第11話 私と師匠

 最初に師匠と出会ったのは森の中だった。

 あの時はゴブリンに襲われていた所を助けてもらったんだっけ。


 その姿が格好良くて、強引に弟子入りして色々な事を教えてもらった。


 師匠と武器や防具を選んだのは楽しかったな。露店市も楽しかった。

 筋トレは辛かったけど、師匠が色々考えてくれてるのが分かって嬉しかった。

 木登りが出来た時は2人で喜んだっけ。


 師匠は私の行動に呆れながらもツッコミを入れてくれて、それが私は嬉しくて。


 絶対に師匠を死なせない。今度は私が師匠を助けるんだから!


・・・


 あんなにいたモンスターが今はどこにも見当たらない。さっきのモンスターを怖がって隠れてるのかな? いや、今はそんな事考えてる時じゃないよね。


 町に戻った私はそのまま転がり込むように冒険者ギルドに入った。冒険者ギルドの中にはたくさんの冒険者さん達がいて、みんなが転がり込んできた私を不思議そうに見ている。


 「助けてください! 師匠が……正弘さんが死んじゃうんです!」


 私の言葉にみんな深刻そうな顔で集まって来てくれたけど、大森林での出来事を話したら申し訳なさそうに離れて行ってしまった。

 そりゃそうだよね、誰だってこんな危険な事には関わりあいたくないに決まってる。


 「ありがとうございました」


 私は一礼して外に出た。助けてくれないならそこに居ても意味が無いから。

 後ろから大勢の冒険者さんの謝る声や諦めるように諭す言葉が聞こえてくる。

 そんな言葉は聞きたくないよ。だって私は諦めてないんだから。


 次は師匠と一緒に行った場所で同じように助けを求めてみた。

 殆どの人は私の言葉に耳も傾けてくれない。みんな自分の事で精一杯で、他人の相手をしている余裕なんか無いんだろう。


 師匠に連れてってもらった武器屋の店主であるガランさんと服屋のマーシーさんは一緒に来てくれる事になったけど、その2人以外は残念ながら全滅だった。


 「この町で大森林で戦える冒険者は全体の半分以下だからね。断られても仕方ないさ」

 「でも、戦える人だっているはずなのに……」


 大森林はC級ダンジョンだ。もっと難しいダンジョンだってあるんだから、戦えないはずはないのに。助けてくれたら報酬だって出すのに。


 「大森林で戦えるだけの実力があるやつは大体この時間はダンジョンで狩りをしてるんだ。だから探しても見つからないと思う」

 「むぅ……」


 ガランさんとマーシーさんは少し前までB級ダンジョンに潜ってたらしい。

 お金に余裕が出来たから今はお店に専念してるみたいだけど、実力は折り紙付きだ。2人が一緒なら大丈夫かもしれない。


 ガランさんは大きな斧を、マーシーさんは鞭を使うみたい。その姿はお店にいた時と違って歴戦の戦士のようだ。

 私はきっと足手まといにしかならないと思うけど、だからこそせめて道案内だけは頑張らないと。


 「そろそろ行くか」

 「分かりました。じゃあ案内しますね!」


 待っててね師匠。今助けに行くから!


・・・


 あれから急いで師匠と別れた場所に戻ってきたけれど、そこに師匠の姿はなかった。


 戦った形跡があるから場所は間違ってないと思う。

 でも、いったいどんな風に戦えば木々が薙ぎ倒されたり地面が抉れたりするんだろうか? 


 「あそこにいるのはオーガか?」

 「オーガはB級ダンジョンの奥地に出てくるモンスターのはずなんだがな」


 私が師匠を探していると、ガランさんがモンスターを見つけて顔を強張らせた。同じようにマーシーさんの顔色も変わる。彼らの目線の先には私たちを襲ったモンスターがいた。


 あのモンスターがあそこにいるという事は、師匠もそんなに遠くには行っていないはずだ。早く見つけて助けないと。そう思って探すけど、どうしても師匠の姿を見つけることが出来ない。


 「あの、師匠がいません!」


 辺りを見回すけれど、師匠の姿は見当たらない。

 嫌な予感がする。もしかして、間に合わなかったの?


 「う、ウソでしょ……?」

 「あいつはしぶといから大丈夫だよ。」


 マーシーさんはそう言ってくれたけど、私の中で不安がどんどん広がっていく。

 オーガのこん棒は血で染まっているかのように真っ赤だ。

 あの赤は師匠の血かもしれない。


 「いや。そんなこと……あるはず、ないよね?」

 「つばさちゃん、落ち着いて。大丈夫だから」


 視界がゆがむ。手が震える。息が出来ない。頭がチカチカする。

 師匠が……ウソでしょ? そんなはずない。


 「つばさちゃん、落ち着くんだ」

 「そうだぞ嬢ちゃん。まだそうだとは決まってないだろう?」


 マーシーさんとガランさんが何かを言ってるけど、その言葉が私には分からなくて、頭に入ってこなくて。


 「ああぁああっつ!!」


 気付いたら私は叫び声を上げながらオーガに突撃してた。

 私がもっと早く来ていたら師匠は助かっていたかもしれない。私のせいだ。


 オーガの右目が腫れあがって死角になっている。あれは師匠がやったんだろうか? 師匠は1人で、こんな怪物と戦ったんだろうか?


 「よくも、師匠を!」


 私はクロスボウを構える。

 死角から撃った矢はオーガの左目を貫いた。


 「おい、無茶苦茶するんじゃない!」


 気付いたら隣にいたガランさんがオーガの右腕を斬り飛ばす。丸太の様に太いオーガの腕が私のすぐ横を転がっていった。ガランさんが助けてくれなかったらあの右腕は私に当たっていただろう。


 「そんな戦い方じゃ死ぬぞ!」

 「でも、でもっ! 師匠が、ししょうが!」


 マーシーさんが私の服を掴んで後ろに下がっていく。

 待ってよ、これじゃあ師匠の仇がとれないじゃない!


 「オーガは強力なモンスターだが、勝てない相手じゃないんだ。さっさと倒して正弘を探すぞ」


 ガランさんはそう言ってオーガの左腕を斬り飛ばした。

 ガランさんとマーシーさんは強くて、私は足手まといでしかなかったけど、それでもオーガを倒すことはできた。


 それから私たちは日が暮れるまで師匠を探した。

 何処かに隠れているはずだからと隅々まで探してく。だけど、いくら探しても師匠を見つける事はできなかった。

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