Ⅱ はぐれモノ

「人間が暮らすのは現在地より2~3個大陸を超えた先です。ワタシたちロボットはそこへ立ち入る事が禁じられてます」


人間とロボットは完全に隔離され、

ロボットがロボットを管理、制御する。

ロボットによって絶えることなく生産された道具、食糧などを人間が消費する合理的な社会。


「どうしますか、博士?人間の世界に行きますか?」

「否。ここに残ろう。興味を唆られる物たちばかりだ。勿論君にもね」

ミケット博士はレイトにウィンクした。性別のないレイトを口説き落とそうとしているのだろうか。レイトは「分析します。ウィンクとは──」と解析を始めた。俺は慌ててそれを止めた。


無機質なもので溢れたこの世界は、とても寂しく見えた。プログラミングされた情報だけで構成された空間。


「ご、ごめんなさいっ」

きょろきょろして歩いていると働くロボットとぶつかった。倒れたとロボットは立ち上がって何事も無かったように歩き出した。ぶつかったことも、倒れたことも、何も起きなかった様に平然と。

「日辻サマ、大丈夫ですか?気にしなくていいですよ。ワタシ以外のロボットたちは皆このような方々ばかりですので」

レイトはポケットから落ちたスマホを拾いながら言った。

「これ、スマホですか!?」

レイトの目がキラキラしたように見えた。

この世界ではスマホは使えないが、博士がくれたミケットWiFiのおかげで使える。

「ちゃんと持ち歩いているんだね」

「はい。やっぱりスマホが使えないと不安で・・・」

レイトはスマホをまじまじと見つめていた。

「使ったこと、ないんですか?」

「はい、ワタシたちは内蔵されたデータ送信機でやり取りしますので。」

データをやり取り・・・・・・

俺たちと会話するように他のロボットとは

会話が出来ないんだ。なら、どうしてレイトはそれが出来るのだろうか。

「使ってみます?」と言うと「良いんですか?」とレイトの目はさらにキラキラと輝いて見えた。

「これは2018年代に発売された型のアイフォンですね。初めて見ました!今まで文献の中でしか見たことなかったので。ワタシの御先祖様・・・」

レイトは興奮したように語りだした。

「あの、『ガラパゴスケータイ』というのは持っていないんですか?」

「あー・・・、ガラケーはないです。すみません」

ガラケーは小学生のころ親が使っていたが、俺は触ったことぐらいしかない。

「君は昔の技術について興味を持っているようだが、何か理由わけがあるのかい?」

レイトは声を鎮めて言った。

「ワタシは話せる相手もいないので、ただゆっくり時間だけが流れているように感じます。いわゆるヒマなんです。ロボットが感じるとかいうのも奇妙な話かも知れませんが・・・。

仕事は他ののロボットがプログラムに従って行なっているもので。ワタシのように感情を持ってしまったはぐれモノはこの世界では必要ないんですよ。」

レイトは寂しそうに見えた。

いや、ほんとうに寂しいのだろう。

ロボットではあるが、あるべき姿のロボットではないレイトは居場所がない。

「レイトさんは感情を持っている分、他のロボットよりも優秀なんじゃないんですか?」

「優秀?.....だったらいいんでしょうけどね。日辻サマは、皆が同じ方向に向かって進んでいるのに一人だけ別の方向を向いていたらどう思いますか?」

レイトの問いに何も言えなかった。

「いずれワタシもあそこへ行くのでしょうね」

レイトの指をさした方は壊れたロボットが集められた廃棄所。油の垂れた物やコードが出ている物。それらは分解されて新しい物に生まれ変わるのだ。

「どうせ、必要ない存在ならば、人間のように感情の赴くままに生きてみようと思ったんです」

ロボットの造られた歴史と人間の感情を調べて、レイトは自分を探していたのではないだろうか。

人間にも、ロボットにもなりきれない自分を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る