Ⅲ レイトの話。
なぜだか泣きたくなる。涙腺は無いし、涙用の貯水タンクも装備されてないから涙は流れない。
これは“感情”というものなのだろうか。
この感情がワタシのものなのか、そうでないのか分からない。元々プログラミングされたもの?
内側から溢れ出すこれは一体・・・
悲しみでも憎しみでも、怒りでもないこの感情の名前。どこにも刻まれていない情報。
身体に流れるのは血液ではなく電流。なのに考察するのは情報ではなく感情。
悶々としてイライラして、寂しくて。
これはロボットとしてのものでは無いと分かった。抱いてはいけないものだと知った。
仲間はせっせとプログラム通りに働く。
それが普通なんだ。
ついこの前まで、フツウという概念さえ無かったワタシは徐々に輪から逸れる“恐怖”を感じた。
昼夜関係なく繰り返される同じ仕事からワタシは逃げ出した。ワタシは欠陥品だ。
いずれはロボットの墓場へ連れてかれる。
元々プログラミングされていた情報から指でなぞるように逃げ場を探す。
『人間の住む大陸』を知ったのもこの時。
そこに行けば何か分かるかもしれない。
ロボットの島と人間の大陸の間には大きな『ウミ』と呼ばれるものがあった。
ワタシ本体が水に耐性があるのか分析した。
“水への耐性度76%”
故障する恐れもあるが、
渡らない理由にはならない。
プスプスと不安な音がしたが気にせずに泳いだ。
辿り着いたところは見たことの無いもので溢れていた。
目に写されたものを分析して回る。
“これは床です”
あー、床。ゆかって言うんだ。
感情を持つということは、自分が求める知識を自ら集められるということなのだ。
バチバチと音が鳴った。
耐性の弱い部品に水が入ってしまった。
これ以上探索できない。
元の島に戻れるのかもわからない。
だんだんと動きも鈍くなっていく。
ここまで来たのに・・・・・・
「大丈夫ですか?」
“これは人間です”
「ニン・・・ゲン・・・?」
「そう、私は人間よ。貴方はロボットよね。ここにいたら危険だわ。私に着いておいで」
その連れてかれたのは『研究室』と呼ばれる所。その人間はワタシを手早く修理した。
「よし!これで大丈夫だよ!」
「アリがと...ウ?」
基本言語として登録されていた言葉の中から引き出した。
「ちゃんとお礼言えるのね。」
輝くブロンズ色の髪を持つ人間は『ハヤセ』と名乗った。
「ハヤセの髪・・・・・・キレイ」
「でしょ。自慢なの。あっ、名前なんて言うの?」
ハヤセに名を訊かれたが名前なんて持っていない。
「・・・機体番号M-010」
「010...ぜろ、いち、ぜろ・・・」
ハヤセ何かブツブツと考え出した。
やっぱり名前無いの可笑しいのかな
れい、じゅう・・・。
「そうだっ。れいとだよ、レイト!!」
“ワタシはレイトを取得しました”
ハヤセはワタシに『レイト』を与えた。
この時からM-010からレイトになった。
ハヤセはロボットが人間から隔離された場所にいる理由を教えてくれた。
人間はロボットの並外れた知性と能力を恐れた。なんでも効率的に済ますことの出来るロボット、AIがいずれ人間の脅威になると考えたからだ。そして、人間はロボットだけの島を作ったという。そこに集められたロボット達は人間の大陸に行くことが出来ない。ロボットが作った甘い蜜を吸いながら人間は優雅に暮らしているのだ。
感情を持ってしまったワタシ、AIロボットがこの大陸にいることがバレると処分されるだろうとハヤセは言った。
「レイト、私の髪の色に染めてみる?」
「ドウして?」
ハヤセはワタシの髪の色が嫌いなのだろうか。銀色でロボットそのもののような色が。
「私と同じ色にして欲しいって言うのはね。私がレイトのことを気に入ったから。人は、何かを同じにすることを『オソロイ』にするって言うの。友達の証。」
出会ったばかりのワタシを『友達』といった。
“ワタシはハヤセの『友達』になりました”
“『友達』とは互いに心を許し合い、対等な関係の人物を表します”
対等。ワタシにとってその言葉はとても特別な響きに聞えた。
「髪、オソロイにしたい!」
ワタシは初めて『欲求』を抱いた。
抱く感情のバリエーションが増えた。
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