良く出来た作品。奥深いテーマを扱っているものの、最後の捻りが軽妙な作品に仕上げています。
理想の桃源郷に住まうと、作者が描いている通り、解脱したがる人間も続出するだろうな、と首肯してしまいます。あんな形態で…⁈ とは思うけど。それだけ作者の想像力は逞しいと言う事です。
また、ここまで進歩した世界なら、たとえ生身の人間であっても、判定儀式の際には思考を運営システムにアップロードする事も可能だろう。犯罪性向のある人間や独裁者になり得る人間を、どう料理するのか。作者の見解を読んでみたい。(まぁ、管理の行き届いた世界で独裁者は存在しないだろうけど、要は人非人に対する作者なりの評価を知りたかったな)
話は場外乱闘の域に逸れますが、老い先が短くなると、「人間として生まれたからには…」と頻繁に考えるようになりました。果たして、「人間だ」と胸を張れる人生を送ってきたものやら。
人とは何か。その定義は?
単純ながら、そう簡単には答えられないこの命題に、少年ユーリが挑みます。
正統派のSFで、観念的なテーマを扱いながら、ヒネリの効いた展開はエンターテイメントとしても抜群です。
全六人の判定には、読者も必ず自分の答えを出そうと考えをめぐらせてしまうでしょう。
徐々に難易度が上がる質問が面白く、またヒヤリとした感触を与えてくれます。
ほぼ全編が会話で構成されており、1万4千字弱の短編ではあるものの、大胆な思考実験は読み応えも充分です。
ただの会話が不穏なサスペンスに変貌していく、その過程こそが、何よりの醍醐味でした。
さあ、皆さんも主人公と一緒に答えを探してみましょう!