第12話 受粉でDT卒業ってなるのだろうか?
『異世界プランターズ編 後編』
「なぜなに生殖活動講座、始まるよ~!」
どの植物が俺を召還したのか、未だに見分けが付いていないが、人間の生殖活動について説明するしかない。
きちんと説明しなければ、異種での生殖活動、強いて言えば、植物と人間とが性行為できないという事実が分かってもらえないはずだ。
だが、不安がある。
保健体育の授業とエロ本だけの知識で教えられるかどうかだ。
『せいしょくかつどう? それは何なのですか?』
頭の中に俺を召還した召喚士の声が響く。
そういえば、召喚士の名前を聞いてはいなかったな。
「そういえば、あんたの名前は?」
『私はユリ目ユリ科エンテリック・ハイメーション、ユリ目の長をしています』
もしかしたら、この異世界では、ユリ目というのは種族扱いになっていて、ユリ科は地名とかそんな事を指し示しているような気がする。
「ユリ目ユリ科エンテリック・ハイメーションか、長いな。エンテって略してもいいか?」
地球にある『ユリ』なのかと思って、周囲を探るように見回すも、ユリらしき植物はこの草原には見当たらなかった。
ユリが進化してしまったため、外見が全く異なっているでもいるのだろうか。
『構いません』
「生殖活動というのは、エンテの言う『受粉』みたいなものかな。つまりは、受粉とは違う方法で、子孫を増やしているって事なのさ」
これであっているよな?
『分かりました。つまり、方法が違うので、私と受粉ができないと言いたいのですね』
「わかりやすくて助かる。まあ、そんなところだ」
これで、受粉が不可能なのが理解できてもらえたはずだ。
ミッション達成が不可能であることもまた分かってもたえたはずだ。
『そのような事は想定内です。我々は異種族同士の交配で発展してきた過去があります。あなたの種族では、そのせいしょくかつどうとやらは、どのような方法で行うのですか?』
「……それは……」
コウノトリだ、キャベツ畑だなんて幼い頃に教えられたネタでは駄目なのは至当だ。
ここはきっちり、はっきりと説明せねばなるまい、セックスというものを。
「……ええと……ええと、あれだ。男と女が抱き合って、くんずほぐれつをするとできるんだ」
……駄目だ、全く説明できていない。
恥ずかしさが先行しすぎる!
『男と女とは何ですか?』
そこまで説明しないといけないのか。
「雄しべ、雌しべ、って言えば分かるかな? それはあるんじゃないのかい?」
『はい、同種族同士では受粉において必要なものです』
「うちらの種族には、男には雄しべ、女には雌しべみたいなのがあって、雄しべは棒みたいなもので、雌しべは穴みたいなものかな? 棒を穴に挿入すると、それなりの確率で受粉させる事ができるってところ……かな?」
これなら、納得してもらえそうだ。
ちなみに、そういう活動を俺はしたことがないけれども。
『雄しべと雌しべが触れあう必要があるということですか。直接的な接触がなければ、あなたと受粉することは不可能という事ですね』
「まあ、そういう事になるかな?」
『では、直接接触しましょう』
「……はっ?! どうやって?!」
俺がこの草原の中からエンテを探し出して、触れたりしなければならないというのか。
それはそれで大変な作業じゃないか。
『私があなたの姿にトランスフォーメーションします。その姿であれば、あなたの言う『くんずほぐれつ』ができるのではないですか? そうすれば、きっと私に受粉可能なはずです』
「うおっ!」
俺のすぐ傍にはえていた一本の草がすくすくと伸び始めて、俺と同じくらいの高さまで達した。
すると、枝葉を広げ始め、俺と同等の体格になっていく。
次第に姿形が人間に近づいていき、葉だけではなく、茎までもが限りなく肌色に近い色へと変化していく。
まるで、人を模倣していくかようだ。
これがエンテの言う『トランスフォーメーション』なのか。
『……あなたの姿をコピーしてみましたが、どうでしょうか?』
変身は終わりだとばかりにエンテが言う。
まだ地面に根っこを生やしているが、太ももから上はほぼ俺の姿形になっている。
寸ぶるん狂いもなく……とは行かないかもしれないが、まるで鏡を見ているかのようだ。
『これであなたと受粉できますよね?』
「できない! できるワケがない! これじゃ、雄しべと雄しべだ!」
後ろの穴に棒を挿入しても生殖活動はできません。
できるワケがない!
そっちは別の目的の穴なのだから!
