III 掲示板

「ここが我輩の研究所さ!」


ちっさ!!!これが研究所なのかと疑うほどに小さい研究所だった。


「さあ、中へ案内しよう。」


「わあー、ひろい。」仲里さんが声を上げた。


研究所の中は外見では分からないほど広かった。あちこちに資料や、実験用具、ホルマリン漬けされた猫もいた。


「いつも、ここでどんな研究してるんですか?」

彼女はキラキラした目を博士に向けた。

「我輩は、この世界にないものを作ろうと思ってね。現世からやってきた人が色々と言っていたものを再現したりしてるのさ。ほら君に渡したあのWi-Fiもそれを参考にしたのだよ。」


ミケット博士の再現能力の凄さにまた驚いた。耳にした話を実際に作ってしまうなんて...。


「あ、パソコン!博士、パソコンも作ったんですか?!すっげえ。」俺が言うと

「ま、まあね。そんなの朝飯前さ!」と博士は照れた。

「それにちゃんとインターネットにも接続してるのだよ。Wi-Fiも出来たからそれと繋いでサクサク動くのさ!」


「・・・ネットですか。」

彼女の顔色はみるみる悪くなった。

「何かネットであったのかい?」イザナイが訊いた。


「・・・・・・高2になって、仲が良かった友人ともクラスが離れてしまって、なかなかクラスに馴染めなかったんです。そんな時に優しく声をかけてくれた人がいたんです。私、声をかけてもらえてすっごくうれしかったんですよね...。」


わかる。その気持ち俺には痛いほど分かった。クラスに馴染めない時に話しかけられたらテンション上がるけど、何日かして疎遠になっていくんだよな...。


「その子を頼りすぎて...。自分の悪い所は嫌という程分かっているつもりで、気をつけていたんですけど...。

その子に嫌われてしまいました。そのことに気がついたのは、ネット上の掲示板に悪口を書き込まれていたのを見つけた時です。悪口だけでなく、私の写真とかその子と撮ったプリクラとかを晒されてしまって。

私の知らない人とかクラスメイトにも誹謗中傷を書き込まれていました。」


今の時代のいじめはあまりにも酷い。

スマホ世代にとっては当たり前に身近なネットで起きている現実。社会問題にもなっているほどだ。


「それで学校にも行けなくなりました。でも来年には受験生なので塾には通ってましたが、その塾に通っている人にも掲示板で書かれていることが広まっていて。もう辛くて、どうしたらいいのか分からなくなって。あの日の塾帰り終電を待っていたんです。ひとりでホームで考えてたらどうでもいいかなーと思い始めて、私がいなくても誰にも迷惑をかけないし、私のこと色々言ったあの人たちにとってもその方がいいんじゃないかなーって。」


彼女にとって限界だったんだろうな。

それでホームに身を投げたわけか...。


────でも、それで解決したのか?いや、解決していないと思う。ほんとにそれしか方法がなかったのか?

以前の俺がその立場にたっていたら俺も同じ考えになっていただろう、だけどまだ生きたかった海翔の姿を見届けた今はそう考えられない。まだ寿命いのちある者として自らそれらを放棄してしまうのはどうなのだろう。


「じゃあお嬢さんが昏睡状態になってる世界がどうなってるか覗いてみるかい?」ミケット博士が言った。


「そんなことが出来るんですか...?」

「そのパソコンでは、どんな情報でも入ってくるのさ。」

「怖いけど、知りたいです。」

「よし、じゃあ検索してみよう。」


《中里雪鈴、掲示板》


「なんかパソコンから黒い靄がかかってるけど...。」そう言うと

「危ない!パソコンから離れて!!!」イザナイが叫んだ。

その瞬間、黒い靄が視界を包み込んだ。

身体中に悪寒がはしる。吐き気と気持ち悪さ。感じたこともない痛み。身体中の穴という穴から汗が噴き出す。


──バン!!

イザナイに叩かれて、視界が元に戻ってきた。


「こ、これって...な、なんだ?」

「悪魔の仕業だ。取り憑かれて、生気エネルギーを取られてしまえば、元の世界に戻ることも、転生することさえも出来ない。今ので悪魔による邪気は薄まったから大丈夫だと思うけど、警戒しておいて。」

「・・・わかった。」

俺は、残っている気持ち悪さを感じながら、目線を画面へ移した。




──検索結果。



aok ゆりウザいんだけどw

kyu なんかあったん?

aok クラスでボッチだったから声掛けたらずっとくっついてくるんだけど、マジでキモい。

fjm それめんどい奴w

dav どんなやつー?写真くれーw

aok こいつだよ

画像

suk やばwうけるw



その後に続く内容はかなり酷かった。

雪鈴さんは、微かに震えている。

唇を固く結び、涙を堪えているようだ。


画面をスライドしていく。


「あ、ちょっとこれ...」


──最近の更新




fjm ゆり、病院に搬送されたんだって。

kyu うそ、まじでwwやば。

dav でもそれってaokのせいじゃね?

aok なんでわたし?

fim だって、大体さ掲示板に書きはじめたのは お前じゃん。

aok それは、いちいちウザいあいつが悪いでしょw

dav こうなってしまった今、一番悪いのはあんたでしょ。責任取りなよ。

aok は?なんでわたしなの?あんたらも色々言ってたじゃん!!

kc はい、でましたーww責任転嫁w

aok ねえ、そういうのやめてよ

dav 嫌なら死ねばw





「仲里さん、このaokって君を虐めた人だよね?」

「aok...、はいそうです。彼女の名前は蒼木あおき 寿梨じゅりです。

今度は私が自殺未遂したせいで寿梨が標的になったんですね...。」

「そうみたいだね。」イザナイが言った。

「当たり前ですよね...。私をここまで追い詰めたんだし、当然の報い。この先彼女がどうなるかも私には関係ないし。」

彼女はわらった。でも、その表情は本心から笑っているように感じられない。

「ちょっと彼女の様子見てみるか。」と博士がパソコンを操作し始めた。

それって、盗撮なんじゃ...?という言葉は飲み込んだ。



画面上にいくつか映像が現れた。

デジタル表示された時刻は、

『9:25』『12:32』『15:17』『18:42』


「あれ、これって今日一日の青木寿梨の様子を映してるんだよな?でも、今の時刻って...」

俺が付けている腕時計に表示されてる時刻は

まだ8時30分。この時計は現世から持ってきたものなので時刻は俺がいた世界と同じように進んでいる。

「そうさ。ここに映し出したのは現在いまの青木寿梨。時空の入り組んでるこの世界の仕組みを利用しているのさ。」

ミケット博士は、パソコンを操作しながら言った。


どの時刻の画面にも、暗い部屋の中で布団にうずくまる青木寿梨の姿が映っている。

平日にも関わらず引きこもっているということは、学校に居づらいのだろう。

いや、ただ居づらいのではなく、いじめられているのかもしれない。


「博士、青木寿梨が仲里さんと出会った当時の様子と、仲里さんをいじめの対象にし始めたときの様子を映せない?」とイザナイが訊く。

「了解。」

ミケット博士は、素早く画面を切り替えた。

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