【Third week】

AIロボットの悩み

Ⅰ 人間は神様?

「え!?イザナイが死神協会に呼び出された!?」

「・・・はい、そうなんです。呼び出された理由はイザナイさんは教えてくださりませんでした。どうしたんでしょうか?何か聞いていませんか?」

「いえ、なにも。」

 事務所で一番にイザナイに近い凪海なみさんにも伝えてないとは。


「今日、仕事ってありますか?」

「いえ。本日はイザナイさんもいらっしゃいませんし、日辻さんも近頃はお忙しかったでしょうからお休みなさってください」


「今日は私もお休みます」となみさんは帰る支度を始めた。


 あの世というのは、意外にも居心地が良かった。イザナイのおかげである。

 前に博士が「天気は大神様のお気持ちで変わっている」と言っていたのを思い出した。今日はとても神様の機嫌がいいのだろう。


「おう、日辻。今日は暇しているのかね?」

「ミケット博士!はい。イザナイが、死神協会に呼ばれたので、今日は休みなんです。」


 相変わらず年不相応な格好で登場した博士はダウジング棒のようなものを手にしていた。

「博士、右手に持ったものは何ですか?」

「この前、女子高生を君たちが救っていただろう。それを見てここに迷い込んでしまった者たちの助け舟を出せないかと思ってな。

 迷い込んだ全ての者を確認することは難しい。だから、これで検知してるんだよ。」


 宝ではなく迷える魂を見つけ出すダウジング棒。博士の発想は面白い。発明もいつも驚かされる。


「我輩、少し先の未来のほうに行こうと思ってな」

「未来ですか?」

「ああ、そうだ。実は我輩も未だ未来の方には行ったことは無くてな。それに技術がさらに進歩した世界では今よりも迷える魂が多いのかもしれん。」


 科学技術がさらに進歩した世界は、今の世界では無いような悩みや迷いがあるのだろう。

 AIに仕事が取られて失業してしまうかもしれないというのが現代の悩みだが、未来はその先のことだ。興味本意だが知りたくなった。


「博士について行ってもいいですか?」

「日辻も行きたいか。ならば連れて行ってやっても構わない。だが君はまだ生ける者だからな。君の未来に影響を及ぼすことのないように、君のいない未来に行こう。」


 自分のいない未来。それは、半年後なのか100年後なのか分からなかったがそんな未来に行くことにとても気持ちが高揚する。俺は所謂いわゆるSFファンタジー系の物語が好きだ。プログラムの異常で突然変異したロボットと人間の戦争のような洋画は何度も見た。


「では、参ろう。」


 俺の現世への道のりとは反対方向に続く道をまっすぐ進むとそこにたどり着いた。

 映画などでよくある時空の歪みを感じることは無くすんなりとついた。


「さあ、着いたぞ!ここが未来さ。」


 そこは無機質なもので溢れていた。

 せっせと働くロボット。『the・robot』と言えるようなものもあれば、人間そっくりのものもあった。しかし、人間は見当たらない。


「この世界には人間は存在しないんですかね?」


「いえ。この世界にも人間はいますよ。あなた方のいらっしゃったこの地域は特別ロボット区域と呼ばれ、ロボットしかおりません。」


 俺の質問に応えたのは博士ではなく、ブロンズ色の髪を持つ中性的な顔立ちをした人だった。


「あの、あなたは?」

「ワタシは、レイトと申します。ロボットです。性別はありません。あなた方はこの世界の人間ではございませんよね?」

「どうしてそれを?」

「あなたは昔の人間の姿をしている。その姿は古代人間のものです。約100年ほど昔の方でしょうね。人間について調べていた時ある文献でお読みしました。」

 100年も未来に来ていたのか。

「ほほう。なかなか興味深い...。我輩は研究をしているものでね、ちょいと君のことが気になってきたよ」

 博士はレイトをジロジロと見た。

「なんと、研究者のお方でしたか。お会いできて光栄で御座います。」

「レイトさんは彼のことご存知なんですか?」

「いえ、只今存じ上げました。しかし昔の研究者たちの皆様のおかげでワタシのようなロボットは存在しています。言わばロボットにとって研究者は人間の言う『神様』のような存在なのです。」


「そうか、我輩は君らにとって神様かあ。」

 博士は胸を張り高らかに笑った。


 人間とロボットが隔離された世界。ということは今俺たちはそのロボット側の世界にいるという事だ。


「ところで君は何かお悩みかね?」

 博士のダウジング棒はレイトに向いていた。

「え、ワタシ...ですか?うーん。初めてお会いした方々に話すような話ではございません。ご心配ありがとうございます。」

 日本人離れしたフォルムなのに流暢な日本語だ。やはりそのようにプログラミングされているのだろうか。

「その棒は悩める者を見つける装置のようですね?」

 レイトは的確にその装置の説明をした。

「どうしてそれが分かるのですか?」と尋ねると「それはワタシがロボットだからですよ」と意味あり気な微笑みを返した。

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