『私の知識不足のようです。ですが、あなたの言う『女』という知識を有していません。ですが、イメージから女を模倣する事は可能ですで、雌しべの姿形をイメージしてください。そのイメージをくみ取り、再びトランスフォーメーションします』
「……雌しべ、となると女か……。イメージ、イメージ……」
裸体か、裸体なのか?
裸体をイメージすればいいのか。
いや、待てよ。
画像とか、動画とかの平面的な裸体しか見た事がない! 俺はリアル裸体を見たことがないじゃないか!
それをどうやってイメージしろと言うんだ。
くそっ!
イメージトレーニングだったら何度かした事はあるが、リアルはないんだ!
いや、裸体じゃなくてもいいんじゃないか?
俺の見知っている女をイメージすれば、いいじゃないか?
俺って天才だな!
「……知り合いっていっても、誰をイメージすればいいんだ?」
そして、行き詰まる俺。
よく見知っている母ちゃんはさすがにヤバイ。
様々な意味でヤバイ。
そうなると……
誰がいる。誰がいる……。
さっき俺を取り囲んでいた柳三姉妹なら……無理だ。顔がよく思い出せない……。
待てよ! 最近、よく顔を合わせている奴がいるじゃないか。
東海林志織だ!
あいつなら、すぐにも思い描く事ができるし、全然問題ない!
可愛い猫のサイクルジャージを着ていて、パツンパツンのレーサーパンツをはいていて、可愛い顔をしていて……。
「エンテ。このイメージをくみ取ってくれ!」
東海林志織。
東海林志織だ! あいつの事なら、顔から表情まで思い出せる!
裸は見た事がないんで、服の下の姿までは分からない、というか、リアルな裸を見た事がないからどうしようもない!
『……こうでしょうか?』
エンテの姿は、東海林志織そうものだった。
猫のサイクルジャージに、レーサーパンツ。
正確な数値を知らないのだから、BWHの大きさは多少違うかもしれない。
だが、外見は東海林志織だ。
地面に根っこがはえている事を除けば……。
「……」
目と鼻の先に東海林志織がいる。
エンテがトランスフォーメーションしているだけなのだが、非常に気まずい。
そう感じているのは、俺だけかもしれないが、気まずすぎる。
『くんずほぐれつをしてください。その前に『抱き合う』という行為でしょうか?』
エンテの声が脳に響く。
東海林志織を模しているものの、『しゃべる』という事を知らないのか、それとも、行えないのか、口を開けてしゃべったりはしていなかった。
「東海林志織の等身大フィギュアと思えば、どうということはない!」
俺は一歩前に踏み出す。
手を伸ばそうとするも、踏みとどまってしまう。
『私では拒否反応が出てしまいますか?』
俺は勇気をふるって、さらに手を伸ばす。
「ええい、ままよ!」
手を伸ばして、エンテを抱き寄せ、そして、ぐっと抱きしめた。
「冷たい……」
人の体温ではなかった。
エンテは人ではないのだから、人間と同程度の体温があるはずがない。
だが、それで俺は救われたような気がする。
東海林志織の格好はしていても、本人ではないのだと分かるのだから……。
『棒と穴の話はよろしいので?』
「それは……」
今の姿形のエンテと人間の生殖活動を行うなどもってのほかだ。
俺にやれる事と言えば……唇と唇程度の粘膜接触だ。
これならば、棒と穴の理論が別の形で実践できる。
キスもやった事がないため、この行為が初キスになってしまうが、覚悟を決めるしかなかった。
いや、待て。
このキスはファーストキスとしてノーカンだ。
植物……しかも、人形みたいなのとのキスだから、ノーカン!!
俺はそう言い聞かせる!
* * *
俺は元の世界に戻ってきたが、どこか上の空だった。
家まで全速力で走って帰ってくるなり部屋に閉じこもり、ベッドに飛び込んで目を閉じた。
『ありがとうございました。今の行為で無事に受粉できました』
エンテはそう言うと、元の草に戻ってしまった。
『これで私たちは進化できます。今のままの私たちでは次の厄災で滅んでしまう未来しかありませんでしたが、この進化できっと生き抜ける事でしょう。全ては来たるべき未来のための進化です』
俺はあの異世界を救ったのだ。
きっと、たぶん、絶対に……。
「……それにしても……」
俺には気になる事がいくつかあった。
エンテが女性であったのか。
女性ならば、俺にとっての初ヒロインになる。
美少女だったかどうかの基準は種族が違うので判定できないが。
それと……
「……受粉でDT卒業ってなるのだろうか?」
実のところ、それが一番の疑問だった。
異世界プランターズ編 終了
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