第12話 そしてここから


 「どこだっけ、ここ?」


 知ってるけれど、知らない天井だ。

 なんか喉まで出かかってるんだけど、どこの天井だったか思い出せなくてモヤモヤする。


 「俺は確かオーガと戦って……」


 うろ覚えだけど勝てそうもないから逃げたんだったな。

 どうやら俺はあのオーガから逃げ切れたらしい。

 この寝心地が良いベッドがその証拠だ。


 「おぅ、正弘。ようやく起きたみたいだな」

 「山田じゃないか! お前が助けてくれたのか」

 「お前な、山田じゃなくてバロックって呼べっていつも言ってるだろ!」


 この金髪の名前は山田あらためバロックだ。

 一時期は一緒に行動したこともある男で、今は食堂を開いていたはず。

 あぁ、見覚えがあると思ったら、ここはバロックの食堂にある仮眠室か。数回しか入ったことがないのに覚えてるもんだな。


 「久しぶりだな。店は繁盛してるのか?」

 「まぁまぁだよ。お前も最近凄いみたいじゃないか。客がよく噂にしてるぜ?」


 なんでもロリコンに目覚めたとか、美少女に無理やり筋トレさせて高笑いを上げているとか噂になっているらしい。半分以上当たってるので文句が言いずらい所だ。


 「しかし、慎重が売りのお前がどうしたんだよ? そんな大ケガするなんてさ」

 「いやな、大森林を探索してたらオーガに襲われたんだよ」

 「マジか。じゃあ客の言ってたことは間違いじゃないんだな」


 何でも2日前に少女が冒険者ギルドに助けを求めてきたらしい。

 良い返事がもらえないとなると直ぐに出て行ったみたいだが、その時に俺の名前が出たんだとか。


 「その子がお前の弟子なんだろ? 俺も広場で何かやってるの見たぜ?」

 「多分そうだな。それからどうなったか知ってるか?」

 「俺は食堂が忙しかったから詳しくは分からんが、ガランとマーシーが手伝いに行ったみたいだ」


 ガランとマーシーか。あいつ等が一緒なら死ぬことは無いだろうし、一安心だ。

 あとでお礼を言いに行かないと。


 「それで、あの騒ぎはお前が原因だったりするのか?」

 「人聞きの悪い事を言うな。俺も原因だったりするが正解だ」


 つばさは俺を助けようとして人を集めてたんだろうし、8割くらいは俺が原因かもしれないが、全部が俺のせいって訳じゃないだろ。

 しかし、ある程度戦って普通に逃げてきちゃったけど、それなら限界まで戦ってた方が良かったのかなぁ。


 いやいや、結構限界だったし。あと一歩遅かったら死んでたし。

 実際にどうやって町まで帰ってきたか覚えてないもんなぁ。


 「じゃあやっぱりあの【正弘さん捜索願】ってお前の事だったんだな」

 「なにそれ?」

 「いや、俺も客から聞いて知ったんだけどよ。昨日の夜からギルドの掲示板にお前の探索依頼が出されたんだよ。」


 何でも俺を見つけた人には10万円が支払われる事になってるとか。

 賞金が出てるのかぁ。なんか外に出るのが怖くなってきたなぁ。


 「10万とは大金だな」

 「そうだろ? だから昨日の内にお前の事をギルドに報告しといたわ」


 そうかー。まぁ、10万貰えるならそうするよね。

 理解は出来るけど納得はしたくないな。


 「だからそろそろ依頼主であるお前の弟子が店に来ると思うよ」

 「マジか」


 そう言えばさっきから外が騒がしい気がする。なんか嫌な予感がするなぁ。

 あの声はつばさか? それにガランとマーシーもいる感じか。


 「師匠っ! 生きてますかぁ!?」

 「嬢ちゃん、ちょっと声を抑えろ! 恥ずかしいから!」

 「つばさちゃん、みんな見てるから! もうちょっと落ち着こう、な?」


 窓からそっと覗いてみると今にも店に入ってきそうなつばさを必死で抑えているガランとマーシーが見えた。

 野次馬もそこそこいて、出て行ったら俺も晒しものになるのは間違いない。


 「バロック、頼みがある」

 「あぁ、あの3人だけ中に入れれば良いんだろう? 任せときな。お前は客席にでも座ってなよ」


・・・


 バロックが扉を開けた瞬間に転がり込んできたつばさを見た時は逃げようかとも思ったが、現実はそう上手くいかないようだ。


 その後は大変だった。つばさは涙と鼻水を垂らしながら俺に飛びかかって来るし、しばらくしたらそのまま寝ちゃうし。それを見ていた外野には生暖かい目で見られるし。


 まぁ、ここまで好かれるって事は生きていた頃もなかった事だし嬉しいけどさ。


 「オーガを倒したんだってな。お前は凄いよ」


 俺はそう言って眠っているつばさの頭を撫でた。

 こいつはきっとこれからもドンドン強くなって行くんだろうな。それこそ俺なんか足元にも及ばないくらいに。

 

 「みんなもありがとう。つばさを助けてくれて」


 ガランとマーシーがいなかったら多分つばさは死んでいただろう。

 そう考えると感謝してもしきれないな。


 「別にいいよ。それよりお前が生きてて本当に良かった」

 「本当だな。昨日までの嬢ちゃんを見せてやりたいわ」


 ガランとマーシーの話では、昨日までのつばさは昼夜問わず1人でも大森林に行って俺を探し続ける勢いだったらしい。


 「あれは見ていて痛々しかったなぁ…」

 「泣きながら行かせてくださいとか言われるのは辛かったよ…」

 「何かスマンかったな」


 つばさの方を見てみると何か顔が真っ赤になってる。

 こいつ、起きてやがるな。後で思いっきり弄ってやろう。


 まぁ、何にせよみんな無事でよかった。生きてりゃ何とかなるもんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る