【First week】

友達になろう。

I 出会い

「はーい、はい!おはよう!日辻くん」

「あー、おはよう。今何時?」

昨夜は、あれから部屋に帰りそのまま寝てしまった。久々にぐっすり寝た。疲れが溜まってたのかもしれない。

イザナイは、俺を呼びに来ていた。

「時間?あー大体10時頃じゃないかな?こっちの世界には、時計が必要ないからわかんないや。」イザナイは、軽くそう言った。

「そうなんだ。でも、時計が無いと色々と不便じゃないのか?」俺は、イザナイに尋ねた。


「うーん、この世界は、亡くなった人たちが住んでいる世界でやってきた時代とか違うから。それに、ここにいる人たちの時間自体は亡くなった時に止まっているし、この世界は色んな時間、時空が入り交じってるんだ。」

「入り組んだ時空か...」


「そこで君のこの世界の時間を決められたものにするためにその腕輪があるってわけ。あ、でも日辻くんには、時計必要になるかな。一応、君は現世にも行き来できるから現世の時間も把握できるようにした方がいいね。」

「現世に行き来出来るのか?!早く言ってくれよ...。二度と現世に行けないかと思ってたじゃないか!」

「でも、二度と戻れない可能性もあるけどね。」

「いくら冗談でも心臓に悪いぞ。」


イザナイの言葉にはぎくっとする。イザナイの言葉には重みがあるからだろうか。見た目からはかけ離れた年齢を感じさせる。

一体 何歳いくつなのだろうか。




とりあえず俺は一度現世の住んでいたアパートへ戻ることにした。

衣服類や、その他暮らすのに必要なものを取りに帰るためだ。

戻り方はまだ分からないので、イザナイに案内してもらった。


昨日まで暮らしていたこの街も、いざ死ぬかもしれないという状況になると全く違う景色に見える。

住んでいた家までの道のりも、景色もすべて。そこまでこの街には思い入れはないが、

長く住んでいた街だ。考えさせられるものがある。


荷物をひと通りまとめた俺は、大家さんに挨拶した。四十九日間と言えど、不審がられないようこのアパートを出ることにした。


「ありがとうございました。少し遠いところに引っ越すことにしました。」


「あら、そうなのー。頑張ってね。」と大家さんは素っ気なく言った。ご近所付き合いはしてないので、挨拶はこの程度で充分だろう。


「準備は終わったのかい?」と、イザナイが言った。

「あぁ、終わったよ。ありがとう。」


俺たちは、あの世へ帰ろうとした。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん達!」

後ろの方から声をかけられた。振り返るとそこには幼稚園年長くらいの小さな男の子が立っていた。

「何か用かな?」とイザナイが言うと、

「お兄ちゃん、ぼくが見えるの?!やったー!」と男の子は喜んだ。


なにかの冗談だろうか。どこからどう見ても、男の子は普通の人間に見える。


「なぁイザナイ、この子普通の子だよな...。」そう俺が尋ねると、

イザナイは、「ううん。」と首を振って、男の子へ歩み寄ってしゃがみこんだ。


「何かあったのかい?」と男の子に尋ねた。

イザナイには、この男の子はどう見えたのだろうか。


「・・・・・・」

沈黙が続き、男の子は無言でコクリと頷くと泣き出した。


少し経ってから男の子はぽつりぽつり語り出した。


「ぼくのなまえは、村崎海翔むらさきかいと。ぼく、ずっとひとりぼっちだったんだ。身体が弱くて、友達もできなくて...。おうちから出られなかったんだ。」


「そうなんだ...。寂しかっただろうに...。」

イザナイは、自分のことのように悲しい顔をした。


「でもね、ある日、自由に外に出られるようになったんだ!ぼくね、本当に嬉しかったの!!だから、だからぼくは、めいいっぱい走ったんだよ。今まで思いっきり走ったことなんてなかったから、ほんと楽しかった!」


「良かったな!」俺がそう言うと、

海翔はまた俯いて涙目になって言った。


「ぼく、自由に外で遊べるようになって本当に嬉しかった。だからいろんな人に話しかけたんだよ。公園にいた同い年くらいの男の子や、毎朝見かける女の子に、スーツ姿のお兄さん。初めてのおともだちができると思ってたんだ。」


俺は黙って聞いていた。


「・・・・・・でもね。だぁれもぼくの声に気が付かなかった。ずっーと、ずっーといろんな人に声をかけてたけど、一度も話すことはできなかった。」


海翔は、その時気づいた。自分がもう死んでいることに...。

そして、自分が何故ここにとどまり続けているのか分からなかった。だから、不安と孤独で押し潰れそうだった。


それを聞いた俺は言葉を失った。

『良かったな!』なんて無神経なことを言ってしまったんだろう。


俺はなんて声をかければいいのか分からなかった。


「海翔くんは、思い残しがあるのかな?」

イザナイがそう訊くと、


「.....うん。たぶん。」



「そっか...。じゃあボクたちが、海翔くんのおともだちになって、きみの思い残しをなくしてあげよう!」

イザナイは重い空気の漂う中で、それを振払うように元気良く言ってみせた。


海翔は、目をぱちくりさせ、


「ほんとに?!ほんとに?!やったー!」


海翔は表情をぱぁっと明るくさせた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る