II 存在価値

──────混乱、パニック、パニック!

状況が把握出来なくて、頭がおかしくなりそうだ。


「まぁまぁ落ち着いて、日辻君。」


「これが、落ち着いていられるか!

─まず、なんで俺が訳の分からないところにいるんだよぉ。周りには一つ目小僧に、唐傘、小豆洗いに、一反木綿。妖怪?ここは、妖怪の世界なのか?!

かの有名な漫画の世界かっつーの!!意味わかんねぇ。しかも、幽霊っぽいやつもいるし...。てか俺死んでんの?!落ちたよね、線路に。ってか君が、俺を線路に落とした??」


混乱して、一方的に話し続ける俺に

イザナイは、呆れた顔をして言った。


「あーもう分かったよ...。今から君の気になってること全部教えてあげるから、落ち着いて。まず、お茶でも飲んでから話そうか。」


「わ、分かったよ...」

冷静に言うイザナイを前に、何も言うことが出来なくなり、仕方なく言われるがまま、お茶を飲んだ。

俺は今、イザナイの事務所という所にいる。町中で俺に騒がれたくないと言って、ここに連れてこられた。


「落ち着いたかな?では順を追って話そう。まず、自己紹介が遅れていたね。ボクは、イザナイ〖死神〗をしている者さ。」


「し、死神!?じゃあ、やっぱり俺は死んだのか!?あっ、まさかおまえ俺の命預かるとか言ってほんとは奪うつもりだったんだろ!!」


「いやいやいや、日辻君は死んでいないよ。ボクが、生きたまま君をこの世界へ連れてきたんだから。(少々手荒な真似をしてしまったけどボソッ)」


「何恐ろしいことをサラッと言ってるんだ!?

わかりやすいように説明しろ!!!」


「だから、順を追って話すって言ったじゃないか。手短に話そうと思ったけど、分かったよ...。じゃあ、ボクが、君を見つけた時から話すね。」


それからイザナイは、俺を連れてきた経緯を話し始めた。


「ボクは、今にも倒れそうな君を見つけたんだ。就活にもことごとく失敗して、自分が孤独だと思い始めた君をね。心当たりがあるだろう?」

あぁ、あの時のことだ。メールを受信したあの時、確かに俺は酷く落ち込んでた。


「しかも君には『死』という言葉がたくさん浮かんでいた。

『今死んでも誰にも気づかれないだろう。』とか、『孤独死』だとか。」


「でも、それは冗談だろ。今の自分を笑い飛ばす為の。」

 俺は、笑った。でも、イザナイは、真剣な眼差しで、

「それを思い始めたら、危険なんだ。実際軽く思ったつもりでも、その言葉は重く心を蝕んでいくんだ。

 ボクは、死神だからそんな人の魂もたくさん刈ってきた。でも、キツいんだ、結構。まだ寿命が残ってる人の魂を刈るのって。

だから、君に声をかけた。『いっそのこと、死んでしまいたい?』って。でも、君は答えなかった。『幻聴、幻覚だ』と言って。」


そうだ。俺は聞く耳を持たないようにしていた。本当に疲れていると思ったし、誰もいなかったはずのところから声がするなんてにわかに信じられなかったんだ...。


「あの時君にボクの声が聞こえたのは、君が強くを考えていたから。死神なんて、の中の存在でしかないから、君にボクを感じてもらうか、知ってもらわないと、ボクは君と話すことができない。だから、強行突破ということで、君を線路に突き落としたんだ。ほんとにすまなかったと思ってるよ...。」


────────────

───────────────────


あまりにも突飛なことを、イザナイが真面目な顔で話すのでなにも言えなかった。


イザナイが、突き落としたわけはだいたい分かった。えっ、それじゃあ、あの電車は?あれは、本物なのか?」


「あれは、あの世へのループ装置さ。」


る、ループ??そう...ち.....?


「あの電車は、触れたものをそのままあの世へ転送するシステムになっている。昔は三途の川を渡るとか色々言われてたけど、時代の流れに沿って、あの世への生き方も変化していくんだよ。でも、まだ残ってるよ、三途の川も。この世の中は、現世の人々の考え方によって生き方も、逝き方も、ましてや、あの世への渡り方も選べるようになったってこと。便利になったね!!」


よかった。よかったと、イザナイは、何故だかとても感心している様子だ。


「感心してるんじゃねぇよ!

────ってことは、俺はそのシステムによってここに転送され、しかも、まだ生きているってこと...だよな...?」


「ご名答!さすが日辻君。理解が早いね〜。じゃあ、説明はとりあえずここまで!だいたい把握出来たよね。では君に大切なものを渡そう。────凪海なみさん、例のものを持ってきて。」


「かしこまりました」

そう言って凪海なみと呼ばれる女性が持ってきたものを受け取ると、イザナイは席を立ち、

俺の腕に何かを取り付け始めた。


「よぉーし!おっけ!じゃあ、日辻君そこのボタン押してみて。」


「この、ボタンか?」

イザナイの言うボタンを押すと、


──ヒツジ ユウタ、トウロクカンリョウシマシタ。


と音声表示された。


「登録完了って何のことだ?」

俺は、イザナイに訊ねた。


「それはね、きみの命をボクが四十九日間預かることについての登録だよ。それによって、君はボクが手を下さない限りは死ねないし、事故にあっても死なない。いわゆる不死身状態だよ。」


「マジか。不死身────」


「でもね、ボクは、四十九日間しか、君の命を預かれないし、それに四十九日後、君は死んでしまうんだ...。」


四十九日後の死。


イザナイが告げたのは、突然の余命宣告のようなものだった。


「で、でも...、イザナイは、俺を助けたかったんじゃないのか?」


「そうだよ。ボクは君を助けたいと思っている。でも、その為には君自身で自分の存在価値を見つける必要があるんだ。何故そんなことをしなければならないのか、それは四十九日後に、君は────────。

ごめん、忘れて。でも...、これだけは守ってほしい。『この四十九日間で、自分を見つめ直す。』そうすれば、必ず君は自分の存在価値を見つけられるよ。」


イザナイは、そう意味深な言葉を俺に告げたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る