Ⅵ 互いに認めて
レイトをハヤセに会わせたいが、このままではレイトを連れていくことが出来ない。レイトはまだ、この世界の住人であるからだ。
──俺はまだ死んでない。それはあの電車、あの世へのループ装置になっているあの時の電車に轢かれたからだ。もし、未来でも電車が通っているのだとしたら。
「博士、スーパーに速い乗り物作ってくれないか?」
「お易い御用さ!」
博士は光の速さで作業を進めた。
「ジャジャジャジャーン」
え、まじで……?
博士が作り出したのは、あの電車、あの世へのループ装置の電車だった。
「どうして作れたの!?」
「だって、あれ作ったの我輩だもん。」
驚きのあまり、開いた口が塞がらない。
「三途の川じゃ間に合わなくなったって問題になってな。近頃、日本で亡くなった方の中には海の外から来た人だっているだろ?日本のあの世は日本人向けだったからな。昔は少なかったけど、時代が変わり、多種多様な人間が来るようになった。すると信じるものが違ったりすると三途の川を渡れないこともあった。でも、電車ならどんな人だって乗れるだろ?」
あの世のシステムも時代に合わせて変わってきてるのか。死神が日本のあの世で働くのも、日本が様々な信仰を受け入れ、共存しているからなのかもしれない。
「さあ、乗れ。今すぐ連れていこう。日辻、レイトを背負ってくれ。」
電車の揺れは激しく、吐きそうになる。
ゴーグルを付けハンドルを握る博士は、愉快に笑っている。不気味なくらいだ。
レイトはロボットだから勿論酔わない。
まだ、目を覚まさない。覚ましてはいけない、今はまだ。起きるのは、ハヤセさんの腕の中でなければ……。
────────────────────────────────
──体温を検知しました。
「……イト。レイト、レイト……?」
目を覚ましたレイトの瞳に映る色白の少女。
レイトは声に反応し、少女の頬に触れる。少女の涙がレイトの腕を伝う。
「ハヤセ?何故……」
「起きた?また壊れたの?もう、レイトは僕がいなきゃダメなんだから。」
ハヤセはレイトをきつく抱きしめる。レイトは優しくハヤセを壊さないように抱き返す。
「ねえ、ハヤセ。お願いだから、ワタシの傍から離れないで。ハヤセがいないとワタシは──」
「それは出来ないよ。僕は君の傍に居られないの。」
「なんで……」
「よく聞いてね。レイト。
君も知ってるだろ?人間には寿命がある。僕も同様に、命の期限が切れたから死んだんだ。生き返ることは無理なんだ。」
「でも、ハヤセと同じ時代の人間は寿命が長いじゃないか。なんでハヤセだけ早いの?」
レイトの問いにハヤセは得意げな表情を浮かべる。
「僕も欠陥品なんだ」
涙は出ないはずのレイトは涙を流して泣いていた。肩を震わせまるで人間のように。
「早瀬世良くん、そろそろ転生の時間だよ」
「ハヤセ……」
レイトがハヤセの袖を引っ張り、手を掴んで引き止める。
「転生先は21世紀なんだ。ロボット開発の発展が凄い時代さ。僕はその時代に生まれ変わって、未来を変えるんだ。」
「みらい……?」
「レイトが生きやすい世界にするんだ。」
「生きやすい世界……」
「レイトのようなロボットが人間と共存する世界。お互いを信頼しあって支え合って、互いの違いも、ほかと違う自分も認められる世界にするんだ。そういう世界を創りあげたら迎えに来るから」
「やっぱり、ハヤセはすごい。ワタシは未来のことなんて考えられなかった。ハヤセがいなくなって、ずっと悲しみだけが募って壊れてた。ハヤセに忘れられてしまうんじゃないかと怖かった。」
──情報を分析します
「ハヤセ、ありがと。待ってるね。また、ワタシを創り出して。」
レイトは掴んだ手を離した。
「ハヤセ。好きだよ」
「うん。僕もレイトのこと大好き」
見送るレイトの瞳も決意で満ちていた。
「レイト。我輩の研究所で働くか?」
博士が提案した。
「いずれ、ハヤセが迎えに来た時足でまといになるといかんだろう。我輩の元で修行したらよい。」
「でも、ワタシは日辻サマに危害を加えてしまった……。怪我を負わせてしまった。ごめんなさい。」
頭を下げたレイトに俺は「大丈夫だよ」と言った。俺はまだ死なないから。いや、死ねないから。
まだ生きる意味を見つけてないから。
「あと、『サマ』付け禁止な!俺らも対等でいこう。」
「ありがとう、ヒツジ。ヨロシクな」
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レイトは博士の助手になった。自分でも発明に取り組んでる。この世界にも馴染んで、受け入れられた。これも彼自身が、人の気持ちに寄り添う努力をして、情報を分析し、生かしているおかげだ。ロボットのレイトにしかできないこと。レイトは自分の存在価値をここで見つけた。
自分にしかできないこと。俺ができること。出来なかったこと。したいこと。
──カチッ
腕輪の数がまた一つ減った。
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