Ⅲ 伝えたい本当の思い
「なあ、
海翔の母さんには、海翔の姿は見ることはできないし、
「海翔くんの思いを、日辻くんが伝えるってのはどうかな!?」
「お、オレ?!」
...でも、生きている俺にしかできない。やるしかない。でも、初対面の人と話すのは少し苦手だなー。初対面で
そうこうしている内に、海翔の家に着いた。
表札には『村崎 智、綾子、海翔』と書いてあった。智さんは海翔の父親で、綾子さんは海翔の母親だろう。
──ピンポーン♪
ガチャ。「はい?どちら様でしょうか…?」
家の中から少しやつれた女性が出てきた。
「いきなりお訪ねしてすみません。村崎さんのお宅でしょうか?」
「はい。そうですが...。」
と応えた女性の目元は、赤く腫れていた。
「俺、海翔の友達です。」
疑われるのは承知で言った。
「友達?────どうして海翔のことを知ってるの!?」
女性の表情は明らかに強ばった。
これからどう言えばいいのだろう。不審者だと思われて、110番にでも掛けられてしまうのだろう。
──カツカツ。後ろの方から足音がした。
「こんにちは。村崎さん。今日は海翔くんの四十九回忌ですね。遅れてきてしまい申し訳ございません。」
「先生。お久しぶりです。わざわざご足労ありがとうございます。」
海翔の母さんの綾子さんが挨拶をしたので振り返ると黒いスーツを身にまとった小柄な男が立っていた。その男は海翔の主治医だそうだ。
「そちらの方は?」とその男がいきなり訊いてきたので、慌てて
「えっえーと、俺は海翔の友達の日辻裕太と申します。どうか俺の話を聞いてくれませんか?」
俺は助けを乞うように言った。
「まだ、そんなこと言うんですか!?」と涙目になりながら言う綾子さんにその男は、
「まあまあ村崎さん、落ち着いてください。彼も事情があって訪ねてきたんでしょう。少しお話を伺ってみたらどうですか?」と促すと、少し間を空けて
「────今日はあの子の命日ですから、とりあえず、お仏壇に手を合わせてくださいますか?その後でお話は伺います。」
綾子さんは俺を家へ招いた。
「良かったね、日辻くん。」とその男にすれ違い際にウインクをされたので、一瞬ゾワッとした。咄嗟に後ろを振り向くと、そこには海翔しかいなかった。
まさか.....?
今日は四十九回忌だったらしい。
中に案内され、仏壇の前で手を合わせた。
仏壇には、海翔の写真が飾ってあった。海翔の赤ん坊の頃のものや、海翔と母さんが笑顔で写るものなど、どれもとても幸せそうな家庭の様子だ。「羨ましいな...。」心の中でそう呟く。
「どうぞ、こちらにお座りください。」
「は、はい。失礼致します。」
言われた通りに席に座った。
「あ、あの。俺、今朝海翔に出会ったばかりなんですけど…。海翔、ずっと亡くなってからもひとりぼっちだったようで────」
それから俺は海翔と会ってからの出来事を全部話した。綾子さんは、黙って聞いていた。
「──それで、海翔が海に行きたいと言い出したんです。」
「海へ?」
「はい。恐らく、あの写真に写っている海だと思うのですが、そこで海翔は、言っていました。自分の名前は大きくて広い海に大きく羽ばたいてほしいって思って、ママが付けてくれた。だから、この名前が大好きなんだって...。」
「・・・・・・」
綾子さんの頬には、泪が伝っていた。
「ほんとに、本当に海翔が視えるんですか...?」
綾子さんが、俺に訊いた。疑っている様子は無かった。
「私、あの子に謝りたいんです。ずっとあの子には辛い思いばかりさせてしまって。長くて大変な治療でも、大丈夫だって、笑顔でいたけど、ずっと毎晩泣いていたのに気づいていた。でも、私はなんて声をかけたらいいのか分からなくて...。」
嗚咽が、部屋中に響き渡る。
「────違う!!僕ママ大好きだよ!、ねぇ、ゆうた兄ちゃん!僕ね、ママにありがとうを言いたい。僕をママに視えるようにできないかな?これが最期のお願い!」
俺の袖を引っ張り懇願する海翔に、どうにかしてあげたいと思うがどうしたらいいの分からない。
「日辻くん。君の
綾子さんに、バレていない。死神にはそういう能力が有るのだろう。
「分けるって言ったってどうするんだ?」
「海翔の手を握って、強く自分の核をイメージするんだ。そこから溢れ出る
「
「一時的に見えるようにするだけの
「僕が付いているから安心して」と言う
「わかった。海翔、母さんに思い伝えような!」
俺は海翔の右手を握りしめた。小さな子供の手。こんなに小さな身体でいろんなものを背負ってきたんだ。少しでもその背負っているものを卸す手助けが出来たなら...。
俺は目を瞑り、自分の核をイメージした。心臓の激しく波打つ音、血の流れ、胸の奥底が熱くなる。核から溢れる
「日辻くん、大丈夫かい!?」
「海翔は...?成功...したか?」朦朧とした意識の中尋ねた。
「あ...あぁ!」
声のする方へ視線を落とすと、そこには光り輝く海翔の姿があった。
「────か、海翔?」
綾子さんが、海翔に走り寄り、肩に触れ、頬に触れ、抱き締めてその存在を確かめた。
「・・・ママ!!ママァーー!」海翔の目にも泪がうかんでいた。
「ごめんね...。ごめんね海翔。辛い思いばかりさせてしまったね。ママが海翔を丈夫な身体で産んであげられなかったから。」
綾子さんは、海翔に謝った。何度も何度も。
それを見て海翔は、首を横に振った。
「ママ、僕ねママに言えなかったことがあるんだ。僕、こんなに弱い身体だったけど、嫌なんて思ったことなんて無いんだよ。だってその分ママがぎゅっと抱いてくれたし、一緒に遊んでくれていたもんね。僕とーっても幸せだった!たぶん、世界中で一番シアワセ者だと思うし、僕が世界でいちばんママのことが大好きだよ!!」
その言葉を聞いた綾子さんは、
「ありがとう。ありがとう。」と何度も何度も繰り返した。
海翔の光が少し暗くなってきた。
「そろそろ、
「うーん、ちょっと待ってて。」と、海翔は少し間を空けて言葉を続けた。
「僕、ママのところに生まれてきて良かった!だから、もしも僕の弟や、妹ができたら伝えてね、『君の生まれてきた場所は、世界中で一番シアワセなところだって。それはお兄ちゃんがそれをほしょうするからって!』だから、ママも元気出して、僕の兄弟を僕以上にシアワセにしてあげてね!僕が最期に伝えたかったことはそれだけ!」そう言うと海翔は綾子さんに抱きついた。
「海翔、ママもあなたのママになれて良かった。ママも世界中で一番のシアワセなママだよ。」と海翔を抱き締め返した。その瞬間ぱあっと海翔の光が消えた。
その光は、とても綺麗だった。
「良かった。果たせたんだ......な...。」
意識はそこで途絶えた。
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