第21話 地獄で詫びろ、クズどもが

『異世界うつけ者の国』




「……ぐすっ……ぐすんっ……」


 俺にお姫様だっこをされているエーコ・ピアッサは恐怖からか泣きじゃくっている。

 マイクロビキニが国民服だなんて異様な国につれてきてしまったのも悪いが、俺と同い年くらいの少女に銃口を突きつけた上、足下に威嚇射撃してくるような奴らがいるだなんて予想していなかった俺も悪い。


「どけっ!」


 前方に戦車数台を目視するなり、俺はコンクリートの地面にかかとを叩き付けて粉砕する。飛び散るコンクリートの破片をボールを蹴る要領で戦車にぶち込んでいく。戦車の走行に風穴が空くと、内部の弾丸などに引火したのか、爆発していった。


「エーコ。もう少しだけ我慢してくれ。とっとと依頼をこなして、元の場所に転送させるから」


「……うん……」


 オールオールドに行った後、俺たちは話し合いをした。

 誰がどんな性格をしているのか分からなかったからなんだが、エーコ・ピアッサは話してみると、結構強気で、俺の事を認めないだとか言っていたのだ。

 そんなある日、舞姫が用意したという四人分のマイクロビキニを見せつつ、この水着を着ないといけない異世界に俺と一緒に行くよう舞姫に言われたと説明すると、他の三人が難色を示す中、エーコ・ピアッサが挙手をして『私が行く。裸じゃないからそれくらい平気よ』と強気な事を言い、一緒に行くことになったのだ。


「すまない。俺が甘かった」


「……いい。私も……悪いし……」


 エーコはまだ涙ぐんでいる。

 俺はすっかり忘れていた。

 エーコ達はもう召喚士ではなく、ただの少女になってしまったのだと。しかも、住まれ育った世界とは、別の世界に強制的に行かされ、何も分からない俺と一つ屋根の下で暮らしているのだ。虚勢を張らなければいけないと分かってあげるべきだったんだ。


「俺が絶対的に悪い。元の世界に戻ったら、叱りたいだけ叱ってくれ。殴りたいだけ殴ってくれ。俺はそれだけの事をしてしまったんだからな」


 今回、舞姫に踊らされているのは分かっている。

 だが、俺の前で女の子を泣かせるような奴らを許せるはずがない。だから、俺は踊らせてもらう。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損ってね。

 だが、舞姫は一発ぶん殴らないと気が済まない。

 俺のためじゃない、エーコを泣かせた罰だ。



 * * *



「ドンゴの奴がお主らにミッションを課したのならば、わらわもミッションを課させば道理が通らぬな」


「その理論、意味がわかんない」


 俺の家は集会所か何かになっているのか。

 その日、帰宅してみたら、舞姫が何食わぬ顔をして、リビングルームでいなり寿司をおいしそうに食べていた。


「ドンゴ一人に美味しい思いをさせてはなるものか、という理論じゃ。ギルバラルトやジオールも同じ思いじゃ」


「舞姫のを含めると3つの個人的なミッションを俺にやらせるって事なのか? 断る理由はないから受けるが、どんなのなんだ?」


 多少打算的ではあるが、運営側の人間に借りを作っておくのもいいかな、とは思う。


「とある異世界に行って、とある人に伝言を伝えるだけの簡単なお使いじゃ。ドンゴが2000万出したのじゃから、わらわも同じポイントを出すしかあるまい」


「そんな簡単なのでいいのか?」


 何か罠があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

 依頼主が舞姫ともなれば、どうしても構えてちゃうんだよな。


「わらわはあの異世界には行けぬ。行くのを禁止されておるのじゃ。たかがの軍隊を半壊させた程度で入国禁止とは、肝っ玉の小さき奴らよ」


「そりゃ入国禁止されるだろ」


「わらわのこの尻尾に何か隠しているのではないかと疑ってきて、尻尾を全て切断せねばその場で処刑すると主張してきたのじゃ。すったもんだの末、あやつらは実力行使に出てきた故、抵抗したまでじゃ」


 舞姫は苦笑しつつ、肩をすくめて見せた。


「……不穏な空気が」


「説明せねばなるまい。その異世界はとある王族に数百年以上支配されておるのだが、毎年のように王族の誰かが暗殺されておるのじゃよ。そのためか、その王族は常に疑心暗鬼に陥っておる。終いには、暗殺を恐れるあまり、暗器を隠し持てないようにと、バックの所持を禁止し、国民の衣服を男も女も関係なくマイクロビキニとしたのじゃよ、笑い話であろう? 裸では野蛮すぎるという主張な上、逆らう者は死刑という事じゃ。うつけ者の国よ」


「マイクロビキニ……だと?」


 王族が人を信用していない国なんだろうが、やり過ぎのような気もする。

 疑わしいというだけで、死刑が横行してそうな雰囲気もあるし、行くのがある意味怖いな。

 しかし、国民全員がマイクロビキニというのは興味がある。

 国民総卑猥状態ではないか。

 けしからん。一度見に行ってみなくては。


「要人が住む地区があるのじゃが、そこにいる友人に伝言を伝えるだけじゃ」


「マイクロビキニを着るのは抵抗があるが、その程度の内容なら構わないか」


 そんな話の流れでエーコを連れて、俺は国民服がマイクロビキニの世界へと行ったんだが……。



 * * *



 異世界からの転送先一括管理されていており、その場所への転送は不可とされ、発見された場合はその場で射殺されるという。

 転送管理事務局なる場所でそのような説明を受けたのだが、異世界と言うよりも、物騒な国に旅行しに来た感覚だ。

 説明を受けている間、エーコを横目で見ると、大事な場所以外は見えてしまっている水着が恥ずかしいようで耳まで真っ赤にされて落ち着きがない。胸がツンとしているためか、胸が強調されすぎていて触ってみたくなる。それが男心というものだ。


