとしている勢力が送り込んできた刺客だったのではないでしょうか? 刺客とは言ってもお試し程度ではあったのでしょうが、何か意図があったのかもしれません」
あのまま収束しなかったので、俺は無言のまま、皆の前から去った。そして、何事もなかったかのように温泉を出ると、そこは地下であった。
リビングルームのちょうど真下に温泉浴場ができているだなんて思いもしなかったが、できてしまったのだから文句などを付けてみてものれんに腕押しだろうから素直に受け入れる事にした。召喚獣アプリに登録してからは、驚きの連続すぎて、何もかも受け入れられる寛容な心の持ち主になってしまったのかもしれない。
リビングルームに上がって、涼んでいると、浴衣姿のジオールが来て、先ほどの話の続きとばかりにそう語ったのだ。
「……つまり、地球で何かが起こる可能性があるって事なのか?」
地球……というか、俺は転送してもらわないことには実力が発揮できない以上、ここで命を狙われてしまっては雑魚と同等なので死ぬことだってあり得る。
「その件については対策しましたので問題ありません」
ジオールはうちわを手にして、ほてった身体を冷ますようにぱたぱたと仰いだ。
「どんな対策を?」
「そのときは『こんな事もあろうかと』と言って、しっかりと遂行しますのでご安心を」
俺は素直に安心していいものなんだろうか。
俺に命の危険が迫るのはいいが、他の奴が狙われた場合、どうすることもできないんじゃないか、という疑問を払拭することができなかった。
「それはその時がくれば分かるとして、俺はどうすればいいんだ? 宇宙をどうたらこうたらと言われても、俺は何すればいいのかちっとも分からん」
「あの者達がいびつにしてしまった異世界へと転送します。その世界の歪さを修正してください、あなたのその力で。ですが、あなた一人では決してありません。あなたを手助けをする者達が同行します。もちろん、あなたがよく知っている人たちですが」
ジオールはにっこりと微笑むも、すぐさま思案顔に変わった。
「今日はもう異世界に行ってきた後でしたね。明日の朝、あなたに修正して欲しい異世界へと転送しましょう。そういう段取りにしますので、今日はゆっくりと休んでください。これから大変ですからね」
「そこまで言うのならば……」
温泉に入ったとはいえ、その後の出来事で俺の精神状態はあまりよろしくはない。
今日は早いかもしれないが、眠るとしようか。
俺はリビングルームを出て、自分の部屋へと向かう。
あの部屋だけは不可侵領域だろうから、安心して眠れるはずだ。
「さて……」
俺は自室のドアノブに手をかけ、いつものように回して、部屋のドアを開ける。
そして、何気なしに部屋の中を見ると、俺にはもう不可侵領域が存在していない事を思い知った。
「……お帰り」
一時期、とある界隈でブームとなった白の猫ランジェリーを着た東海林志織が恥じらいつつ、俺の事を上目遣いで見つめながら、ベッドの上で女の子座りをしていたのであった……。
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