ヤブカンゾウの花

 七月に入ると百合に似たオレンジ色の花が、野辺に咲き始める。車を走らせていても目に飛び込んでくるくらい華やかな色だ。近寄ってみると八重咲のそれはとても綺麗で、よく摘んで帰っては活けていた。この可憐な花が実は美味しく食べられると知ったときは驚いた。



「花の根本でとるねんな」

「そうそう。後で分けるの大変やし、最初からそこで折ってくれると助かるわ」

「緑のとこ、固いからイヤやもんなぁ」

「咲いてるのと蕾は分けて袋に入れてね」

「わかってるって~」


 そう言いながらも持ち帰ってみると結構まざっていたりする。採るのに夢中になって間違えちゃうんだろうね。そう思って聞いてみると。


「間違えたんとちゃうで。途中でめんどくさくなるねん」


 う~ん、確かにね。でも後で分けるのも面倒なんだけど。

 そうか。最初から、花を採る子と蕾を採る子を分けておけばよかったんだな。



 このヤブカンゾウ、灰汁もなく処理しやすいうえにクセもないので食べやすい。開いた花も蕾も食べられる。ちょっぴりぬめっとしていてしゃきっとした食感がとてもいい。天ぷらやあえ物、炒め物、汁の具となんにでも使えるので重宝する。


「あえ物が一番美味しい!」

「シャキシャキするもんな」


 うちの子どもたちはしゃきっと感が一番でるのがお好みのようだ。




 私は美味しければいいのであんまり効能は気にしないけど、むくみの改善・便秘改善・不眠解消・精神安定・風邪の予防にいいらしい。滋養強壮によく毒消しや痛み止め、水分の排出などにも良いので、老廃物が溜まりがちな人はデトックスが出来そう。



 採ってきてそのまま調理するのもいいけど、蕾を蒸して乾燥させると金針菜という中華料理の材料になる。生のまま干してもいいと聞いたので、今夏お試しでそのまま干してみた。梅干しを干すときに使っている大きな竹ざるに並べると、ミニバナナがたくさん転がっているみたいでとても可愛い。蒸したのとどんな違いが出るのか楽しみだ。



 金針菜は、タンパク質、鉄やカルシウムなどの豊富なミネラル類、ビタミンA、B、C、カロテンなどのビタミン類、そしてアミノ酸の一種であるアスパラギン酸などの栄養分がバランスよく含まれているんだって。

 特に鉄分はほうれん草の20倍もの量を含んでいるっていうから驚きだ。



 ところで、春先にノカンゾウだと思って食べていた若芽は、実は大半がヤブカンゾウだった。ノカンゾウと教えてもらっていたのでそのまま覚えていたのだけど、花が咲いてみるとほとんどの場所が八重咲きだったのだ。食べる分には食べ方も栄養価もほぼ同じで、金針菜としてもどちらも使われるようなので特に問題はないけどね。


 花として鑑賞するなら、一重咲きがノカンゾウで八重咲きがヤブカンゾウです。

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