「ジロジロ見ないでよ」


 説明が終わり、管理局から出て、要人区域へと歩を進めると、エーコが俺の事をじろりと睨み付けてきた。


「変な事、考えているんでしょ?」


「いやいや、考えてないよ」


 実物が目の前にあるのだから考える必要などない。そんなワケもなく、ボリュームがありすぎて、マイクロビキニの布が切れてしまって露出するんじゃないかと気が気でないとは、とてもじゃないが言えない。


「私の胸、そんなに見て何が楽しいワケ?」


「男の浪漫だ。気にするな」


「は? バカじゃないの」


 エーコは調子を取り戻してきたのか、顔がいつもの肌色に戻りつつある。


「……なんで、あんたなんだろ」


「どういう意味で?」


「なんで、私たちがあんたのところにいないといけないのかって事よ」


「他に行く場所があればいいんだろうな。でも、ないんだろ?」


「……それはそうだけど……」


 エーコは下を向いて押し黙ってしまった。

 さすがに言い方が悪かったな。

 謝るべきかどうか、どう謝ろうかと考えているうちに、要人地区の手前まで来たのだが……。


「なんだ?」


 要人地区との境にはバリケードがはられているだけではなかった。銃を持った大勢の兵士が警備している上、数台の戦車が待機していた。


「……え?」


 要人地区に入ろうとしている先客が四人ほどいた。

 中年の女性で、当然マイクロビキニを着ていた。

 その女性達がバリケードまで立ち止まると、大勢の兵士が銃口を向けた。すると、それが合図であったかのように女性達はマイクロビキニを脱いで全裸になり、両手を上に挙げた後、兵士達にお尻を向け足を大きく開き、大事な場所などに何も隠し持っていない事をアピールしていた。


「何も隠していないようだな。通ってよし」


 女性達は慣れた様子でマイクロビキニをまた着て、銃口に見守られたまま、要人地区へと入っていった。


「……」


 エーコの顔は真っ青になっていた。

 俺もさすがに不味いと思った。まさか、ここまで疑心暗鬼に駆り立てられている世界だとは思ってもいなかったからだ。

 エーコにはどこかで待ってもらっていて、俺だけで要人地区に行くべきだな。


「お前達! 何をしている!」


 ちぃ。

 奴らの方が俺たちに気づきやがった。非常に不味いな。

 銃口を俺たちに向けたまま、十数人の兵士が駆け寄ってきた。他の場所からも集まってきているようで、兵士達がわらわらとわいてきてやがる。


「服を脱いで手を挙げろ。お前達は不審人物である以上、身体検査も必要だ」


 兵士達は俺たちを取り囲んだ。

 俺は素直に手を挙げたが、エーコは完全におびえてしまっていて、動けなくなっていた。

 異世界から来たとはいえ、銃の知識はこちらの世界に来てからある程度は仕入れているようで、銃を向けられている意味がわかっているようではあった。

 エーコに声をかけてやるべきなのだろうが、下手に動いてはエーコが撃たれかねないので、どうしようもなかった。


「女、服を脱いで手を挙げろ! 女、命令に従わない以上、たった今、お前には暗殺容疑がかけられた。自白剤を使用しての尋問させてもらう」


 そして、エーコの足下に銃口を向けるなり、威嚇射撃を一発。


「ッ!?」


 当たりはしなかった。

 エーコは大粒の涙を流しながら、ようやく手を挙げるも、もう満身創痍と言ったところであった。

 威嚇射撃とはいえ、俺には決定打だった。


「舞姫が暴れた理由がよく分かったよ。今の俺は手加減ができないんでな、地獄で詫びろ、クズどもが」


 素早い足裁きで、エーコに威嚇射撃をした兵士の前に行くなり、その頬に本気の一撃を叩きこむ。

 エーコに銃口を向けてる他の奴らも同罪である以上、許すワケなかった。

 数秒でバリケードどころか、兵士の詰め所まで叩きつぶし、恐怖のあまり子供のように泣きじゃくるエーコをお姫様だっこをしたまま、目的の場所へと急いだ。

 途中邪魔する兵士やら戦車やらは当然のごとく排除し、先を急ぎ、俺はミッションを終わらせる事に成功したのだが……。



 * * *


「……しばらくこうさせていて……」


 帰還先のリビングルームに戻ってきても、俺にお姫様だっこされていたエーコは俺の首に手を回したまま、じっと動かなかった。

 涙は止まっていたが、やはりまだ身体が恐怖に支配されているのだろうか。


「すまなかった」


「……いいの。私だって悪かったし。本当はこんな姿になるのは嫌なのに……あんたに見せるだけだったら良かったのに……」






『異世界うつけ者の国』終了


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