第10話 俺と絶望
木の上で寝るとどうしてこんなに体が痛くなるのだろうか?
俺は固くなった体を大きく伸ばしながらウロウロしていたゴブリンを弓で撃ち殺した。
つばさは枝に抱き着いて熟睡している。この子は本当に器用な子だと思う。木から落ちてミノムシ状態になっているのを笑ってやろうと思っていたのに残念だよ。
こっちに来たゴブリンを撃ち殺しながらつばさが起きるのを待っていると、森の奥から何かが飛び出してきた。
白い体毛を赤く染めたソレは俺達の標的であり、本来ならばもっと奥にいるはずの――
「あれはワーウルフ!? 何でこんなところにいるんだよ!」
ワーウルフは傷だらけで弱っている様に見えた。縄張り争いに負けて逃げてきたんだろうか? それともバカな冒険者が倒し損ねたんだろうか?
どちらにしてもこれはチャンスだ。ここでワーウルフを倒せばわざわざ森の奥に探しに行かなくて済む。俺はつばさを叩き起こした。
「むぅぅ…どうしたんですかぁ?」
「早く起きろ! ワーウルフが出たぞ」
念のために武器を装備したまま木の上に登って良かった。
俺はワーウルフに狙いを定めて弓を撃った。
「あわわわ! ワーウルフだ!」
「早く準備しろ!」
俺の攻撃を煩わしく思ったのか、ワーウルフは俺達の方に向かって唸り声をあげた。そして俺の攻撃を避けながらこっちに向かってくる。
「おい、揺れるぞ。落ちないように気を付けろよ」
「どういうことです?」
ワーウルフの武器は牙と爪だ。その力は強く、大木すら折ってしまうんだとか。
ギルドで情報収集してた時は大げさだと思っていたが、実物を見たらもしかしたらと思ってしまう。
ドガッ! ワーウルフの攻撃で木が大きく揺れた。折れはしなかったけど、それも時間の問題のような気がする。この木はあと何発の攻撃に耐えられるのだろうか。
応戦しようにもワーウルフの攻撃で木が揺れるから攻撃が定まらない。
「あわわわ、これ大丈夫なんですかね?」
「ダメかもな。俺が下に降りて攻撃するからお前はそのままクロスボウで援護してくれ」
木刀でどこまでやれるか分からないが、このままよりはマシだろう。
俺は木から飛び降りながらワーウルフの顔面に木刀を叩き付けた。思ってた以上に綺麗に決まってワーウルフが怯む。
「今だ! 撃ち殺せっ!」
「わかりましたぁ!」
俺がワーウルフから離れると同時につばさがクロスボウを撃った。俺の攻撃が効いているのかワーウルフは動かない。つばさが放った矢は吸い込まれるようにワーウルフの眉間に当たった。
ワーウルフがポリゴンになって消えていく。その場には毛皮と魔石だけが残されていた。
・・・
「まさかワーウルフがこんな浅い所に出るなんてなぁ」
ワーウルフが残した素材を拾いながら俺はそう呟いた。
本来だったらあと1ヵ月くらい準備してから森の奥に進む予定だったのに、それが無くなった訳だ。
そういえばワーウルフも倒したし、つばさとの師弟関係もこれで終わる事になるのか。1ヵ月とちょっとの師弟関係だったけど、結構楽しかったな。
「これ夢じゃないですよね? 私達ワーウルフを倒しちゃいましたよ!?」
「これで親御さんも説得できるわけだ」
「はい!」
まぁ、師弟関係じゃなくなったからって他人になるわけじゃないよな。
月謝は貰えなくなると思うが、別にダンジョンで稼いでいたあの頃に戻るだけだ。何も変わらない。
「じゃあさっさと帰るか」
「そうですね! はやくお風呂に入りたいですし!」
買い込んだ保存食は少しずつ使っていこう。これからはまた毎日ダンジョンに潜る事になるんだし、直ぐに無くなるだろ。
荷物を纏めて帰ろうとした時、ガサリと草むらが揺れた。
「なんだ? ゴブリン……じゃないな」
ゆっくりと草むらから出てきたのは3mを超える赤い巨人だった。
頭に角が見える事からオーガだと思う。大森林にはいないはずのモンスターだ。
バグなのか何なのか分からないが、とにかく勝てる相手じゃない事だけは分かる。
俺達が倒したワーウルフはコイツに追われていたのだろう。
オーガの手に持っているこん棒は赤く染まっており、それがオーガの強さを表している様に見えた。
「つばさ、逃げろ!」
「えっ?」
瞬間、こん棒が俺の横腹にめり込んだ。久々に受けた暴力は強烈で、俺は何も出来ずに転がっていく。
息ができない。頭が働かない。
そうだ、つばさだけでも逃がさないと。俺は師匠なんだから。
足が震える。立つことは出来ても走る事はできそうもない。
前を見てみるとオーガと俺を交互に見て戸惑っているつばさがいた。
何やってるんだよ。早く逃げなさいよ。
「おい、早く逃げろ! そんで助けを呼んで来い!」
「で、でも!」
「2人いても死ぬだけなんだよ! 早く行け!」
喋るだけで口から血が出るとか笑える。凄い痛い。
だから早く逃げろよ。お前が逃げたら俺も逃げるんだから早くしろよ。
時間くらいは稼いでやるからよぉ!
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