ノビル

「おかぁさ~ん! 見て見て! これ、食べれるねんで!」


 長男が小学校低学年だった頃のこと。新学期が始まって間もなく、ぱんぱんにふくらんだレジ袋を持って前につき出した。

 夕方遅くに帰ってくるのはいつものこと。背にはランドセルを背負ったまま、嬉しそうに袋の口を開けて中身を出してくれる。


「これ採ってて遅くなったん?」


 大量のノビルをテーブルに出そうとするのをとめて、ボウルにあけさせる。


「うん! めっちゃたくさん生えててん。おっちゃんが教えてくれてん」

「おっちゃんって? どこのおっちゃん?」

「知らんおっちゃん」


 知らんおっちゃんって……。

 長男は小さいときからこの調子で、通りすがりの人だろうが誰だろうが、身内と同じ感覚でおしゃべりして仲良くなってしまう。


「畑におってん。そんで、これネギみたいな匂いするって言ったら食べれるって教えてくれてんで」

「知ってるよ。ノビルやなぁ。お寺の子育てサロンで出してくれるご飯によく入ってたんやで」

「そうなんや! 知らんかった」

「そういえば土手とか、畦道とか、その辺に生えてるって言ってたなぁ」

 

 早速その晩、刻んで味噌汁の具と醤油和えにしてみた。


「うわぁ。これ美味しい! また探してくる!」


 長男はえらく気に入ったようで、どこからか採ってきては、庭の隅っこに移植してノビル畑を作っていた。



 ノビルは堤防や土手、畦道や畑の中によく生えている。雑草扱いされてるけど、実は美味しいんですよ。見た目はネギを細~くしたような感じで、ちぎったらネギの香りがするので他の草と区別がつきます。

 引っこ抜いて白い玉がついていたら、まさしくそれです。

 初めて食べた時から長男がえらく気に入って、畑のあちこちから集めては一ヶ所にまとめてノビル畑を作っていた。今はその畑も返してしまったので、今年またたくさん採ってきてもらって、家の周囲に植えてみました。たくさん増えるといいな。




 玉の近くで根っこを切って、薄皮があれば剥いて使います。ネギとはちょっと違う独特の味わいです。

 味噌汁の具にも使えるし、常備菜としても重宝します。

 葉っぱとともに刻んで味噌と混ぜるとか、さっと湯がいて酢味噌であえるとか。刻んで醤油漬けにするのもありだし、人参とか一緒に入れても美味しい。納豆と混ぜたり。あとは、天ぷらにバター炒め、かつお醤油、塩昆布あえ。結構何にでも使えます。

 収穫後、時間がたつと辛みがまして香りが薄れるので、取れたてが美味しいです。

 何より栄養価が高く、食物繊維やビタミンCが豊富というのが嬉しい。


 近くの空き地や原っぱにもあると思いますよ。探してみてください。

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