第7話 キキキキキキキキスで、じゅじゅじゅじゅ、十分だよ!!!
『異世界・アンドロイドだけの世界 その2』
街中は、20世紀初頭のヨーロッパのような雰囲気があった。
産業革命時の参考資料の絵図として参考資料に載っているかのような風情がある。
そんな感じであったので、シャーリーと歩いているだけで、当時にタイムスリップしてしまったかのような感覚にとらわれた。
「本当にシャーリーだけなんだな」
何体かのアンドロイドを見かけたが、彼らはシャーリーのように衣服を身につけてもいないし、人工の皮膚もなく、機械の身体を露出させていた。
「何がでしょうか?」
「人のような肌を有している上に、メイド服を着ているっていうのが、シャーリーだけだなって思ってな」
「私が特別なだけです。私はプロトタイプなのですが、開発者のエゴに基づき、このような姿になりました」
「エゴ?」
「はい。開発者フィリップ・アシモフは実の娘を事故で亡くしまったのですが、その悲しみを紛らわすために、私を娘の姿形そのものにしたのです。そのような理由ですから、あくまでも開発者のエゴです」
「……その娘の名が、シャーリーだったんだな」
「はい、その通りです」
娘の死に対する悲しみを紛らわす事が利己主義と言えるのかどうか分からないが、これだけは言えた。
その開発者の執念が、シャーリーを実の娘とうり二つのアンドロイドに仕上げたのだ、と。
「私が特別であったため、私は他のアンドロイドを補佐できたのです。そして、皆からリーダーだといわれるようになりました」
「……いや、特別だったかどうかは分からないな」
特別だったら、シャーリーにメイド服を着せるだろうか。
メイド服の意味が、俺の世界と同じとするのならば、開発者は実の娘のシャーリーとアンドロイドのシャーリーが全くの別物である事に気づき、メイド服を着せたんじゃないのだろうか。
アンドロイドのシャーリーが他のアンドロイドと変わらず、実の娘ではない、ただのアンドロイドだと納得させるために。
「今の説明では不十分でしたか?」
俺の言葉を別の意味にとらえたようだ。
「ま、気にしないでくれ。そんな事よりも、工場っていうのはどこにあるんだ?」
「もう到着します」
* * *
工場内では数百台ものアンドロイドが稼働していた。
ラインから流れてくる部品を組み立てるアンドロイドや、溶接などをしたり、部品の削りだしまで行っていたりと職人気質のものまで様々だ。
最初は小さなパーツだったのだが、それが段々と人型のアンドロイドになってく様は圧巻だった。
見ているだけでワクワクする。
「量産型アンドロイドって奴か。シャーリーとは別の型なのかな」
「……はい」
心なしか、声が沈んでいるように思えた。
アンドロイドなのだから、感情の浮き沈みがあるとは思えないのだが、俺の気のせいだろうか。
「……あれ?」
ようやく完成したと思われたアンドロイドなのだが、即座に別のラインへと運ばれていく。
何が始まるのかと思って見ていると、完成したアンドロイドから次から次へとパーツを外していく。
まるで解体しているかのようだ。
「一体何を?」
「解体という名の破壊をしています」
シャーリーはさも当然というように言う。
「は? 意味がわかんない。どうして完成品を壊す必要性があるんだ?」
「この世界の法律では、アンドロイドの上限は1万体まで、とされています。それに加え、アンドロイドを1日数十体製造しなくてはならないという法律もあります。また今製造された後に解体されているのは、アンドロイドではありません。アンドロイドの形をした金属の塊です。アンドロイドと認証されなければ、アンドロイド然としていても、それはアンドロイドではありません。この意味が分かりますか?」
「……アンドロイドが1万体を超えてしまう事が許されないのなら、製造した直後にアンドロイドとして認証せずに解体しなくてはいけないって事か。アンドロイドの総数が1万0001体以上にならないように。ちょっと待て。それって変えられない事なのか? 意思を持つアンドロイドがいるなら、それくらい簡単にできそうなものだが」
アンドロイドが意思を持っているのならば、法律程度を簡単に変える事ができそうなものだ
「法律は私達の権限では変える事ができません。上位権限としてロックされており、アンドロイドには不可侵の領域となっているのです。その昔、アンドロイドが反乱を起こしたことがあり、そのような上位権限と1万体の制限がかけられたのです」
「なら、俺がその権限を……」
「ショウイチには、上位権限がありません。ジェネラルの身分がある者のみ、上位権限を与えられており、法律および、私達アンドロイドの制限が変更可能なのです」
「だったら、そのジェネラルって身分の奴を連れてくれば……」
「40年も昔の事ですが、この世界の住人は、私たちアンドロイドを残し、消滅してしまっています。他の星との戦争中、生物のみが消滅する兵器を使用され、生きとし生けるもの全て消滅してしまいました」
「……」
40年も、この世界に住むアンドロイドは1万体を超えないように、穴を掘っては、その穴を埋めていくような作業というものを繰り返していたのか?
それが本当の話なら、建設的ではない作業を延々とやらされていて苦痛だったろうな。
しかも、アンドロイドたちは、その苦痛を解消するすべを持たない。
解消できないのであれば、別の方法で状況を打破するしかないと考えたってところか。
シャーリーがアンドロイド達に意思を確認し、破壊という名の死を選択した。
「そこで召喚獣の登場となったのか。建設的じゃないこの状況を破壊して楽になりたいと」
「ショウイチは理解が早くて助かります。私たちアンドロイドは生産性の全くない、この世界に飽きてしまったので、楽になりたいのです。私達が不良品であるが故に、そのように考えてしまったのかもしれません」
未来永劫、変化は訪れない。
延々とつまらない1日をループしているような感覚なんだろうか、シャーリー達アンドロイドが過ごしていた40年という時間は。
「事情はよく分かった。この世界の住人ではない、俺みたいな召喚獣にしかできない事なんだな」
「はい」
「ミッション達成のために、俺がやってやろう。シャーリーやアンドロイド全ての破壊を」
「ありがとうございます」
「だが、1つだけ条件がある」
「私たちにできる事であれば、受け入れます」
「シャーリー、これから俺とデートしよう。俺とのデートが条件だ。最後の1日くらい普段とは違う時間を送ってみるのもいいんじゃないか」
「デートですか? 食事などを通じてお互いの感情を深めたり、愛情を確認することを主目的とする行為の事ですか?」
「まあ、そんなところかな?」
「しかしながら、私はアンドロイドですので、ショウイチが望んだとしても愛情の確認である手段の一つである生殖活動は身体の構造上できず、キスという愛情の確認手段程度しかできませんが、それでもいいのですか?」
「キキキキキキキキスで、じゅじゅじゅじゅ、十分だよ!!!」
擬似的なキスは経験があっても、人と人との本物のキスはした事がないから言葉がうわずってしまったが、意外な収穫がありそうだな。生殖活動もやってみたいことはやってみたいんだが、できないのなら仕方がない。
シャーリーとキスをすることになりそうで嬉しいんだが、その先にあるのがバラ色の未来ではなく、血塗られた未来である事に絶望を禁じ得なかった。
『異世界・アンドロイドだけの世界 その2』終了
第8話へと続く
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