イタドリ


「昔はこれがおやつやったんやって。じいじに教えてもらったんよ」


 散歩しながら子どもたちに教えたのは何年前だったかな。葉のふちが少し赤く、茎には赤い斑点があるのはイタドリ。ちょっと毒々しい感じの見た目だ。

 中が空洞になっていて、折るときにポキッっといい音がする。


「こうやって皮をめくってしがむんや」


 その毒々しい皮に爪をたててめくると、面白いようにす~っと剥ける。そして中からはきれいな黄緑色があらわれる。

 それをかぶりと齧ると、すっぱにが~いなんとも言えない味がする。食べるというよりしがんで最後にカスを吐き出す感じ。


「すっぱ~い。おいし~い」


 私にとってはあんまり美味しいものではないけれど、子どもたちは気に入ったようで、がしがしとしがむ。

 どこにでも生えている雑草なので、学校帰りにしがみながら帰ってくる……一体いつの時代の子どもたちなんだ。

 



 ある夏の日、次女はそのいたどりでジュースを作って罰ゲームに使おうと考えたそうだ。普段からしがんでいるとはいえ、多分ジュースにしたら酸っぱさが際立って、飲めないモノが出来るだろうと。ワルい奴だ。


 その夕方私が帰宅すると、チビたちが走り寄ってきて衝撃の事実を報告してくれたのだ。


「あのねー、今日お客さん来たよ~」

「それでね、お姉ちゃんがいたどりでジュースを作ったの、飲ませてあげたん!」

「なにそれ? イタドリジュース?」


 イタドリを美味しいものと思っていない私にとって、それで作ったジュースなんてとんでもないものとしか思えない。それをお客さんに? ってか、お客さんって誰? そんなの飲まされたかわいそうな人は。


「だれが来たって?」

「お寺のおばあちゃん」

「えー! そんなわけわからんもの出さんといてよ~!」

「美味しいっていってたよ」


 にこにこ報告してくれるけど、内心私は冷や汗もの。そんなあやしげなもの、よく飲んでくれたもんだ。


 次女に聞くと、さすがに全く飲めないほどひどいのは可愛そうなので(ワルい奴になりきれないのが可愛いところ)、砂糖と豆乳を入れてミキサーにかけると、思ってもみない美味しいジュースが出来てしまったようだ。


「でもめっちゃ繊維質やのに、ミキサーでちゃんとできたん?」

「入れる前に小口切りに刻んだから大丈夫やったよ」



 後日、お寺の大黒さんに謝罪をすると、ホントに美味しかったようで、また作って飲んだとか。


「砂糖をハチミツにして、レモンを入れたらすっきりしてさらに美味しかったよ」


 来客用のレシピに加わえたというから驚きだ。思いつきのイタズラが素敵レシピの考案になるとはね。




 イタドリは、茎や葉に多くのシュウ酸を含んでいるため、生でたくさん食べると下痢の原因になるので注意が必要ですよ。




※1 しがむ・・・よく噛み潰すこと。

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