第2話 金と命とギルドと

 死後の世界といってもお金は必要だ。

 いや、むしろ死後の世界の方がお金は必要だったりする。

 オンラインゲームだと月額利用料金が掛かるものがあると思うが、この世界はそれと同じだと考えてもらえれば少しは分かるんじゃないだろうか。


 死んだ後に俺達は生前の貯金や保険金を電脳世界のお金として受け取ることが出来る。因みに俺の場合はこの世界に来たときに250万ほど財布に入っていた。


 これを元手に俺達は電脳世界を生きていく事になるんだが、この世界でひと月に掛かる利用料金は5万円と高額だ。

 何もしなかったとしても4年と少しで俺の第2の人生は終わってしまう事になる。


 救済措置なのかこの世界でも仕事はあるので頑張れば何とかなるが、死後の世界でも仕事をしないといけないとは世知辛いものだ。


 「さて、今日も行くか」

 「いってらっしゃい」


 机の上にコーヒー代を置いた俺はマスターに見送られて喫茶店を後にした。


・・・


 昭和の日本を再現した世界に溶け込んでいる平屋の建物、それが俺の仕事場だ。

 建物の入り口には大きくこう書かれている。


 【冒険者ギルド】


 俺がこの世界を選んだのは昭和のレトロな雰囲気が好きだっていうのもあるが、それ以上に仕事に困らないってのが理由だった。

 冒険者ギルドではダンジョンで倒したモンスターの素材を換金してもらえる。

 つまり、モンスターを倒せるやつは永遠に生きる事が可能って事だ。


 他の世界と違ってこの世界では痛覚が解除されていたり、殺されたらどんなにお金を持っていたとしても即ゲームオーバーになってしまう危険性があるが、上手くいけば永遠に生きられるってのは大きい。


 俺はお気に入りの帽子を深く被り直してギルドに入った。

 

・・・


 突然だがこの世界は電脳世界だから簡単に顔や年齢を変えることが出来る。

 肖像権の問題で全くの別人にはなれないが、自分の顔がベースなら弄るのは禁止されていない。


 何が言いたいかと言うと、この世界には美形が多い。荒くれ者の巣窟であるはずの冒険者ギルドですら宝塚のように煌びやかだ。


 そんな中で俺は死んだ時の外見そのままだったりする。

 俺は脳卒中で死んだんだが、その時はまだ死なないと思っていたので死後の世界の身体設定を弄っていなかった。

 その結果ボサボサの短髪と無精ヒゲが特徴的な30歳がこの世界に爆誕したわけだ。


 そんな俺が美形ばかりの冒険者ギルドで深く帽子を被りたくなる理由は分かってもらえると思う。

 整形チケットがあれば顔を変える事も可能だが、命と同価値のお金をそんな事に使う事はできないし、したくない。負けた気がするから。


 「C級ダンジョンの許可鍵を頼む」

 「あの、山田さんもそろそろパーティを組んだ方が良いと思いますよ?」

 「うるさいよ。俺は1人が気楽で良いんだ」


 多分心配して言ってくれたんだろう受付嬢は少しムッとした様子だったが、それ以上は何も言わずに受付をすませてくれた。


 利用料金と引き換えにダンジョンに入るために必要な鍵が受付嬢から渡される。俺はそれを持ってそそくさとギルドを後にした。俺がギルドを出ると、中から冒険者たちの囁くような声が聞こえてくる。


 「おい、何であの人はいつもソロで潜ってるんだ?」

 「知らねぇよ。何かポリシーでもあるんじゃね?」

 「しかし1人でC級ダンジョンとか凄いよな」


 冒険者ギルドでは何時も1人でダンジョンに潜る俺の話題が良く上がるらしい。

 ダンジョンなのに黒スーツと黒帽子の30代 。片手に木刀を持って進む姿は違和感しかない事だろう。


 「多分死ぬ前は武闘派ヤクザだったに違いない」


 それがギルドの冒険者たちが持つ俺こと山中 正弘の評価だった。

 俺の死ぬ前? 死ぬ前はブラック企業で働いてたよ。


 ヤクザじゃなくて悪かったな!

 こういうのは本人に聞こえないようにやってほしいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る