【番外編】

【Another story】死神として。

「ほんとに、これでよかったのかなぁー。うぅーん。これで、日辻くんを助けられるのかな?」

 ボクは静かになった事務所でうなだれた。


「珈琲を入れましょうか?」と心配そうに尋ねた凪海なみさんに、

「ありがとう。大丈夫。」と答え自室にかえった。



ボクのとった行動は、果たして正しかったのか。死神としてなら、今すぐにでも魂を刈る方がいい。でも、ボクはどうしても日辻くんのような人を放っておけなかった。


 “存在価値を見つけなければ、死んでしまう”ってあまりにも曖昧に伝えすぎだろうか。

 本当のことをありのまま伝えるべきだったのか。いくら考えたって答えは見つからない。



それに、海翔くんの思い残しをなくしてあげた日辻くんには感謝しかない。やはり、生きている人間の生気エネルギーは凄いと思った。

海翔くんは、転生しないとは言うがどうにかしないといけない。新たな心配事は出来たがとりあえず今のところは大丈夫そうだ。



ねえ、そこでボクを見ている君に突然だが死神について話しておこう。何故君の存在が分かるかって??それはボクの死神の力、と云うよりはボク特有の能力...かな。君にもボクを『死神』として認知してほしい。でないとボクは、君とお話できないからさ。よろしくね。



────死神には、不思議な力がある。

今回のように人間の姿を借りることもできるし、『名前』『寿命』『死因』を見ることも出来る。それによって、いつ魂をあの世へ送るのかを決める。

日辻くんのこともこの力を使って知った。その辺の話はまた後で。



死神の仕事として一番重要なのが死後のアフターケアだ。海翔くんのように転生を促すのもボクらの仕事でもある。


生きている者の数より、死んだ者の数の方が多いため、どこに住むか、また転生する日程など諸々を死神が請け負う。

しかも、なかなか成仏しない相手だと手こずって作業が進まない。その為最近は死神不足だ。朝から晩まで働き詰めの毎日、まさにブラック企業。

死後に就く職として死神はおすすめできないね。ボクも好きで死神を始めた理由ワケじゃない。


生きている限り、何度でも人生を変えられる。運命とかいうロマンチックなことなど存在しない。出会いも別れも、その人が一回一回の選択をしてきたものだ。分岐点はどこにでもある。いつでも引き返すことは出来るし、どの道にでも行ける。自ら命を絶たない限り、何度でも。

ボクには、それがもうできないだけだ。そのループから外れたんだ。



「いつ見たってボクの顔は醜いな。」


 目の前の鏡に映る死神としての自分の姿。

 鎌の形をした醜い痣の残る頬。普段は見えないように隠しているが鏡には映ってしまう。

これは、ボクが死神になった時にできたもの。

それにこの痣は、ボクがもう二度と元に戻ることができないことを表している。



「よお。最近調子はどうだ?」

振り返ると、白スーツに杖をつく男がいた。彼はエルマ。彼は天使でボクと正反対の存在である。


「そこそこだよ。」と素っ気なく答えた。


「ふーん。お前さ、生きた人間そのまま連れてきたんだって?」エルマはニヤッと笑い訊いてきた。


「だからってなんだよ。キミに関係ないだろ。ただ見捨てられなかったんだよ...。」


「へえ。まあ、そんなことはどうでもいい。今後の行動にはくれぐれも気をつけてくれよ。お前の立場、どうなっても知らねぇからな。」

エルマが、顔を覗き込んできた。その目が赤く光る。首筋に汗が滲む。


「あぁ。分かってるさ。」


苦し紛れに答えるボクに、「忠告だ。今度会う時は、覚悟しとけよ。」と言い捨てたエルマは姿を消した。


バタっと座り込む。


死神の業界だけでなく、生死に直接的に影響を加えるボクらの仕事は問題を多く抱える。

そしてまた、彼のような天使と死神の間には昔から大きな歪がある。お互いを牽制し合う関係を続けていた。


ボクは、そんなこと関係なく天使と良い関係を築いていきたいのだが、上役の死神に目をつけられ、非常に立場が弱い。


「どうしたらいいんだよ...!!!!!」

ボクの叫びは虚空に消えていった。



──コンコン。


イザナイ、今大丈夫か?」

日辻くんがやってきた。

「うん。大丈夫だよ。」と、平然を装う。


とにかく今は日辻くんを、救うことが第一に考えよう。死神の問題は彼には関係ない。



「今から向かうね。」

ボクは声のする方へと向かおう。



ごめんね、話の途中で。また、ボクの話を聞いてくれるかい?

君がボクらのことをずっと見守っていてくれることを願っているよ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る