第3話 弓はいいぞ

 ダンジョンは死と隣り合わせの危険な場所だが、自分の実力に合ったランクのダンジョンに潜れば死ぬことは少ない。


 例えば最下級のE級ダンジョンは殆ど動かないスライムしか出てこない洞窟だ。

 動かないスライムを殴るだけのダンジョンで死ぬやつはいないだろう。


 低級のダンジョンでは入手できる素材も安いが、必死に頑張ればE級ダンジョンでも1ヵ月で1万円くらいは稼げると思う。この世界の利用料金には届かないが、死ぬのを遅らせる事は出来る。できた時間で特訓でもして強くなればいいのだ。

 

 ダンジョンにはギルドの隣にあるビルから入る事が出来る。

 ビルの中には無数の扉が並んでいて、そのどれかに受付嬢から貰った許可鍵を差し込めばその先はもう目的のダンジョンだ。


 俺が潜るC級ダンジョンからは人型モンスターが出てくるので難易度も跳ね上がるが、その分稼ぎが良い。それこそ嗜好品のコーヒーを毎日飲めるくらいには稼ぐことが出来る。


 C級ダンジョンは大森林と呼ばれている富士の樹海みたいなダンジョンだ。

 方位磁石が使えず、気を抜くと迷って帰れなくなるので入り口付近で狩りをする人が多いのが特徴だろう。


 このダンジョンの良いところは他の奴らとぶつかる事が少ないところだ。

 ボッチな俺には精神的に楽でいい。緑も多いし絶対マイナスイオン出てるよね。


 俺が使っている武器は基本的に木刀だが、大森林では弓を使う事が多い。

 何故なら弓を使うと楽だからだ。遠くから一方的に攻撃するのは誰でも癖になると思う。


 この世界ではゲームみたいなスキルはないし、魔法も金持ちにしか使えない課金アイテムだ。だから金がない奴や戦う技術がない奴は生き残る事ができない。


 俺が木刀や弓を使うのもそのせいだったりする。木刀は手入れをしなくても良いし何より安い。しかも固くて頑丈だから十分に凶器として使える。素人は取り合えず木刀使えばいいと思う。


 弓も木の上みたいな高い場所からなら一方的に攻撃が出来るからダメージを受ける心配がないのが良い。攻撃した時の嫌な感触がないのも好印象だ。


 俺は木の上によじ登ると双眼鏡を片手に辺りを見回した。

 C級ダンジョンのモンスターは群れで行動する奴が多い。

 だから俺みたいなソロは索敵を必要以上にやる必要がある。


 「誰か助けてくださいー!」

 「うわ、何か来る」


 木の上で獲物を待っていると、マヌケな冒険者がゴブリンに襲われて逃げているのが見える。


 ダンジョンに潜るのは自己責任だし無視しても良いんだが、ここで死なれては俺の目覚めも悪いし助ける事にした。

 しかし、なんで実力もないのにC級に潜るのかね。意味が分からん。

 

 「おい、助けてやるから全力で走れ!」

 「ひゃい!」


 俺はゴブリンに向けて弓を放った。

 ヘッドショット成功! 我ながら良い腕だと思う。

 3匹いたゴブリンは獲物である冒険者に夢中だったのもあって簡単に狩ることが出来た。


 「あ、ありがとうございます!」

 「別にいいよ。でも早くダンジョンから出た方が良い。アンタにC級は早いよ」


 助けた冒険者はまだ10代に見える女性だった。

 黒髪を後ろで束ねてポニーテールにしている所がポイント高い。

 俺はポニーが好きだ。そのままでも好きだし、家で髪紐を解いて髪をバサーってやるのも好き。つまりポニー最高。


 「あの、本当にありがとうございました!」

 「だから別にいいって。さっさと帰れ」


 俺が注意しても彼女は一向に帰るそぶりを見せない。

 このままだとまたゴブリンが来るんだけどな。こいつ死にたいのかな?


 「えっと、私、三上 つばさっていいます。あなたの名前は?」

 「俺は山中だ。いいから帰れよ」

 「や、山中さん! あの、私を弟子にしてくれませんか?」

 「いや、なに言ってんだお前? いやだよ。帰れよ」

 「弟子にしてくれたら月謝も払いますから!」


 善意で助けたら変な奴だった。どうしよう。

 追加でゴブリンが飛び出してきたので取り合えず木刀で撲殺する。


 「えーっと、三上さんだっけ?」

 「つばさって呼んでください!」

 「つばささんね。取り合えずダンジョンから出ようか」

 「もう!つばさでいいですよ、師匠!」


 あぁ、面倒くさい。

 取り合えずグイグイ迫って来るの勘弁してください。


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