第4話 弓は良いぞ2
何だかんだあって俺はつばさを弟子にする事にした。
彼女の提示した条件が魅力的だったのもあるが、一番の要因は俺が彼女の境遇に同情したからだ。
何と彼女はまだ10歳らしい。学校の帰り道にトラックにひき逃げされて死んでしまったんだそうだ。
そんな少女が何でこの世界を選んだのか不思議だったが、なんでもCMで見たこの世界の昭和な雰囲気やダンジョンでの生死を賭けた戦闘が気に入ったらしい。
「何か、ここだと生きてるって感じがするんですよね!」
「いや、キミ死んでるからね。」
彼女の両親も心配なようで、この世界にいる為の条件ってやつを提示している。
当たり前だろう。誰だって我が子には安全な場所に居てもらいたいものだ。
「それで、その条件って言うのは何なんだ?」
「えっとですね、条件は1年以内にワーウルフの討伐です!」
無茶苦茶いうね、この子のご両親は。
ワーウルフはC級ダンジョンの奥地にしかいないモンスターだ。普通だったら一生戦わないし戦いたくないタイプのモンスターの代表である。
「1年でワーウルフとか絶対無理だからな?」
「むぅ! 師匠がいじわるです!」
別にこれは意地悪で言っているわけじゃない。この世界でワーウルフを倒してるやつなんて数えるくらいしかいないんだぞ?
もうこれ親御さん諦めさせる気しかないじゃん。金あるんだから他の世界行けよアピールが凄いわ。
「ヤダ!この世界が良いんだもん!」
「まぁ、できるだけは俺も頑張ってやるけどよ」
俺はつばさの頭をグリグリ撫でてやる。
おう、気持ちいいか? まだ親と暮らしてる年齢なのに死んじゃって寂しかっただろう? 俺を親だと思って存分に甘えるがいい。
「むぅぅ……何か師匠がヘンです」
うるせぇ。世界に残るための条件だからっていきなりC級に潜る奴の方がヘンなんだよ。
まぁ良い。取り合えず1年間は全力で行こう。まずはつばさに合った武器が必要だな。買いに行かねばなるまい。
「よし、武器を見に行くぞ! 付いてこい!」
「はい!」
・・・
――武器屋ガランガラン
ここは俺の行きつけの店だ。安くて頑丈なものが多くて気に入っている。
見た目がイマイチなものが多くて人気がないのもポイント高い。
客が少ないから伸び伸び選べるのは良い事だと思うんだ。
「つばさに合う武器は弓だと思うんだよな」
「弓ですか!? やだぁ、格好悪い」
なんでや弓は格好良いだろ。いい加減にしろ。
ほら、武器屋の店主の顔見てみろ、凄い顔してるから。
あの人の主力武器弓なんだからな。そんなこと言ったら可哀そうだろ。
ほら謝って! ちゃんと謝って!
「バカお前、弓は格好良いだろ。俺がお前を助けた時も弓だったじゃん。」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ、弓だよ。颯爽と助けただろ」
俺は弓の素晴らしさをつばさに最初からちゃんと教えてやった。
そもそも弓のどこが恰好悪いというのだろうか。
考えてみろよ、青年誌の漫画になると剣より銃の方が多く出てくるだろ?
あれは遠距離武器の方がクールで格好良いと大人たちが認めてる証拠なんだよ。分かれよ。
「そ、そうなの?」
「そうなんだよ。弓は格好良いんだよ」
大体お前な、ゴブリンと正面切って戦えるのかよ? 無理だろ。
俺には分かるんだよ。怖いだろ? 大丈夫、俺もそうだったんだから。
恥ずかしがらなくても良いんだよ。
「むぅぅ……」
俺が優しく諭すことでつばさも弓に興味を持ち始めた。
あと一息だ。チョロいもんだぜ。俺はクロスボウをつばさに手渡した。
「ほら、これなんかお前に良く似合うぞ?」
「むぅむぅ……」
手に取ったな。分かりやすいヤツめ。
そうだ、それで良い。後は予備武器で短剣も買っちゃおうね。
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