Ⅳ 蒼木寿梨のはなし。

—————新年度、春。


「寿梨~、早くいこー!!」

「はいはーい!!」


始業式の今日はクラス発表。

「寿梨...離れちゃったね。。。」

「えーマジで⁉サイアクーー」

「でも、休み時間とか遊びに来るからね!!」

「さやかぁ、絶対だからね!」

「当たり前じゃん!」

たとえ離れてもいつメンと過ごせると思っていた。


教室に入り、勇気を出して「おはよ・・・」と言ってみた。

返事はかえってこない。クラスでは既にグループができ始めて騒がしい。


完璧に出遅れた感じだ。


「ねぇ、何の話してるの?」

向き合って話していた二人組に話しかけたみた。

「えっと、好きなアニメとか漫画の話だよ。ほら、このキーホルダーのキャラとか…」

「へ、へぇー。」

若干棒読みだったことに気づかれたのかもしれない。

「あ、ごめんね。全然興味なかったよね。」

そう言ってその子たちはどこかに行ってしまった。


でも、私は大丈夫。去年も結構いい感じのグループにいたんだから。もし、何かあってもさやかたちのところに行けばいいし。

とは言え、クラスでボッチなのは体裁が悪い。誰か探そう。

辺りを見渡すと教室の隅に一人で本を読んでいる子がいた。丁度いい。話しかけてみよう。


「おもしろい?その本。」

「えっ…?」

いきなり話しかけられて戸惑っているようだったが、「うん。おもしろいよ。好きな作家さんなんだ。」と少し照れくさそうに答えた。その子の名前は『仲里雪鈴』。雪に鈴で「ゆり」って珍しいなと思った。

休み時間はゆりと過ごした。ゆりも前のクラスのメンバーと分かれてしまったらしく「話しかけてくれてうれしかった」と言った。


始業式後のホームルームが終わり「寿梨、一緒に帰ろー」とさやかが呼んだ。

「うん、すぐ行くー。ちょっと待ってて。ゆりごめん、また今度ね。」

ゆりが声をかけてきたタイミングがさやかと被ってしまったので断ると、その様子を見たさやかが

「おーっと?さっそく友達出来たんじゃない。今日は一緒に帰ったら?折角話せた子を逃がすともったいないよ。また明日誘うね!」と耳打ちをして他のイツメンと帰っていった。

「一緒に帰ろっか」

「うん、ありがとう。」

ゆりと色んな話をした。それなりに楽しかった。

その途中、カフェでお茶しているさやかたちを見かけた。正直に言うとそっちのほうに交じりたかった。


「でも、仕方ないよね。ゆりもこうして仲良くしてくれているわけだし。明日はさやかたちと帰れるからね。」と自分に言い聞かせた。


しかし、その明日は来なかった。

さやかたちは、私に気を使って誘えなかったんだと思っていた。

でもすぐに、それも思い違いであること知った。


さやかやほかの子もSNSで「寿梨とクラス離れてよかった」などといった書き込みをしていた。また、グループチャットから私だけ外されていた。

「この前まで普通に仲良く話してたじゃん。なんでよ...!!!」

その夜は寝れなかった。


次の日もゆりは変わらず私に話しかけてくれた。

それは、私にとって救いだった。


ゆりも前のクラスのイツメンと離れたと言っていたが、私と違って相変わらずずっと仲良さそうにしてる。ゆりがそのメンバーで帰るときは、大抵私は一人で帰った。私がさやかたちにハブられていると知らないゆりは、今でもさやかたちと帰っていると思っている。

かといって、私から言おうともしなかったのだが…。


ゆりには言えないけど、そんなゆりがずっと羨ましいと思っている。

たまにゆりの隣にいるのが辛い。


何も悪くないゆりを憎いと思ってしまった。





カタカタカタ・・・


aok ゆりウザいんだけどw


ネットの掲示板に書き込んだ。

ちょっとした気晴らし。すぐに消せば大丈夫。少し愚痴るだけ。



kyu なんかあったん?



反応してくれる人がいた。

知らない人だから少しぐらい話してもいいよね。


aok クラスでボッチだったから声掛けたらずっとくっついてくるんだけど、マジでキモい。


fjm それめんどい奴w

dav どんなやつー?写真くれーw


また知らない人。誰かが私を気にしてくれている。それがなぜか嬉しかった。

言われるがまま、ゆりと一緒に撮った写真をあげた。

“すぐに削除すればいい”

その時はそんな浅はかな考えだった。

私、サイテーだな。ただの嫉妬なのに。

それからあとも掲示板に愚痴った。やめられなかった。

心配してくれた人もいた。一緒に悪口を言う人もいた。

たまに同じ学校だと言う人もいた。

注意してきた人もいた。注意する人を非難する人もいた。

『私に心配してくれる人がいる。ひとりじゃない。ここにいる人たちはみんな私の味方だ』と思ったが、薄々ここにいる人たちは面白がってるだけだと気づいていた。でも、ここから離れたら私は...?

──ピコン

匿名からのメッセージ。


aokさん、私はずっとあなたの味方です。あなたは何も悪くない。ここがあなたの居場所ですよ。




ここが、私の居場所・・・?


今まで同じようなメッセージはたくさん来ていた。でも、このメッセージが届いてから何故か自分の中にあった後ろめたさが消えた。




────────────────

────────




「ねえ、見た?あの掲示板に書かれてたのって、あの子だよね?」

「あー見た見た!!書かれてたこと本当なのかな!?」


私が書き込んだゆりのことが、学校でも広まり始めた。

ウワサには尾鰭がつくものだ。

どんどん話は大きくなり本人に伝わる。

興味本位で関わる人が多い。ゆりと関わったことがない人たちが主に広めていっていた。単なる暇つぶしのようなものだ。


ウワサを知った時のゆりの表情は今でも忘れられない。一番近くで見ていた。


「寿梨...、わたし、、、どうしたらいい...?もう、学校も行きたくないよっっ。」


ゆりは何度か私に相談してきた。なんにも言ってあげることができない。



────ごめん。ゆり...。



心の中で何度もそう呟く。しかし、何度呟いたって許されないことは分かっていた。

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