III 決意

『存在価値(そんざいかち)とは、存在を意義のあるものとして認め、明確に数値化されない。』


 ─────明確に数値化されないもの...。そんな曖昧なことで俺が死ぬのか?

死因って病気だったり、事故だったり...。

とりあえず何かしら明確な原因があるんじゃないの?それなのに俺の死因(予定)は、“自分自身の存在価値を見つけられなかった”ということになる。



「わけわかんねぇ。存在価値?そんなの何で証明するんだよ!」




 イザナイは、混乱する俺に、「ここで落ち着いて休んで。そして、整理がついたら事務所においで。」と告げ、俺をイザナイの用意した部屋に連れた。この部屋で、四十九日間過ごすことになるらしい。

 そして部屋でひとり、俺はイザナイの言った言葉の意味を探していた。




 腕につけられたこのリングには、俺の情報も記録されているらしい。このリングによって俺は四十九日間不死身だ。死神のイザナイに手を下されなければ...。

 ある意味、この腕輪は、イザナイと俺の契約けいやくの腕輪だ。



 腕輪には、49と表示されている。多分これは期限の日までをカウントダウンしているんだろう。


この数字が0になった時に俺は死ぬ。

 もし、イザナイが俺の魂を刈るつもりならば、今すぐにでも刈っているだろう。

 でも、イザナイは、この腕輪を俺にはめた。


 ということは、イザナイは、本当に俺をたすけようと.....?



 ─────俺の本当の死因はなんだ?



 イザナイのいう“見つけなければならない存在価値”とはなんだろうか。世の中に役立つ能力のことなのだろうか。誇れる何かを持っていることなのだろうか。

 俺は、今までそんなのを考えたことがあっただろうか。




 それから俺はノートに自分の人生を振り返り、なんでもいいから書き出してみることにした。



 ─────書けない。思いつかない。


 世の中に役立つ能力?身近な人にごめんさえ言えない人間が、誰かに感謝されることができるだろうか。

 誇れるもの?面倒なことは後回しにしてきたのにあるわけがない。




 何も書けず、まっさらなノートを見て、俺がどれだけ空っぽな人間なのか思い知った。少しでも、何か持ってるだろうと思っていた自分が恥ずかしくてたまらない。ほんと、今すぐ死んでしまいたいくらいに。


「こんなの書いたって、死因が曖昧だとか、証明出来ないとか関係なく、“俺は生きていても意味がない”ということが明確になっただけじゃないか。」


それでも、イザナイは、こんな俺を助けたいと言ってくれた。理由はわからないが、こんなにどうしようもない俺を救いたいと思ってくれたんだ。死神だけど・・・。



「このままイザナイの言う通りに、四十九日間で真剣に自分と向き合えば何か変わるんじゃないかな・・・」


 イザナイは、俺にチャンスをくれたんだ。死んだも同然の俺にイザナイは、四十九日の猶予をくれたんだ。

 だから、俺は四十九日間死ぬ気で足掻いてみることにした。



 決意を固めた俺は、イザナイのいる事務所に急いだ。


──────────────────────────────────────



 事務所のドアが開き、イザナイが出た。イザナイは俺を待っていたようだ。


「.......イザナイっ、俺の命...お前の言う通り、お前に託してもいいか?

 まだ、混乱してるし、不安もあるけど...。イザナイのもとでなら、ここで、、四十九日間で自分の存在価値を見つけ出せそうな気がするんだ。」


 急いで来たので、息が上がっていたが、俺はイザナイに精一杯の決意を伝えた。


 「ほんとに?ほんとにかい?」と、イザナイは、驚いた。


「あービックリしたよー。あんなに急いで走ってきたから、今すぐ死ぬとか言い出すのかと思った。そう言っていたとしても、死ねないけどね。」


イザナイって、さらっと恐ろしいこと言うよな...。」


 ごめんごめん、とイザナイはイタズラに微笑んだ。



 イザナイとは、明日また会うする約束をして、俺は殺風景な部屋でひとり、眠りについた。

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